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挫折しない洋書の選び方


洋書が読めるようになりたいという願望をある日持ち、本屋で適当な洋書を選んでみたものの序盤で諦め投げ出す、という経験をした日本人の数は少なくないのではないだろうか。

私自身、そうした願望を持ちながらも、選定に失敗し続けてかなりのお金を無駄にしたし、最初の1冊を読み切るのに結構な空白期間を挟んだりしている。

前回書いた洋書に関するnoteがそれなりの好評を頂いたので、続きとして初級~中級者がどういった洋書を選べばいいのか、どうすれば挫折しないのかという点については今回はまとめてみた。

前回の記事はこちら


最初の一冊


まずは簡単かつ短い洋書から始めるのが良いだろう。簡単すぎては実力がつかないのでは? と思われるかもしれないが、言語学習において簡単な文章を大量にインプットするという作業はリーディングだけでなくスピーキングなどにも有効な方法である。

具体的にはPenguin ReadersやOxford Bookworms Libraryなど、有名な古典文学や映画を一定の語彙だけでリライトした小説などのいわゆるGraded Readersから選ぶと良い。一定規模の図書館であれば、どれかのシリーズは入っているだろう。


実際にやってみて分かることだが、中学英語で習うような簡単な英語だけでも数十分続けて読むとなると最初のうちはかなり頭が疲れてくる。この段階で習得するべきことは、この3つだ。

[1] 簡単な英語を日本語の助けを借りずに理解すること
[2] ある程度長い本でも読み切るだけの(頭の)体力をつけること
[3] 洋書を一冊読み切るという達成感

私達は受験英語の弊害もあって、頭の中で英文を逐一日本語に変換しているが、その癖をまずは治さなくてはならない。実際に文章を読むときに毎回that節を[ ]で囲む訳にはいかないし、英会話の際に、毎回日本語で返事を考えて英語に翻訳するために数秒間硬直していたのでは、会話らしい会話にならない。


実際の本へ


ある程度自信がついてきたら次のステージへ移ろう。前にも書いたが本当に洋書を読むのが楽しいのはここからだ。ネイティブと同じ手加減なしの洋書を読めているという喜びは何ものにも代えがたい。

何を読むかはもともとの嗜好に従うのがベストだろう。日本語で好きなジャンルがあれば、さらに深めることは容易だろうし、学習であるという意識も少なくなるはずだ。

一点注意があるとすれば、多読向けシリーズと違って難易度表示がないことだ。だが、ある程度ジャンルによって難易度の分布が決まっているので、それさえ理解していれば、地雷を踏むことはない。以下にいくつか例を示す。


児童文学~ジュブナイル小説(難易度:★★)

まだあまり英語に自信がない場合の選択肢。
(もしくはまだ貴方が実際の読者層である場合)

未成年が対象である以上、あまり難しい表現は使われず、語彙もある程度制限されている。ハリーポッターやナルニアといった昔なじみのシリーズを読むもよし、未翻訳の新刊を調べてみるもよし。

どこかのブログで紹介されていたのが始まりだろうが、なぜか日本では『Holes』がこのジャンルにとって最適な入門書とされている。


そしてこちらは私が最初に選んだ洋書。当時は、300ページという平均的な長さが永遠に思えたり、終盤のどんでん返しが受け入れられずに自分の英語力を疑ったりしていた。英語で読んだ本に対しては、時間をかけるせいか思い入れが強くなるのも面白い現象だ。


恋愛・SF・ミステリー(難易度:★★★)

このジャンル群も文学的表現ではなくストーリーを重視するため、会話文が多い文体であったりと、それほど英語力を必要としない。

Kindle版だと試し読みができるようになっているのでパラパラと見てみると良いが、テンポの速い会話文には実際に使えそうな表現も結構見つかるだろう。

ミステリーだとアガサ・クリスティあたりが定番だろうか。


一般向けの人文・社会科学系(難易度:★★★)

実は意外と簡単なのがこのジャンル。論理的な文章というのはどんな言語であっても構成にさほど違いはないため、話の流れを見失うということは起きにくい。

また一般向けの読者に理解してもらうというコンセプトなため、文体がシンプルかつ説明も丁寧なものが多い。受験英語で覚えた語彙もダイレクトに活かせるのも嬉しい点だろう。




純文学寄りのエッセイ・小説・古典(難易度:★★★★★)

(哲学書を除くと)最難関で、私自身一番多く読みかけを積んでいるのがこの分野。なるべく手を出さない方が無難。

例えば、ダロウェイ夫人(1925年)なんかを選んでしまうと冒頭から下のような非ネイティブ殺しの文章と出くわすことになる(whenのあとにwith~とさらにその補足であるwhich~が差し込まれてから、ようやくwhen節内の主語であるsheが出てくる)。

What a lark! What a plunge! For so it had always seemed to her, when, with a little squeak of the hinges, which she could hear now, she had burst open the French windows and plunged at Bourton into the open air.

実は、この文章はまだマシな方で、文章中に主語となる名詞や動詞がそもそもないという文法破壊型の小説もいる。



残念ながら、タイトルとあらすじだけではその本がどれくらい難しいのかは分からない。そのため、

・比較的新しく、少なくとも20世紀後半以降に書かれている
・さほど文学的技巧にこだわらず、平易な文章を好む作家である

など、追加の情報が得られない限りは避けた方が良いだろう。


洋書以外の選択肢


これまでの話をひっくり返すようだが、読書が苦手な人が英語学習のために無理に洋書を読む必要はない。ここ数年で、他にも英語のインプットができる方法は着実に増えている。

一昔前の英語学習者の選択肢は、洋書以外には英字新聞やTED系のプレゼン動画、ラジオアプリなどが主流だったが、最近ではNetflixなどの動画配信サービスで英語音声に英語字幕をつけたり、Amazonの定額サービスでオーディオブックが大量に聴けたりと、娯楽を英語で固められるサービスが拡大し続けている。

言語学習を投げ出してしまう理由の一つは、あまり興味が持てない題材を、「教材」として渋々選んでしまうことではないだろうか。その点、好きなことを英語でやっているだけ、というのであればその行為を止める理由はない。

日本にいながら気が付けば一日中英語ばかり触れていた、というのも可能になった今となっては、言語学習を続けることは昔ほど難しくなくなっている。


image:"Book" by Kamil Porembiński is licensed under CC BY-SA 2.0


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