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〈尊重〉をうまくルールにする

哲学対話に限らず、他者とのコミュニケーションではお互いの尊重が求められます。

〈尊重〉はいわゆる道徳に類するもので、わざわざ書く必要もないほど当たり前のこと…のように思われる人もいることでしょう。

けれど実際には形ばかりの道徳意識になっていて、〈尊重〉という言葉は理解できても、「それは具体的にどうすることなのか?」という問いには答えられなかったりします。

私は、ルールの表現は具体的な行動の形にする方が実践しやすく、求める効果を発揮しやすいと思っていますので、以下のルールを考えてみました。

① 同意や合意ができると決めつけない
② 自分が誤解していないと決めつけない
③ 自分たちは共有できていると決めつけない

しかしこれだけだと、どうしてこれで〈尊重〉が実践されることになるのかわかりにくいかも知れませんので、少し解説します。

〈尊重〉という言葉にまつわる問題

尊重しましょうというルールの言わんとすることは、たいていの人が理解できるでしょう。しかし具体的に求められている行動を問われたとしても、どういう行動なら正しく、どういう行動なら間違いないのかを、過不足なく説明できる人はそう多くはいないように思います。

また、過不足なく説明できないこととは別に、そもそも〈尊重〉という言葉のイメージが人によって異なることも考えられます。

・一般的な道徳意識をなぞっただけ
・自由に振る舞うことの禁止
・善人ぶるための言葉

こんなイメージを持っている人もいるかも知れません。もしそうだとすれば、〈尊重〉を良いことだと思うかどうかも実はわからないことになります。大切だと思うかも知れないし、思わないかも知れない。

実践のしやすさ

ルールを設定する場合、そのルールによって何を達成したいのかを深く考えてみることで、言葉の選び方を変えることができます。

〈尊重〉という言葉はよいイメージでもあり、より多くの人が大切にしてそうでもあり、とても便利です。しかし反面、具体的にどうすることなのかがわかりにくい言葉でもあります。なんでも受け入れればいいのか、疑問や反論をしなければいいのか、褒めればいいのか。

あらゆる場所で通用する〈尊重〉を定義するわけではなく、ある場所でのルールを決めたい。それはその場所で達成したいことがあるから。目的がそうであるなら、〈尊重〉という言葉に頼らず、その場所で達成したいことが達成されるような具体的で誤解の余地の少ない表現を探すことで、目的に適ったルールにできると思います。

具体的で誤解の余地の少ない表現は、実践のしやすさに繋がります。

ルールの意図を誰でも説明できること

ルールの表現方法を大きく分類すると「禁止型」と「推奨型」に分けられると私は考えています。

「禁止型」は〈できない〉を許容しない表現で、デメリットとして厳しさを感じさせます。「推奨型」は〈できない〉を許容する表現で、いくぶんやわらかい感じになりますが、結果が伴わなくてもいいのだと軽く受け取られることもあります。

先にあげた3つのルールは、私が考える「哲学対話の場で達成したい〈尊重〉」を、実践できる行動を意識して表現したものですが、3つとも禁止型で書かれています。もちろん推奨型で表現することもできますが、〈尊重しているつもり〉との混同をできるだけ避けたいので禁止型で表現しています。

どのようなルールも、守ろうという意志が失われるほど有名無実化しますし、守らせようという意志が強まるほど押し付けがましいものになります。運用が難しいところはありますが、たとえばスポーツのルールは、その競技を公平に楽しめるものにするための方法論でもあります。

やたらと禁止するとか、なんとなく推奨するとかではなく、「そのルールがある理由を誰でも説明できること」は特に重要だと私は思っています。

試しに、先の3つのルールの意図や具体的な行動を付け足してみます。

① 同意や合意ができると決めつけない
納得は本人がすることだから、相手の納得を支配(コントロール)しない。納得できる道は一緒に探すけれど、納得できるかどうかは相手に任せる。

② 自分が誤解していないと決めつけない
伝えたいことは少ない言葉では伝えられていないかも知れない。相手の本意を誤解しないために、自分の理解がずれていないか相手に確認する。

③ 自分たちは共有できていると決めつけない
言葉の意味も大切なことも、その人の人生と切り離せない。人生はみんな違うように、言葉の意味も大切なことも人によって少しずつ違っているもの。当たり前に思えても自分の定義を強制せず、共有の確認ができたことだけを共通了解にする。

このように説明を加えてみると、

他者に対する〈尊重〉とは
「他者に対して支配や誤解や強制をしないこと」

と言い換えることができるように思います。

これらのルールは場に適用されるものですから、自分の行動にも、他者の行動にも適用される必要があります。つまり、その場に参加する全員が誰かに対して支配・誤解・強制をしないように努めるということになります。

こうすることで「他者を尊重する」というルールよりも、いくらか明確な行動指針になるのではないでしょうか。

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