俳優は日々なにを訓練すべきか?
ピアニストは毎日ピアノを弾いて運指の練習をします。 野球選手は毎日バットを振ります。
漫画家は毎日ペンを握って線を引くし、シンガーはボイストレーニングをします。
では俳優は?
・・・と聞くと「映画をたくさん見てます」という言葉がよく返ってくるんですが・・・いやいやw。
ピアノのCDを何千枚聴いてもピアニストにはなれないし、野球の試合を毎日見てても野球選手にはなれないし、漫画を何万冊読んでも漫画家にはなれませんよね。
イマジネーションだけでなく、具体的にピアノを弾く技術を磨かなければ、具体的に野球の技術を磨かなければ、具体的に漫画を描く技術を磨かねば・・・技術を身体に叩き込まねばプロにはなれないですよ。
では俳優は具体的にどんな技術を磨いて、身体に叩き込むべきなんでしょうか?・・・これがじつは誰に聞いてもハッキリしないんですよねーw。
舞台稽古では発声とか筋トレとか走り込みとかみんなでいろいろやったりしますが、それは演技そのものの技術とは全く関係ないですからねー。俳優の日々のトレーニングについて書かれた「これだ!」って本もないよなー・・・とか日々思ってたら、YouTubeで大きなヒントになるような動画を見つけました。
元ジャンプ編集長の鳥嶋和彦さんのインタビューです。
Dr.マシリトですねw。「売れる漫画家になるためにどんな訓練をするべきか」について語っているんです。これちょっと見てみてください。「どんな技術を身体に叩き込むべきか」の話題は1分20秒くらいからですが、この動画20分全部面白いのでお時間ある方はぜひ全部~☆
なるほど。
鳥嶋さん曰く「あきらかに才能ある漫画家でも3年は修業が必要だ」と、あの鳥山明でも『Dr.スランプ』を描けるようになるまで2年かかったと。 うひゃ~w。
なぜそんなに時間がかかるのか?それは「お客に伝わるもの」を表現するには高度な技術が必要だから。 その技術「漫画の文法」を身体に叩き込むのに1年半かかるのだと。 そして残りの1年半はその「漫画の文法」を使って「キャラクターのテスト」をする。
自分が表現できるキャラクターの中でお客に伝わるもの、喜んでもらえるものは何なのかをテストする作業が延々1年半(鳥山明はこの2年間で500枚ものボツ漫画を描いたそうです。500枚!!!)・・・これを編集者と漫画家が3年間、二人三脚でやり続けるのだと。
ああ、なんてビジョンが明確なんでしょう!・・・そしてこれ俳優にもバッチリ当てはまるじゃないですか!そして映画監督にも・・・やっぱ鳥嶋さんスゲエ。これを俳優のいろいろに置き換えてゆくと・・・。
キャラクターテストが必要・・・これを俳優で言うと「自分はどんな人物を演じられるのか」「自分はどんな感情を演じられるのか」ですよね。自分自身の肉体と心でいろいろ試行錯誤してみて、なにが喜んでもらえるのかを延々とテストするわけです。ようするにコレ「自分がこの自分の肉体と心で表現できる人間の魅力を探す」という作業ですね。すると思いもよらない意外なところで自分の才能が開花したりするらしく。。。
そういえば名優・渥美清さんもあの当たり役「寅さん」の演技に辿り着くまで俳優を始めてから20年かかったそうです・・・なるほど、とにかくそれは一生続けるとw。
でも、その前に「漫画の文法」を身体に叩き込む必要がある・・・これを俳優で言えばそれは「演技の文法」であり「映画の文法」や「舞台演劇の文法」ですよね。どのような技術をつかって演じれば観客にストーリーや人物・感情が伝わるのか、観客を感動させることができるのか。
この文法・・・俳優の場合、具体的に次の3つの技術で構成されていると思います。
それは「脚本の読み方の技術」「カメラの映り方の技術(舞台での見え方の技術)」そして「人物表現・感情表現の技術」です。
「脚本の読み方の技術」
俳優はストーリーを作る必要はありません。が映画全体の、そして出演しているシーンのエモーションの流れを完全に理解してコントロールする必要があります。そのために必要なのがまず最初に「脚本を正しく読み込む技術」です。
脚本家の意図を正しく理解し、演出家の意図を汲みながら、俳優は映画スタッフ「俳優部」の一員として撮影部・照明部・演出部と一丸になって映画を産み出すのです。
自分の役の事だけを考えるのではなく、映画全体を俯瞰し、そのために自分は具体的に何をどう演じるべきなのかを脚本から読み解く技術を習得する・・・これが全ての第一歩になります。
「カメラの映り方の技術(舞台での見え方の技術)」
映画俳優はカメラにどう映るかが勝負です。どんなに魅力的な演技をしても効果的にカメラに映っていないと意味がありません。そのために映像の俳優はじつはカメラワークを勉強する必要があります(!)。
実際ボクが知ってる良い俳優さんはカメラワークに詳しい人が多いです。彼らは「あそこにカメラがあるということは今このサイズで撮影されていて、だとするとこう演じるとうまく伝わる」とか普通に理解した上で演じています。 これを学ぶには映画を観たり技術書を読んだりするのも必要ですが、現場でカメラマンの動きをよく観察しましょう。そして完成した画を見て、カメラマンの動きから最終的な画の見当がつくようになりましょう。俳優は現場でカメラマンと呼吸を合わせて演じられるようになることが大切なのです。
あと撮ってもらって、見て、反省してもう一度撮ってもらって、見て、反省して・・・というトライ&エラーのできるタイプの演技ワークショップとかもオススメです。
「人物表現・感情表現の技術」
これはズバリ演技法です。人物を表現するにも、感情を表現するにも、じつは様々な方法があります。本屋の演劇コーナーに行くといろんな演技法の本が売ってますよね。
ただボクが思うに、映画は時代を映す鏡なので、演技法もその時代時代の人間の人物像や感情や気分を演じるのに最適になっています。たとえばメソード演技でも、いま映画館でかかってる最新の映画の演技で使われているメソードは、本屋で売ってる1960年代とかに書かれたメソードの本のメソードと同じではありません。いまのはもっと複雑に進化したメソードです。本に書かれた技術は古いのです。
最新式の演技法の本…は出版されていないので(理由はわかりますよねw)、それを教えてくれる人を探すか・・・それか独学しましょう。最新の映画を何度も注意深く観ればそのヒントがたくさんあります。
2018年の人間・・・自分や、自分の友達や家族、職場の同僚、そんなリアルな現代の人間たちの人物像、そして彼らの感情や気分を演じられるような新しい演技を身につけましょう。
現場ではフレッシュで瑞々しい俳優がいつも求められています。
そして最後に、鳥嶋さんのインタビューにはもう一つ重要なポイントがあります・・・。
それは「編集者と漫画家が二人三脚で」それに取り組むのだ!という点です。客観的に自分を分析・評価してくれるトレーナーが必要だということですね。
最近のハリウッド俳優には必ず演技トレーナーがついていて、映画の演技に関して俳優とトレーナーが二人三脚で試行錯誤をしながら演技を産み出しているそうです。アスリートみたいですよね。てか現代のアスリートには必ずトレーナーがついていて必ず二人三脚でやってますよね、あれなんです。
この「演技トレーナー」というシステム、日本ではまだあまり無いんですよね。ジャニーズとか超大手芸能事務所には専属の演技トレーナーがいるようですが・・・。
鳥嶋編集者あっての鳥山明だったわけです・・・二人三脚の相手を見つけましょう。
劇団の俳優ならそれは演出家だったりしますね。映画監督でも何作品も一緒に作品を作り続けているうちにそんな感じになったりしますよね。
映画監督の方だって二人三脚で映画に取り組んでくれる俳優を探しているものですよ。黒澤明と三船敏郎みたいに、伊丹十三と宮本信子みたいに、フェリーニとジュリエッタ・マシーナみたいに。
しかし鳥嶋さんのインタビュー、面白いなあ。
やはり飛びぬけて頭イイ人の考えてることは面白い、そして勇気を与えてくれる、未来を照らしてくれる。 このインタビュー動画、シリーズで4本あがっていてどれも興味深いので、ぜひぜひ~☆
小林でび(でびノート☆彡)
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