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ウクライナ大統領ゼレンスキーのフランス議会での演説(全訳)

3月23日、ウクライナ大統領ゼレンスキーがフランス議会で演説した。そのビデオを見たけど、同時通訳ということもあって、よく解らない。わたくしがフランスを発って半世紀になり、よく聴き取れない。で、原文をざっと読んで、驚いた。日本での演説と全然違う!いかんだろ、これは!ズルい!

フランス人の人道主義(ユマニスム)の痛いところをぐりぐり抉るような演説である。武器をくれ!とお願いしているはずなのに、こっちの側が泣き出して「これまでご免なさい」と土下座したくなる。余りと言えば余り。絶対フランス人が原稿を書いていると思う。

フランス人としてのDNAを掻き立てられ、思わず全文を翻訳してしまった。ウクライナ大統領の公式サイトで公開された原文は英語で、それをフランス語に訳したものらしい。ウクライナ語による演説の書き起こしということで、文法的にはいささか破格のところがあり、日本語として読みやすくなるように意訳した個所がある。以下に掲載する。

【ウクライナ大統領ゼレンスキーのフランス議会での演説】

ありがとうございます。この機会は私にとって、ウクライナにとって、私どもの国民にとって大変な名誉です。上院議員、国会議員、パリ市会議員、フランス国民の皆さん、本日は皆さんにお話しできて光栄です。

ウクライナで起きていることを皆さんはよくご存知に違いありません。なぜそんなことになっているのか、誰が悪いのかもご存知です。頭隠して尻隠さずで、今なおロシアからカネを得ようと手を伸ばす輩についてもご存知でしょう。

本日、私は皆さんに語りかけます。誠実かつ勇敢、理性的で、自由を愛してやまない方々です。あなた方に質問したい。この戦争をどうすれば止められるのか。どうすればウクライナに平和をもたらすことができるのか。この問いの答えとなるパズルのほとんどのピースは、皆さんの手に握られているのです。

3月9日、マウリポリにある私たちの街の小児病院と産院にロシアの爆弾が投下されました。ウクライナ南部の静かな街です。まぎれもなく平和な街だったのです。ロシア軍が接近し、あたかも中世のような惨たらしい包囲攻撃を行なう前には。ロシア軍が飢えと渇きと爆弾で住民を苦しめ始める前には。

産院には人がいたのに、ロシア人は爆弾を投下しました。そこには出産を控えた女性たちがいました。ほとんどは救出されましたが、重傷を負った女性も何人かいます。その1人は足を切断せねばなりませんでした。彼女の足はずたずたにされていたのです。

別の女性は骨盤を骨折し、出産前に赤ん坊は亡くなりました。医師たちは助けようとした。母の命を何とか救おうとしたのです。なのに彼女は助けてくれなくてもいい、このまま死なせてくれと彼らに哀願した。もう生きる理由が見当たらなかったのです。医師たちは奮闘しましたが、彼女は亡くなりました。

ここはウクライナ、すなわちヨーロッパです。今は2022年です。何億人もの人たちがただの一瞬でも想像し得たでしょうか、こんなことが起きるなんて。こんな風に世界が破壊されることがあるなんて。

皆さんにお願いしたい。私どもの平和なウクライナにロシアが侵攻したがゆえに殺されたウクライナの男たち、女たちのためにしばし黙祷して頂きたい。

(一同黙祷)

ありがとうございます。

数週間ものロシアの侵攻後、マリウポリや他のウクライナの都市は占領者に攻撃され、ヴェルダンの廃墟のようになっています。第一次大戦の写真で、皆さんの誰もがご覧になったことがあるに違いない。

ロシア軍は目標を選びません。すべてを破壊する。住宅地、病院、学校、大学…… かれらは食料や薬の倉庫を焼く。すべてを焼く。「戦争犯罪」とか「国際条約」といった概念が彼らの念頭にはありません。ロシア軍がウクライナの地にもたらしたのは恐怖であり、国家規模のテロです。

皆さんの誰もがご存知です。情報なら何でもあり、どんな事実でも入手できるのですから。一時的に占領された地帯で、ロシア兵士にレイプされた女性について。道端で射殺された避難民について。それがジャーナリストだと判っていながら殺されたジャーナリストたちについて。

ホロコーストを生き残ったものの、いまや爆弾シェルターでロシアの攻撃から身を護るのを余儀なくされているお年寄りもいる。80年にも亘ってヨーロッパは、ロシアが原因でウクライナに起きている事態を見ないで済ませてきた。絶望のあまり死なせてくれと懇願する、あの女性のような人たちがいるのに。

2019年に私が大統領になったとき、ロシア連邦との交渉の形として「ノルマンディー・フォーマット」が存在していました。ウクライナ東部ドンバスでの戦争を終わらせるはずでしたが、いかんせん8年も続いています。

このフォーマットにウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4か国が参加しました。この4か国に世界全体のすべての立ち位置が示されていました。このプロセスを進めようとする者があり、それを遅らせようとする者があり、一切を台無しにしようとする者もいた。ですが、世界がいつもこのフォーマットのテーブル、すなわち平和のテーブルの上にある、それが大事だと思ってきました。

交渉の結果、私たちは囚人から解放されました。2019年12月いくつかの決定に合意が成されたとき、それはあたかも新鮮な息吹きのよう、希望の輝きのようでした。ロシアとの会談が役に立つこともある、ロシアの指導者たちが対話により平和を選択すべく説得されることもあり得るという希望でした。

しかしながら、2月24日がやってきました。この日すべての努力は破壊された。そもそも「対話」という語の概念すらも破壊された。これまでヨーロッパがロシアとの関係を保ってきた、その経験が、すなわち何十年ものヨーロッパの歴史が破壊されたのです。会議では真実を見つけられなかった。私たちは今、戦場で真実を探し求め、それを手に入れなければなりません。

そして今、私たちに何が残っているか?私たちの価値であり、団結です。パリとキーフ、ベルリンとワルシャワ、マドリッドとローマ、ブリュッセルとブラチスラバ――私たちの自由を、私たちに共通の自由を守ろうとする決意です。「新鮮な息吹き」などが私たちを助けてくれることはもはや絶対ないでしょう。私たちは共に行動し、共にプレッシャーをかけ、ロシアが平和を探し求めるよう強制せねばなりません。

フランス国民の皆さん!2月24日ウクライナ国民は一致団結しました。今日の私たちに右派や左派の代表者などおりません。もう与党と野党を区別することもありません。通常の政治はロシアが侵攻した日に終わりを告げ、平和が戻るまで再開されないでしょう。自国を守り、生きるために戦うのは当然です。

我が国へのフランスの支援について皆さまに感謝いたします。正真正銘のリーダーシップを発揮されたマクロン大統領のご助力に感謝いたします。かれと私たちは欠かさず連絡を取り合っています。ともに歩むべき幾つかのステップについて調整しています。

つねにそうだったようにフランスは自由を何より愛している、のみならず皆さんは自由を守っているとウクライナ人の目には映ります。フランスが体現する自由、平等、友愛が忘れ去られることはない。皆さんには、この1つ1つの語が力を帯びている。私も、ウクライナ人もそれをひしひしと感じています。

であるからこそ私たちは皆さんに、フランスに、皆さんのリーダーたちに期待します。ロシアが平和を求めるようにしてください。自由に対する戦争、平等に対する戦争、友愛に対する戦争。ヨーロッパを1つにし、自由と多様性により富ませてきた一切のものに対する戦争――この戦争を終わらせるために!

私たちがフランスとそのリーダーシップに期待するのはウクライナの全面的な領土保全です。一緒にならやれます。今ここで疑う方がおられるとしても皆さんの国民は、ヨーロッパの他の国民と同様に、それを確信していると私は申し上げることができます。

フランスが国連安保理の議長国であるうちに、熟慮のうちに決定されたEUへのウクライナの無条件の加盟が実現するでしょう。これはフランス国民の歴史においてはいつでもそうであったように、歴史的な瞬間における歴史的な決断になります。

ウクライナ人が自らの生命と自由を賭して戦い始めて明日で1か月になります。優勢なロシア軍にたいして私たちの軍隊は英雄的に立ち向かってきました。私たちには助けが、もっと助けが、もっとサポートが必要です。

自由を奪われぬためには、しっかり武装せねばなりません。戦車と対戦車兵器、戦闘機と迎撃機……これらすべてが私たちには必要です。皆さんは私たちを助ける力があることを私は知っています。皆さんにはそれが可能です。

自由を奪われぬためには、侵略者に制裁を課し、自由を守らねばなりません。毎週、毎週です!新しい大量の制裁を課さねばなりません。フランス企業はロシア市場から撤退すべきです。

ルノー、オーシャン〔小売り大手〕、ルロワ・メルラン〔住宅リフォーム用品のチェーン店〕等々はロシアの戦争機械のスポンサーを止めるべきです。子供や女性の殺害、レイプ、強盗、ロシア軍による略奪に資金を提供するのを止めて頂きたい。

価値は利益より価値がある、とりわけ「血の恩恵」よりは価値があると、すべての企業が肝に銘じるべきです。もう私たちは未来について、戦後の身の処し方を含めて考えねばならない。保証が、強力な保証が、揺るぎのない保証が必要です。この世界で戦争が2度と起こらない保証が必要です。

私たちは新しい保証システムを創らねばなりません。新しい安全保障のシステムです。思うにフランスはそこで主導的な役割を果たすことになるでしょう。誰ひとり2度と、いっそ死なせてくれと哀願する者が居なくなるようにすべきです。

人びとは己の人生を最後まで生き抜かねばなりません。砲弾の下で、戦争の渦中で人生に終わりを告げることがあってはならない。それは平和のなかで尊厳に包まれ、然るべき時が来てからのことでなければならない。

私たちは尊敬されるべく生きねばなりません。人びとに覚えていてもらえるように。人びとが皆さんに「またね」と言えるように。偉大なるジャン=ポール・ベルモンドにフランスが別れを告げた時のように。

フランスに感謝します。ウクライナに栄光を!

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