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年金の過払い、その全てが間違っている ー過払い年金解説その5ー


過払い年金の取立は全て違法である、と社労士デスクSは断言します。なぜそう言えるのか?徹底解説します。

目次
1 まえがき
2 減額される時期が早まる?
3 時効の進行が始まる時、止まる時
4 矛盾が噴出「振込日ベース」
5 やってはいけない禁じ手
6 年金は後払いの原則
7 複数の記録誤りがあったら?
8 おわりに

1 まえがき

過払い年金の記事を4本書いてきました。本記事の内容は、少し難しくなります。4本の記事をしっかりと復讐のうえ読んでいただくことをお勧めします。

総額ベースの考えでも、振込日ベースの考えでも、
誤って振り込んだ額 - 本来受け取るべき額 
が過払い返納額です。

どっちでも結果は同じ、と思われる方もいるでしょう。

さあ、どのような結論が待っているのか? 過払い年金解説シリーズの集大成、社労士デスクS が魂を込めて書き上げました。必ずや、価値のある記事であると確信します。

過払い年金の取立を受けた人だけが読めばいい、と思っていますか? そうではありません。保険料を納める人、年金を受ける人、全ての人に関係する話です。


先人たちが知恵を絞って作り上げてきた年金制度、人生設計の大きな柱といえる、大切なものです。

きちんと運用されてこそ、我々は安心して保険料を納める事ができます。

我々の生活と、切っても切り離せない年金制度。全ての人に読んでもらいたい、そして、今現実に起こっている惨状を知っていただきたい。

公的年金とは何なのか?年金法の精神とは?ないがしろにさえる制度運用?みなさんが考える一助になれば幸いです。

 

過払い額の算出の仕組みについて、厚年法92条の時効規定により過去5年分、となります。
過去5年分の誤ったトータルの年金額と、正しい年金額トータルの差額です。再裁定基準の総額ベースです。

返納額の算出については 【過払い年金解説その3  2章 過払い年金の返納額】  参照 

金額は不明だが、誤った振込を行った時点で返納金債権が発生する「振込日ベース」で処理を行ったらどのような事が引き起されるのか?徹底解説します。

「振込日ベース」は【過払い年金解説その2   5章 なぜ年金機構は取立するのか】 参照


2 減額される時期が早まる?

平成30年10月1日に再裁定されたとします。減額されるのは11月分からです。
平成25年11月分~平成30年10月分の過払い部分が返納金になります。厚年法92条、消滅時効が5年という規定から、このようになります。当然、「総額ベース」の理論です。

さて、「振込日ベース」で考えると、どうなるでしょうか?

平成30年10月1日に再裁定されるとしたら、10月15日はまだ到来していません。直近の振込日は8月15日です。

返納金の計算は、平成25年10月振込~平成30年8月振込の5年分です。10月に振り込まれるのは、8月分と9月分です。つまり、平成25年8月分~平成30年7月分の過払い部分が返納金になります。

平成30年10月振込、つまり平成30年8月分から減額された新たな年金の受給に切り替わります(※1 あり得ない処理ですが、説明を続けます)。

10月の振込に計算が間に合わなかったとしても、次の12月の振込で調整すればいいだけです。

振込日ベースで5年の消滅時効を考えると、このようになるのです。
返納額の5年分は確かに同額です。しかし、振込日ベースであれば、8.9.10の3か月分も多く減額されてしまう事になります。

返納金債務の額は両者とも5年分で同額ですが、年金受給額が3か月分もの間、減額されたものが支給されるのです。

   

減額の開始時期に違いが出る

3 時効の進行が始まる時、止まる時

年金を受け取る権利が5年で消滅する事を何度も説明してきました。再裁定による過払い年金の返納額を算出する事の根拠になる重要な事だからです。
 
年金を請求せずに月日が経過すると、消滅時効が進行します。受給権が発生し、年金請求出来る状態になった時から消滅時効の進行が始まります。
 
この消滅時効の進行を止めるには、どうしたらよいのでしょうか?
 
「受給権がある事は知っています、消滅時効を止めて下さい」と年金機構に伝えても時効はとまりません。時効を止めるには年金の請求書を提出する必要があります。

請求書の提出日が重要です。年金事務所はこの日付を記録します。請求日をもって消滅時効がとまります。
 
年金請求書を提出しても、その日に裁定される事はありません。審査、事務処理に相応の時間がかかります。新規裁定日に時効が止まる訳ではありません。

受付したのに事務処理に時間がかかると、どんどん時効消滅し、受給額が減ってしまいます、そんな事にはなりません。
 
新規裁定の場合は、年金請求日を基準に、その5年前分の年金が受け取れる、という事です。
 
再裁定の場合はどうでしょうか? 新規裁定と若干異なります。
 
再裁定により新たな年金額が決定します。当初の受給権の発生した時点からの正しい年金額を決定し直す、という事です。誤った裁定により受給していた事を抜きに考えて下さい。

再裁定により決定した年金を受け取る事ができるのはいつから遡って5年となるでしょうか?
 
再裁定を行った月からです。先の例で言うと、平成30年10月に再裁定を行った場合、新たに決定した年金を受ける取る事が出来るのは、平成30年10月から遡って5年分です。

よって平成25年11月分から平成30年10月分の5年間分の年金を受け取る事ができると考えます。
 
再裁定の申請書はありません。減額になる事を事前に納得してもらう為の書類はありますが、その書類を出さなくても年金機構は職権による再裁定ができます。書類提出の有無は関係ありません。

申請書の受付年月日が基準となる新規裁定とは異なり、再裁定の場合は再裁定した日付が基準となります。
 
職権で再裁定が出来る根拠については  【過払い年金解説その1 3章 返納する義務】 参照
 
返納額の算出は、この考えが基になります。

平成25年11月分から平成30年10月分の年金を受ける権利が発生する、しかし従前の誤った裁定によりこの期間の年金は既に受給している、よって差額は返納しなくてはいけない、という事になります。

再裁定により年金額が増えた場合はその逆です。この期間の未払い分を受給できる事になります。
 
 
再裁定する、という事は、同時に従前の誤った裁定を取り消す事です。

平成30年10月に裁定が取り消されると、10月分までは従前額で受給できます。11月分からは発生しない、という事です。

11月分からは新たに裁定した年金額による受給開始となります。
 
「再裁定が基準の総額ベース」の考え方では、いつを基準に5年を考えるかは明確です。誤った裁定による受給から、新たに裁定した受給に切り替わる月も明確です。

誤った裁定による最後の対象月からみて5年分が返納金の算出に使われる、と言い換える事もできます。
 

4 矛盾が噴出「振込日ベース」

振込日ベースで考えると、10月1日に再裁定を行った場合、10月の振込はまだなので、8月振込の7月分が従前額の最後の支給となる、と説明しました(※1)。

再裁定により従前額の最終月は10月分とならなくてはいけません。7月分が最終月となる事はありえません。

最終月があり得ない月になってしまう、振込日ベースでの考えが招く大きな矛盾です。
 
仮に、10月の振込までは従前額のまま振り込む事が出来るとします。12月からは新たな年金額の振込が開始されます。つまり、9月分が従前額の最終月、という事になります。

それでも、取消前の最終月が10月分にはなりません。矛盾が生じる事に違いはありません。
 
 
さらに説明します。再裁定により10月分まで従前額で振り込む事を前提に説明を進めます。

再裁定により正しい年金に切り替わるのは11月分からです。誤った10月分と正しい11月分が12月に振り込まれることになります。

12月振込までは誤った年金を振りこみしないといけなくなります。12月15日に返納額が確定し、返還請求できるようになる、という事でしょうか?


矛盾が噴出「振込日ベース」

再裁定の直後、平成30年10月2日時点で、「平成25年11月分~平成30年10月分は間違っていました、一括して返納して下さい」、とは言えませんよね。平成30年10月分はまだ振込していないんです。

振込日ベースの考えだと、10月分は12月振込日をもって取立開始できるようになります。
 
再裁定は10月1日なのに取立開始は12月15日になってしまいます。再裁定をする事で新たに年金を再計算し、この時点で返納額も確定します。

確定する、という事は取立する事ができる、返納金債権の権利を行使しうる、という事です。直ちに取立開始して時効の進行を止めなければいけないはずです。
 
しかし、誤って振り込んでしまった振込日で返納金債権が発生する、振込日ベースの考えでは、返納額は確定しているはずなのにしばらくは取立できない、というおかしな状態が発生します。

取立開始をいつにしたらよいか?という疑問が生じます。
 
平成30年12月振込から遡って5年分は、平成26年2月振込以降になります。平成30年10月振込後に取立は可能であるので、平成25年12月振込分も取立できるはずです。

しかし、平成30年12月振込を待って取立開始となると、平成25年12月振込分が時効消滅する事になります。(※①)
 
そもそも、振込した時点で過払い金の返納金債権が発生しているので、誤りが判明した時点で正しい年金の見込み額が算出できるはずです。再裁定を待たずとも、差額部分をすぐに取立できるはずです。
 
誤りが判明した時点、再裁定の時点、再裁定後の初回振込(10月)、従前額の最終振込(12月)、なんと、4回も取立開始できるタイミングが考えられてしまいます。
 
一度の振込での過払い金が一つの独立した債権です。何回かに分けて取立する事もできるはずですが、年金機構はまとめて1つの債権としています。
 
 
10月1日の再裁定により、11月分からは正しい年金額による支給が開始されます。10月分は間違ったままの額です。

誤った額の10月分と正しい額の11月分が合わさって12月に振り込まれます。間違っていると分かっていて振り込む事になります。
 
民法705条において、「債務の存在しないことをしっていたときは、その給付したものの返還を請求することができない」とある為、再裁定後の振込においては返納を求める事ができなくなるはずです。(※②)
 

それでもなお、12月の振込が終わった瞬間に過去5年分を取立するとします。

振込日ベースの5年間は、平成26年2月振込~平成30年12月振込です。
間違っているのは平成30年10月分までなので、逆算すると、平成25年12月分~平成30年10月分です。
 
おかしいところにお気づきですか?

過年5年分のはずなのに、4年と11ケ月分しか取立できなくなります(※③)。

 
このように、矛盾が泉のように噴出する、というのが「振込日ベース」の考えです。
 
過払い年金解説2において、総額ベース、振込日ベース、過払い額の計算は5年分だから基本的には結果同じ、と説明しましたが、実際には基本通りにはいきません。

どちらの考えでも結果は同じ、というのは机上の空論なのです。
 
 

5 やってはいけない禁じ手

平成30年12月15日に振込をして、取立開始するとします。すぐに取立を実行し、時効更新しないと大変です。振込日から5年が経過すると、どんどん時効消滅していきます。

15日の振込から、その月末の間に催告しなければいけません。事務処理上も不可能です。
 
前章で、誤り判明日、再裁定日、再裁定後の初回振込日、従前額の最終振込日、の4つが取立開始のタイミングとして考え得る、と説明しました。
 
実はもう一つ、タイミングがあります。過払い年金の徹底解説ですから、あらゆる可能性を論じていきます。
 
4つもタイミングがあり、どれを採用しても矛盾が残ります。そこで、発想を変えて「取立する時点から”判定”して過去5年分」を取り立てる、という方法が考えられます。
 
これだと、会計法により時効消滅していない過去5年分を取り立てる、という名目を立てる事ができます。

再裁定基準の総額ベースで考えた場合、返納は平成25年11月分~平成30年10月分の60月分です。
 
振込日ベースで、取立日から過去5年分を取り立てるとした場合、そもそも60月分の回収ができない(取立開始①)、さらに開始が遅れるごとに債権額が減少する事になります(取立開始②および③)。
 
取立開始を遅らせる事により、民法705条は回避できます(※②)。しかし、債権が時効消滅する問題は残ったままです(※①、※③)。なにより、取立開始時期により対象期間が異なってくるという不公平な取扱いとなります。
 
逆転の発想により、このような問題があっても関係ない、とにかく会計法30条により5年分を取り立てる、という解釈のもと開き直るのが、この“禁じ手”なのです。
 
 
振込日ごとに返納金債権が発生する、という発想は会計法30条「5年で時効消滅する」という事しか頭にありません。なので、このような“禁じ手”にすがりつく以外にないのです。

過払い年金の取立を受けた事がある方、対象月数が60月未満ではなかったですか?

年金事務所で確認してみて下さい。「判定日」という言葉で説明されたら、まさにこの事です。取立開始の時点から5年を判定する、という意味です。
 

6 年金は後払いの原則

年金の振込は後払いです。偶数月の15日に、前月分と前々月分が振り込まれます。そして、権利の発生や変動は翌月から、です。

年金は65歳(厳密にはその前日)になった翌月分から開始されます。死亡した月の分までは権利があり、死亡の翌月分から権利がなくなります。

10月1日に再裁定を行うと、11月分から新たな年金額となります。いっしょに12月に振り込まれる10月分は誤った額です。

間違っていると分かっていて振込するのはどうなの?と思われるかもしれません。

生存者が10月1日を迎えた段階で、10月分の年金を受ける権利は確定します。「権利が確定したから10月初旬に振り込んでよ」と言いたいところですが、そうはなりません。あくまで後払いです。

権利の変動は翌月なので、10月に再裁定されて、新しい年金額での支給に切り替わるのは11月分からです。10月分は影響を受けないので従前の誤った金額のままです。

再裁定基準の総額ベースで考えますので、返納対象の年金は平成25年11月分~平成30年10月分です。平成30年10月分は誤った金額で受け取り、正しい額との差額を返納する事になります。

10月分の権利は確定しています。再裁定の直後に12月15日を待たずに返納催告を受けたとしても問題ありません。誤った額で受給するより先に返納してしまう事もあり得ます。

10月分の権利は確定しているので、返納金の債権・債務も確定させる事ができるのです。先に返納して後から誤った年金を受け取る、という事でも問題ないのです。

年金の後払いの原則からも、総額ベースで考えないといけません。

振込日ベースで債権が発生している、という考えではこうはいきません。
返納金の算出を、「振込日ベース」で考えるのか、「総額ベース」で考えるのか、どっちをとっても同じ、ではないのです。

総額ベースの考えでは全く問題は起きません。法的根拠、具体例、全て単純明快に説明がつきます。

両者にはとてつもなく大きな“違い”がある事がお分かり頂けたと思います。
法令の根拠があるのは「総額ベース」です。「振込日ベース」で行ったら、とんでもない事になります。

7 複数の記録誤りがあったら?

難しい話になりますが、一度に複数の年金記録誤りが判明する事があります。記録を正しくする事により、増額になる記録誤りと、減額になる記録誤りが混在する事があります。

増額する分は追加支給して、減額分は返納させる、そんなめんどくさい事にはなりません。

再裁定基準の総額ベースであれば、何も問題ありません。間違っていた記録を一括して正しく直せばいいのです。再裁定の結果、増額となれば追加支給、減額となれば返納、これだけです。

さて、振込日ベースでやればどうなると思いますか?
増額と減額で時効の起算が異なっているのです。一度の再裁定では処理できません。

どのような事務処理を行っているのか、公表されていませんが、減額部分の計算が正しく行われる事はあり得ません。

再裁定により、追加支給を受けた事がある方、その額が過少に、あるいは過大に計算されている事があるのです。

過払い年金の取立を受けた方以外は関係ない、と思っていますか?残念ながら、気づかないうちに間接的被害に逢っている人はヒマラヤほどいるのです。


8 おわりに

振込日ベースで債権が発生する、という発想で事務処理が行われたらどのような事になるのか、徹底解説してきました。

過剰に取立られるケースについては【過払い年金解説その4】参照

過剰に取立られるレアケース以外は問題ない、と思われていた方、それが大間違いであると、ご理解頂けましたでしょうか?

過払い年金の違法取立、返納義務が無いのに取立られる、過剰な額を取立られる。過払い年金全体の割合としては僅かです。

問題なのは、圧倒的多数であるこちらなのです。全ての過払い年金において、返納額が法令により算出した額より少なくなっているのです。本来回収しないといけない債権を過少に算出し、国に多大な損失を与えているのです。

過払い年金の相談を受けた事のある士業のみなさん、対象月数が60月になっていない事を疑問に思いませんでしたか?

返納額が減ってラッキー、と思っていますか?返すべきものは返さないといけません。過払い年金解説シリーズその1で最初に述べたとおりです。

なにをどうやっても矛盾が生じ、法的根拠からの説明が一切できません。
これが、「全ての過払い年金は間違っている」と題した理由です。

現在進行形で行われている、年金行政の現実です。年金記録問題なんて、かわいいもんだと思いませんか?


年金受給の消滅時効は5年です。年金の業務に携わる者にとって“基礎中の基礎”です。5年の消滅時効(厚年法92条)により返納金債権額が算出されます。

算出された返納金債権をいつまでに回収しないといけないか、時効消滅するか(会計法30条)は別です。

この”基礎中の基礎“を間違えてしまうと、どんな事になるのか、会計法30条のみを根拠にすると、どれほど恐ろしい事になるのか、お分かり頂けたと思います。


過払い年金解説シリーズ記事で徹底解説しました。ご精読、誠にありがとうございました。

過払い年金の返納をした事がある方、催告を受けている方はぜひ年金相談窓口で確認してみてください。謎が全て解明するはずです。


不明点は社労士デスクSにお問い合わせください。
初回相談は無料です。

 
 

過払い年金の相談について、基本的に無料で行っています。正直言って、採算の合わない事業です。過払い年金取立の現実に納得いかない方、社労士Sがやろうとしている事について賛同頂ける方、ぜひサポートお願い致します。