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マウスピース人間


1日9回。
何の数字でしょうか?


そうです。
私が歯磨きをする回数です。

長男、次男、私。
朝昼晩と磨きあげ、1日9回になります。

あと何年続くのだろう。
絶対に欠かしてはならない私の習慣。
習慣というより、絶対任務と言ってもいい。
そしてこの任務に、ある日、新たな任務が追加されました。



「永久歯が生える隙間がない、かなあ」
歯医者さんからの一言は、強烈だ。
息子の歯並びの悪さを指摘された。
おまけに舌で歯を押してしまう癖があるらしく、開咬と言って、噛み合わせにも問題があると。

「どうやったら治るんですか」

「矯正治療になりますね」

よもやよもや、先生は簡単に言い放ったが、保険は適用されない治療。自費だ。
最終的には100万円に近い金額を、自腹で用意する事になるのである。
とは言え、私の子供の頃からあったような、ニッと笑うと銀色の器具が見える装置ではなく、マウスピース矯正と言って、透明なマウスピースをつけておく治療で、飲食や歯磨きの時は取り外しもできるそう。
これなら息子も抵抗なく頑張ってくれるだろうか?

「これを1日、20時間以上は装着してください」

よもやよもや、先生は簡単に言い放ったが、小学校低学年のおふざけ男児に、20時間しっかりと装着させるって、割と至難の技なのですよ?

矯正治療は、強制治療ではない。
でもだからこそ、親は悩む。
その金額を期日までに用意できるのか?やれば必ず良くなるのか?リスクはないのか?矯正という意味すら、まだよく理解できない男児がきちんと毎日扱えるのか?
でも、今できる事を、今しようと判断した。家族と話し合い、みんな協力すると言ってくれる。決断に時間はかからなかった。

私の毎日の仕事が追加された。
毎週木曜日の夜に新しいマウスピースと交換するのを忘れないこと、朝ごはんを食べているときに洗浄剤で洗浄すること、学校から帰宅して汚れていたら磨くこと、学校に行く前に必ずマウスピースをつけて行ったかを確認すること、(家に忘れると学校まで届けるハメになるため、スマホでアラームをかけておく)毎日ちゃんとつけているか、壊したり不衛生なことをしていないかチェックすること、外食など外で食べる時はマウスピースケースを忘れずに持参すること。

さて、絶対任務には武器が必要だ。
ドラッグストアへ調達にいこう。
今までは素通りしていた店内も、よくよく集中してみると歯磨き関連、マウスピース関連の商品がずらりと並んでいる。
仕上げ磨き中も足をジタバタさせてうまく磨かせてくれないし、マウスピースに汚れは溜まるし、息子の虫歯が不安だった。
でも歯磨き粉に書かれた「高濃度フッ素」という文字に安心し、握り込みやすいデンタルフロスの手触りに安心する。
ひとりで頑張ろうとしていた歯磨き任務に、武器が少しずつ増えてきた。

大丈夫、なんとかなる。
マウスピースの洗浄剤を使えば、毎回ゴシゴシ磨く手間は省ける。
幼稚園児の次男と折り紙で箱を折り、マウスピース洗浄剤入れを作った。毎朝そこから投入。折り紙の薄いピンク色にほっこりする。

「マウスピースつけたのー?」
「まだ!今つけるところ!!!」

ああ、ママのことは嫌いでも、マウスピースのことは嫌いにならないでおくれ。
治せる今、憎まれたって、母としてできる限りの事を。
カチャカチャと舌でマウスピースを動かし、白目をむいてふざける息子に「ちゃんとつけなさい」と怒りながらも、半分吹き出してしまった。
ふざけてもいい。
毎日磨くハメになってもいい。
めんどくさそうにでも、つけてくれるならいい。
とにかく今だけ。頑張っておくれ。
今だけマウスピース人間を楽しんでおくれ。

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