中二病だと思っていた幼馴染、マジの英雄でした(3)
前回。
スキありがとうございます。
カバンを揺らしながら、帰路を駆け足で進んで行く。
校門を通りすぎるまで、まだ空は紫色だったのに、通学路に入る頃には真っ暗になっていた。
誰も居ない帰り道を通るのは、これが初めてではないけれどやはり暗い事も誰も知っている人が見えないというのは心細く感じる。
幸い、道路からせわしなく聞こえて来る車の音とライトのおかげで、少しは気が紛れるけれど――。
ローファーが擦り切れそうな程走ったおかげで、ふくらはぎが痛い。
部活で帰りが遅くなることが多いからって、親と相談して門限を譲歩してもらって7時にまでしてもらったのに。
あぁもう憎むべきは我が部員! その怠慢を許す部長――! だなんて思えない辺り私も甘いなぁ、なんて。
自嘲と呆れ、それを駆け足で置いていくように進んでいくと、ぽたぽたと雨が降り始めた。
傘持ってないこんな時に、今日は厄日みたいだ。
幸いにしてそろそろ、家の近くに入る筈なので傘は要らないだろう。
そう思っていた時。
家の屋根を、飛ぶ人影が見えた。
見間違えだろうか。
ひょっとすると、空き巣が逃げているのかもしれない。
こんな雨の中じゃ、足も滑るだろうに。
そうだ、こんなに遅れた腹いせついでの成敗だ。
どうせ門限は過ぎちゃうんだし、むしろ空き巣がどんな人でどこへ逃げようとしていたか位は突き止めて警察に通報してやる。
そうときまれば、とカバンの中からスマホを取り出して、屋根の辺りを撮影しようとすると、思わずスマホを落としてしまった。
その影は、私のよく知っている人の物だった。
伊吹――何してるの?
落としたスマホを再び向けながら、どこかへと走り去っていく伊吹を、揺らぐ画面越しに追いかける。
雨粒がかかっても、知っている人物がこんな時間に、あんな場所で見かけたら追いかけもしてしまう。
そんな時だった。
「ねぇ君。何してるの?」
少女とも、少年ともつかないような声が正面から聞こえて来た。
振り返ると、そこには深く黒いフードを被った子供が立っていた。
身長は大体150㎝以上で……ほぼ小学校高学年か、中学一年目といった所だろうか。
只今限定で、自分が言えたクチではないものの、君こそ何してるんだ――と出かかった喉を抑えて返す。
「今人を追っかけてるの。君、ここの近く? だったら早くおうち帰った方が良いと思うけど」
「? あは、面白い事を言うね君。帰るだなんて」
そう子供が返すと――突然、空が鳴り始めた。
雷だ。
その音は激しく、どうやらこの地域に激しく降り注いでいるみたいだった。
雷鳴轟く、雨の闇夜に強風までが次にやって来る。
風は、私の足が震えて肩に下げていたカバンが激しく揺れる程だった。
嵐の警報なんて、聞いてないのに!
あまりの風の強さに目を一瞬閉じて身をよじらせながら、一歩ずつ進んで、子供の横を通ろうとして、また目を開けた時。
これだけの風の中なのに、子供は全く微動だにしていなかった。
それどころか、頭の部分が震えて、徐々にそれを強めていき、ようやくソレが、どんな感情で今ここに立っているかが解った。
子供のフードが取れた時、それが確信に変わる。
笑っていた。
中身は白に紫の混じった髪色に、酷い隈のある、金としか形容できない輝きの瞳を持つ子供だった。
「あはははははは! わざわざ帰るものか! やっと受肉したんだ。楽しまなければ損だろう……? まずはこの地に、私の名を轟かせようじゃあないか。誰が主人か、誰が支配者かを思い出させよう、この世界も!」
「何言って……!」
中二病、流行ってるの?! SNSのトレンドにも無かったんだけど!?
ツッコミたい所だったのが、その感覚すら忘れさせられるような出来事が起こる。
子供が手を軽く振り上げると、風が下から吹き上げてきた。
風で、私の足は地面からどんどんと体が回転しながら離れていく。
嘘だと思った、けど感覚からしてもどう考えても下から風が吹き上げているとしか思えなかった。
「驚いたか? かつては雷鳴と嵐の奏者と呼ばれたものだけど、どうやら20%程度の力しか戻っていないらしいね。依り代のせいか? しかし、肉体と精神は共に親和性が高い筈なんだけどな」
「きみ! こんな事して何になるの!? これ君のせいなら助けてよ!」
「阿呆。奴が居ないのなら恐れる事は無い。冥土の土産に教えてやろっか」
下で、にたりと笑う少年。
腕をかき回すような仕草を見せると、ゴロゴロという雷の音が鳴る。
嫌な予感がして、上を見上げると信じられない現象が起きていた。
雷が渦巻き、雷自体がまるで空でとぐろを巻く竜のような形になっている。
絵巻物や東洋の神話にある龍を思い出す様だが、知性ある龍というよりも、破壊的な力を持つ竜を思わせる。
災害の竜王――台風、タイフーンの語源になったのは、そんな怪物だったか。
だとしたら、まさにそれを目撃しているかのようだ。
雷を操っている分、ゼウスすら征服したかのよう。
そんな知識を思い出して、猶更畏怖と恐怖が交錯する。
「私の、故国での異名。恐れられた名は――」
「破滅の帝王、だな」
声が、割って入る。
轟音に混じったのは、聞き馴染みのある声だった。
次の瞬間、誰かに抱かれたような感覚がした。
何かに抱かれたと思えば、腰から下に一瞬揺れたような感触がして、上を見上げると――そこには眼帯を外した伊吹の姿があった。
「さやかには、知られたくなかったんだけどな」
久しぶりに見る、ようやく見れた伊吹の片目は変わっていた。
片目は相変わらずの、優しい瞳で。
深緑の、まるで爬虫類みたいな瞳になっていた。
けれどその、優しい目つきと顔つきだけは、変わっていなかった。
こんなに近くで見ないと解らないなんて、いや、ずっと近くに居てこんなことまでされないとわからないなんて。
けど、それだけに納得が出来なかった。
パニックになってるから? 関係ない。
――――どうして、知られたくなかったの?
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