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拾遺家紋怪異譚「紋霊記」

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家紋には人の心が宿るという。 紋師と呼ばれる男と謎の少女と謎の猫がとりまく家紋と怪異の物語。 「紋霊記(もんりょうき)」 家紋をテーマとした小説。オムニバスでおくる家紋のお話。
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『紋霊記』序章「私はナニモノなのだろう」

私が私として私を認識したのはいつのことだったのだろう。 無限にも思えるほどの過去にも思えるし、つい先ほどだったような気もする。はたまた未来の出来事を見ているだけなのかもしれない。胡蝶の夢だったか。蝶が見ている夢かもしれない。何処かで誰かが私を作り出しているだけなのかもしれない。ではそれを作り出している存在の意識とはなんだろうか。連鎖。結び。繋がり。元はなんだろうか。元の中には何があるのだろうか。 そもそも私という存在は何なのだろう。どんな存在なのだろう。この世界にとって私は何

『紋霊記』その壹「守りの気づき」 no.01

そうか、あなたが私を、私たち家族をずっと守ってくれていたんだね。 「お母さん! また四つ葉のクローバー見つけたよ! これで私幸せになるかな!?」 私の家は特別大きくもなく、特別良い家柄とかでもなく、ごくごく普通の家だったと思う。 そんな家だけど、家の裏にはほんの少しのスペースの庭がある。 庭と呼ぶには小さすぎるかもしれないけれど、子供の頃から、そこで遊ぶことが大好きだった。 遊ぶといっても大したことは出来ないし、そこに生えている植物を見て楽しむ程度だったと思う。でも、私

『紋霊記』その貳「紋に宿るは思い也」no.02

奇妙な出会いをした。 これを出会いと呼ぶべきかどうかは少々疑問でもあるけれど、これは私にとっての分岐点だったということは間違いない、と今になって思う。 もう何年前だっただろう。その日、私は京都に一人で観光に来ていた。何度目かの京都だったが、一人で来るのは初めてだったし久しくもあった。 午前中は清水寺から八坂神社にかけて見てまわった。一人で見る京都はなぜだか印象が違っていた。それに一人だと誰かに合わせる必要も無いので、じっくりと見てまわることが出来るし、今まで気づけなかったこ

『紋霊記』その參「僕がそれを家紋だと知った日」no.03

今年の夏も家族のみんな、お父さん、お母さんと弟と四人で墓参りにやってきた。 京都市内の観光地で有名な東山にある大きな墓地。大谷墓地というお墓だ。 このお墓の上には有名な清水寺がある。二寧坂や産寧坂は観光客でいつもごった返しているけど、お墓への参道はほとんど人がいない。地名とか僕はあまり知らないので親に教えて貰った、というか言っていたのを聞いてただけなんだけど。 学校なんかでも教えてくれない。時々先生が京都のことを話してくれることもあるけど、それは少し脱線した話なので、勉強とい

『紋霊記』その肆「宿る心」no.04

曰わく。 日本には八百万の神々がいるという。 八とは八方向の方角を示し、万とは全てを示す言葉でもある。つまり全ての方向、あらゆるもの全てに神々が宿っているのだと日本では考えられてきた。 神々にはそれぞれの特性がある。例えば川、山、風、火、地などなど様々な自然現象は人が抗えぬモノであり、説明出来ないものであった。人々はその説明、辻褄を合わせるために神を作り上げた。擬人化した。 例えば付喪神(九十九神)という考え方があるが、これは古びた道具にも魂が宿るというもの。 『百鬼夜行絵巻

『紋霊記』その伍「家紋と京都と阿吽」no.05

キミが始まりなのだとしたら、僕は終わりなのかもしれない。 永遠なんて存在しないからね。 「本当に私にも視えるようになるんでしょうか。。。」 京都市内のとある路地奥にある京町屋をリノベーション(そんな気取った言葉ではなく、最近の言葉で言えばDIYした程度)した事務所「家紋相談事務所」。 二階建ての古い民家。取って付けたような雰囲気でしかないその一階が事務所である。 築80年と、そこそこ古い町屋であらゆる場所が痛んでおり、直せるところはなるべく直した、その程度のDIYである。悩