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蛇と馬に乗った男


眠っている男の口の中に毒蛇が入っていくのを、馬に乗った男が目撃した。その男が眠り続けるなら、ヘビの毒によって間違いなく死んでしまうと考えた騎手は、急いで馬を降り、その男を鞭で打った。そして、男が目覚めるや否や、むりやり林檎の木の下に連れて行き、地面に落ちていた腐った林檎を男の口に押し込んで、小川の水を大量に飲ませたのであった。

その間中、眠りを妨げられた男は、必死で叫び続けていた。「放せ、この人でなしめ、俺が何をしたって言うんだ!」

ところが、あたりが夕闇におおわれてきたころ、ついに男は疲れ果てて地面にうずくまり、水と林檎と毒蛇を吐き出したのであった。汚物の中をうごめいている蛇に気づいた時、男は自分の身に何が起きていたのかを知り、騎手に許しを求めた。

物語は言います。

「われわれもこの男と同じ状況にある。この物語を読むさいに、実際の出来事を譬え話と思ってはならないし、譬え話を実際の出来事だと思ってはならない。知識を授かっている者には責任があり、そうでない者には、彼らの理解を超えた事柄には、いかなる責任もない。」

命を救われた男はこう言った。「でも、最初によく説明してくれていたなら、私は喜んであなたの処置に従ったでしょう」

騎手は答えた。「いや、説明したところで、あなたは信じなかったでしょうし、たとえ信じたとしても、激しい恐怖のために何もできなくなるか、逃げ出してしまうか、あるいは怠惰に流されて、ふたたび眠ってしまったに違いない。それにだいいち、時間がなかったのだ」

こう言い終えると、この神秘的な騎手は馬を駆り立てて、去っていった。

出典:スーフィーの物語 イドリース・シャー編著「51-蛇と馬に乗った男」より(平河出版社)

物語の語り手は、「愚か者の助けよりも、賢者の反対の方がよい。という諺がある」という一文から話を始めていますが、さて、みなさんは、この物語をどんなふうに読まれるのでしょう?

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