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NYが舞台のオススメ洋書「オギー・レンのクリスマス・ストーリー」ポール・オースター著

NYブルックリンを舞台にした、ちょっと切なくもほんのり心が温もるクリスマスのお話をご紹介します。短いけれどオリジナリティに溢れる大人のためのクリスマス・ストーリー。特にニューヨークの空気感が好きな人におすすめです。

「オギー・レンのクリスマス・ストーリー」ポール・オースター著
(Auggie Wren's Christmas Story by Paul Auster)

これは少し変わった手法の本です。

ポール・オースター本人が、出版社からクリスマスを題材にした短編小説の執筆を依頼されるも、何も面白そうな話が思い浮かばない。困っていると、行きつけのタバコ屋の親父のAuggieさんがとっておきのいい話を提供してくれた……そんな展開です。つまり、一般人に聞いたお話を本人許諾で本にしたってことです。

あらすじ

(Auggie氏の語り口調でやってみます)
ある日タバコ屋で店番してたらよ、黒人のガキがエロ本を万引きしやがったんだ。思わず「こらっ!てめ~!」と叫ぶと、そいつ、走って逃げやがった。俺は追いかけた。だけど10代のガキとこの親父じゃ勝負になんねえ。やつに逃げ切られた。ところがだ。やつ、あんまり必死で走ったもんだから、財布を落としていきやがったんだ。俺はそれを拾って中を見た。そしたらな、子供の頃の写真かな、何かのトロフィー持ってニカって笑ってるボロボロの写真とか入っててよ、怒る気が失せちまったんだ。その日はちょうどクリスマスだったから、良き行いでもしておこうかと思って、財布に入ってた身分証の住所に財布を届けに行ったんだよ。貧困層が住む地域のアパートの一室だった。ドアをノックすると「〇〇かい?」という声がして、俺は思わず「ああ」って返事しちまった。するとドアが開いて、次の瞬間、俺は盲目のばあちゃんにハグされてたんだ……

映画「SMOKE」のこと

あらすじを書きましたが、実は私は「Auggie Wren's Christmas Story」を本としては読んだことがないのです。なぜ語れるのかと言うと、この物語はとある映画の中で、文字通り「物語を語る」という体で語られるのです。ポール・オースターが脚本を手掛けた「SMOKE」という1995年の映画です。私もう50回近く観ている大好きな映画ですので、映像で見ている分、鮮明に記憶に残っているわけです。

映画のストーリーは、このクリスマスストーリーとはほとんど関係ないのですが、ブルックリンが舞台の「SMOKE」は、主人公がAuggieというタバコ屋の主人(ハーベイ・カイテル)、そしてそのタバコ屋の常連客ポール・ベンジャミン(ウイリアム・ハート)です。「ポール・ベンジャミン」というのはポール・オースターの初期のペンネームですので、もう本人想定ですね。

彼ら二人と、ある黒人少年(エロ本泥棒ではない)、自動車修理工(フォレスト・ウィティカ―)、Auggieの元カノ(ストカ―ド・チャニング)らのそれぞれのお話がオムニバスのように展開しつつ絶妙に絡み合うという、味わい深い映画です。

心に残るエピソードがいっぱいつまったアーティスティックな秀作映画です。

……と、このnoteは映画の紹介ではなく本の話でした…(汗)

書き出し

ストーリーの冒頭部分のご紹介をします。

I heard this story from Auggie Wren. Since Auggie doesn't come off too well in it, at least not as well as he'd like to, he's asked me not to use his real name. Other than that, the whole business about the lost wallet and the blind woman and the Christmas dinner is just as he told it to me.

("Auggie Wren's Christmas Story" Written by Paul Auster)

この話はオギー・レンから聞いた。オギーは、この話の中では自分がそうあった欲しいと思うほどにはいい印象で登場しないので、本名は使わないでくれと言った。それ以外は、落とし物の財布の件も、盲目の女性も、クリスマスのごちそうのことも、出来事は全部彼が話してくれた通りだ。

おまけ

一般人Auggieさんのお話を本人許諾で本にした……と説明しましたが、実はPaul Austerはこの手法を使ってほかにも本を出版しています。

もしかすると、たまたまこの一般人であるタバコ屋の主人が語るお話に出会ったことで、「一般人には一般人の数だけ素敵なストーリーがあるんじゃ無いか」と考えられたのではないかと思います。

ご本人はラジオ番組を持っておられ、一般人からショートストーリー(実体験のみ)を募って朗読するという企画をされていました。それは本にまとめられ出版されました。Audibleも出ていてやはりPaul Austerご本人がすべて朗読されています。1分にも満たない話から少し長めのものまでさまざまな一般人の体験談や思い出が収められていて、これもまたとても面白いです。

英語学習に焦点を当てている教材バージョン。もちろん和訳も載っています。


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