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ディズニープリンセスの恋愛学3——ロマンスの語り方

玉の輿から逆玉へ
 
 結婚のパートナー選びともなれば、お互いの愛情だけではなく、もっと現実的な条件について考えてしまいますよね。とりわけ家庭生活を営むことを考えると、こっそり算盤を弾いてしまうのが人の常。日本語には「玉の輿に乗る」という表現があります。もちろん、これは女性が結婚相手として裕福な男性を射止めることを意味します。英語には「玉の輿に乗る」に相当するフレーズはありませんが、アメリカ人の知人が玉の輿に乗ることを「シンデレラになる」と表現しているのを耳にして膝を打った記憶があります。

マクローリン・ブラザーズ社 1891


 貧しい不遇な少女がプリンスと結ばれて幸せになるシンデレラの物語はアメリカでも人気を博し、19世紀後半から20世紀初頭にかけてシンデレラの絵本ブームが到来します。アニメーション映画においても、早くも1922年には若き日のウォルト・ディズニーが短編コメディー映画『シンデレラ』(1922年)をリリースしています。長編アニメ『シンデレラ』(1950年)がプリンセス・シリーズの傑作として愛され続け、2018年にはナショナル・フィルム・レジストリに登録され、映画の殿堂入りしたことも記憶に新しいところです。近年のシンデレラ人気はとどまることを知らず、『シンデレラII』(2002年)、『シンデレラIII戻された時計の針』(2007年)等の続編が誕生しています。


 「シンデレラ」に代表される玉の輿ストーリーはディズニー映画の典型として揺るぎのない存在感を示していますが、20世紀の終盤以降、玉の輿を逆転させた「逆玉」物語が人気を得ているのも興味深いところです。『アラジン』(1992年)における貧しい青年アラジンとジャスミン王女、あるいは『塔の上のラプンツェル』(2010年)における大泥棒フリンとラプンツェル王女の結婚、そして山男のクリストフとアナの恋が成就する『アナと雪の女王』(2013年)が大ヒットしたことで、ディズニー映画における「逆玉」の流れがはっきりと分かるようになりました。こうした「逆玉」的構造に、女性の社会進出やジェンダー観の変化、そして父権的な物語に対する不信という今日的状況を見ることができるでしょう。

 

2011年にフェミニズム系ジャーナリスト、ペギー・オレンスタインの「プリンセス願望には危険がいっぱい」が刊行されて大ベストセラーとなったことで、従来のプリンセス物語がさかんに問い直されるようになりました。そうは言っても、2015年に公開された実写版「シンデレラ」の爆発的なヒットに例を見るように、古典的なシンデレラ・ストーリー自体が求心力を失ったわけではないようです。物語にはいつの時代にも人々に愛される定番の型のようなものがあり、シンデレラ・ストーリーは間違いなくその代表的な型のひとつに数えられます。ですから、男女の立場が逆転しても結婚による階級上昇というモチーフは未だに色あせることはありません。

おわりに
 
 17世紀に活躍したフランスの文学者ラ・ロシュフコーは「語られた愛を知らなければ、人が恋に落ちることはないだろう」という名言を残しています。ここで言及したディズニー映画の数々に共通するのは、ロマンスを物語る仕掛けが周到に用意されていることです。ディズニー珠玉の恋愛物語は、私たちがいささか捉えどころのない愛のかたちについて考えるまたとないきっかけになるはずです。(つづく)

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