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アル・パチーノ 吹き替えました。

日本語吹き替えの演出をボクが担当しました、アル・パチーノ主演(!!!)の映画『ブロークン 過去に囚われた男(吹替版)』がAmazonプライムで公開されました☆

最近じつは外国映画の吹き替えのディレクションをやったりしていて、この映画『ブロークン』は2作目なんです。
もともとボクはアル・パチーノの大ファンで超尊敬していたので、アル・パチーノの(日本語吹き替えの)演出ができるなんて夢のような時間でした。そして結構自信作です。

アマプラ会員の方は無料で見れます!
この自宅待機の日々のお供に!ぜひ。

click!!!→『ブロークン〜過去に囚われた男〜(吹替版)』

パチーノの老いた演技、なんでこんなに瑞々しいの???ってくらい最高なので!

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もともとボクは吹き替えで映画見るタイプの人じゃなかったんですよ。最近のハリウッドやヨーロッパの映画を吹き替えで観ちゃうと、映画のエモーションが単純化されてしまう感じがして・・・表現のコントラストが強くなって、微細な感情の揺れみたいなものが消えて無くなっちゃうからなあと思ってたんです。

そんなボクだったんですが、年末に外画吹き替えをやってる会社の社長さんとお会いする機会があって、その方がこのブログ「でびノート☆彡」を読んでくださっていて(ありがたや☆)、でこんな事を相談されたんですよ。

「いかにも吹き替えっぽい喋りではない吹き替えを作りたいんです。その外国人の俳優さんが普通に日本語でセリフを喋ってる感じの『自然な吹き替え』を作りたいのですが・・・どうしたらよいのでしょう・・・てゆーかディレクションやりませんか?」って。

「マジすか」と答えた記憶があります(笑)。

でもね、その時思ったんです。
ボクは最近の映画の洋画の吹き替えはあまり好きじゃないけど、よく考えたら70年代〜80年代は洋画の吹き替えって大好きだったなあと。
ジャッキー・チェンの映画や『ミスター・ブー』『霊幻道士』シリーズ、モンティ・パイソン。クリント・イーストウッドの映画、シュワルツェネッガーやスタローンの映画、あと『48時間』や『ビバリーヒルズ・コップ』などエディ・マーフィーの映画とか、

70年代〜80年代の日本語吹き替え版ってどれも最高だったじゃないですか。なのになんで2010年代の外国映画で吹き替え版が最高!っていうのあまり無くなっちゃったんだろう?と。

これもしかして、ボクがいつも言ってる演技法の変化の歴史と関係あるのではないか?とハタと思いまして・・・だとしたら2010年代の映画の表現にフィットする吹き替えの表現もあり得るはずだ!と思ってこの仕事をお受けしたんです。
だってそんな日本語吹き替えだったらボクも見てみたかったから!

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で、吹き替えのディレクションの第1作目が『フライト・ホステージ(吹替版)』というクライム・アクション映画。
click!!!→『フライト・ホステージ(吹替版)』

で、続いての第2作目がこの『ブロークン 過去に囚われた男(吹替版)』なのですが、

とにかくアル・パチーノの演技が凄い。

あんなにキャリアが長くて『ゴッドファーザー』『セルピコ』『狼たちの午後』みたいな70年代を代表するようなメソード演技で一世を風靡した俳優さんが・・・2010年代の最新型の演技法であんなにも瑞々しく演じているとは・・・!!!

2019年の『アイリッシュマン』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の時はもう少し古いスタイルで演じていたと思うのだけど・・・なるほど監督や作品のスタイルに合わせて演技法を切り替えているのだな、で『ブロークン』ではおそらくパチーノの好きに演じているのだろうなーと。

そして共演のホリー・ハンターとハーモニー・コリン(!!!)の演技もヤバい。

声優さんて「キャラ」や「感情」を頼りに演技してる方がすごく多いのですが、それは70年代の外国映画の俳優さんが1つのシーンに流れる「一貫した感情」を頼りに演じていて、80年代の外国映画の俳優さんが「一貫したキャラ」を頼りに演じているのとマッチしているんですね。

ところがこの映画のパチーノ・ハンター・コリンの3人は映画全編を通してハッキリと「一貫したキャラ」を演じようとしていないんですよ。その瞬間瞬間にコミュニケーションしている相手によってふるまいがコロコロ変わっているんです。

感情も70年代のように大きな感情がストーリー上に横たわっているのではなく、そのシーンのコミュニケーションの細かい変化に合わせて秒単位にコロコロと表現される感情が変化してゆく・・・つまりそれは現実の人間にかなり近い演技法・・・駆け足で説明するとコレが2010年代式の演技法なんです。

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なので2010年代の映画・・・てゆーかこの作品では、声優さんたちが得意とする1つの「一貫したキャラ」を演じることや、1つのシーンに流れる「一貫した感情」を演じることができない。・・・登場人物同士の間にリアルタイムに発生する「コミュニケーション」を頼りに演じる必要があるんです。
もし無理やりに「一貫したキャラ」や「一貫した感情」で演じてしまうと、人物像の立体感が無くなって薄っぺらくなって、シーンが面白くなくなり、映画全体が面白くなくなってしまう。これがさっき書いた最近の日本語吹き替えの「エモーションが単純化される」「コントラストが強い」ことの正体だと思うのです。

あーなんか専門的で七面倒くさい話になってきちゃいましたねw。
難しい話はこれくらいにして・・・まあ要するにパチーノたちの演技法が最新式で、コミュニケーションの具合によって千変万化な演技だったため、声優さんたちが大変だった、という話です。(笑)
その辺りを彼ら声優さんたちと演出のボクとで一丸となって、なるべく画面上の俳優さんたちが演じているような複雑なエモーションで日本語のセリフをつけるようチャレンジした・・・それがこの映画『ブロークン〜過去に囚われた男〜(吹替版)』でした。超クリエイティブで、超絶楽しい収録現場でした。

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アル・パチーノの声を演じた声優・中野健治さん、素晴らしかった。パチーノが演じたマングルホーンという役の過去と現在を行ったり来たりしながら生きている人間の複雑な人物造形を見事に演じ切ってくれました。

ホリー・ハンターの声を演じた大石ともこさんも、秒単位で千々に揺れるドーンの女心を声にしてくれました。希望と絶望の間で揺れ動き続けるドーン・・・素敵でした。

ハーモニー・コリンの声を演じた芦原健介さんも、繊細でかつ無神経、内向的でかつ社交的という男ギャリーの複雑怪奇な多面性をシームレスに、そして切なく演じてくれました。流石。

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『ブロークン 過去に囚われた男(吹替版)』観ていただけると嬉しいです。何度も言いますが(笑)Amazonプライム会員の方は無料で観れますので。 登場人物がいわゆる声優っぽい喋りをしていないので、最初はちょっと違和感を感じるかもしれませんが・・・大丈夫、すぐ慣れますw。

日本語吹き替えの世界って、いま変わりつつあると思います。

70〜80年代式のコントラストの強い「キャラ」と「感情」の表現から、もっとディテールの豊かな「コミュニケーション」の表現へ。 だって大元の映画の方の演技がそのように変わっていっているので、それは必然的にそうなってゆくわけです。 宮崎駿監督が声優さんよりも俳優や非演技者を配役したがっていたのもおそらくそういう事なんだろうなーと。
『ブロークン』でボク達が取り組んでいたのもそれで、もちろんまだまだ未熟ではあるのですが、今回結構な収穫があったという感覚はあります。あ〜もっとやりたい。 2010年代以降の海外の映画に込められた豊かな表現を日本語吹き替えで伝えてゆく・・・そのことにワクワクしています。

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さて『ブロークン』に続く日本語吹き替えディレクション第3作目は現在進行中なんですが、2次オーディションの手前までいったところで緊急事態宣言が出てしまって、現在制作休止中の状態です。

この映画もまた面白いアメリカ映画なので、早くまたみんなでワイワイ収録ができる日が戻ってきますように・・・。

小林でび <でびノート☆彡>

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