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過払い年金の返納、法解釈の問題点  ~厚生労働省に質問したい10の事~

過払い年金の返納金発生、誰がどう考えてもあり得ない点があります。矛盾点、疑問点をまとめてみました


死亡後に判明した過払い年金について、相続人が返納義務を負わされている現状があります。一体、どのような法解釈をすればこのようになるのでしょうか?

死亡者に行政処分は出来ない為、死亡後に判明した過払い年金に返納金債権は発生するはずがありません。しかし、当たり前のように遺族が取立を受けてしまう原因は何なのでしょう?

年金機構は国の委託を受けて、公的年金にかかる業務を行っています。法令の解釈については、厚生労働省が行っています。

要は、年金機構は手足に過ぎない、という事です。法解釈については、主管する省庁が説明する義務があります。

厚生労働省に聞いてみたい質問をまとめてみました。

現状説明

死亡後に判明した過払い年金、遺族が債務を相続し、返納義務を負わされています。相続、という事なので、生前に返納債務が発生していた事になります。当初の振込があった時点で、返納金債務が発生していと解する他ありません。


1.債権の性質(争いの余地なし)

受給者が、誤った裁定により過剰に給付を受けていた、つまり法的根拠が無い不当な利益を得ていた為、民法の不当利得返還義務が生じます。国にとっては債権発生となり、受給者が死亡した場合は相続対象となります。

2、債権の発生時期

判例により導かれる債権発生時期      ⇒再裁定の時点
年金機構が行っている債権発生時期     ⇒当初の誤った振込日


3、返納額5年分の根拠

判例により導かれる返納額の根拠     ⇒年金法の時効規定
年金機構が行っている返納額の根拠    ⇒会計法30条


4、債権の消滅時効5年の根拠

判例により導かれる消滅時効の根拠     ⇒会計法30条
年金機構が行っている消滅時効の根拠    ⇒会計法30条



再裁定や裁定取消という行政処分によって、不当利得返還請求権が発生する事は判例(※1)、社会保険審査会の裁決例(※2)によっても明らかです。誤った裁定でも、適法に取り除かれない限り、公定力が働き、有効なままです。

再裁定により、過払いであれば返納、未払いであれば追加支給となります。その額は再裁定の時点から直近5年分です。5年の根拠は年金法の時効規定(厚生年金法92条・国民年金法102条)であるはずです。

※1 平成16年9月7日東京高裁-  <平成16(行コ)180>

二 不当利得返還請求権の存否について1 前裁定が取り消されて本件再裁定がされたことにより、控訴人国は、被控訴人に対して、過払いの年金額について不当利得返還請求権を有することになる


※2 平成23年3月10日の社会保険審査会の裁決

≪ 死亡者に対する裁定取消処分は、「法律上、その相手方となり得る者が存在しないのになされたもので、有効に成立していない当然に無効なものであり、本件返納通知の点も、それに係る返納義務は受給権者の死亡後に行われた本件取消処分により発生するものと解するほかなく、配偶者などの相続人が当然にそれを負うことにはならないものというべきであるから、請求人を名宛人とした本件返納通知は、法律上は全く意味のないもので、もとより、審査請求・再審査請求の対象とすることのできる処分に当たらない」として却下する。 ≫

この事案は、死亡者の妻が遺族年金の請求をしたところ、死亡者の被保険者記録に重複があったことが判明、年金機構は死亡者の裁定処分を取消し、妻宛てに過払い分の請求をおこなったものです。

決定された障害年金の等級に対する不服申立等の個別具体的な案件ではありません。受給者の死亡後に判明した裁定の誤り、という普遍的案件です。



しかしながら、年金機構は債権の発生時期および算定額の根拠について、全く異なる見解をしています。



疑問点、矛盾点


降り込んだ時点で債権が発生する、という考えでは、仮に、未払いであっても同様の考えでしょうか?

例えば、一度の振込が10万円であったが、後日裁定の誤りが判明、12万円が正しかったとします。

国は、本来12万円を支払うべきを10万しか支払わなかった、つまり2万円が法律の根拠なく受けていた、国の「不当な利益」となります。

受給者は振込日の時点で、不当利得の返還請求権を得た事になります。認識していなくても関係ありません。受給者は「いつでも正しい年金額への訂正を申請し、請求権を行使する事ができた」はすです。

民法上の債権なので、相続します。時効は10年です。

振込日で債権が発生する、とした場合はこのように考えなければいけません。債務も同じ条件だからです。


しかし、現状ではこのような取扱いはされていません。

年金機構は都合のいいことに、過払いの場合のみ、振り込んだ瞬間に不当利得の請求権が発生と解し、未払いの場合では不当利得の返還義務は発生しない、と解釈します。


年金機構が行っている、返納金債権が5年分となる根拠は、会計法30条のみです。ただし、これは年金機構が示している事をそのまま書いただけです。

年金機構は、債権額算定と債権の時効について、その両方を会計法30条を根拠にしている、と言っている事になります。

会計法30条は、国の債権が5年で消滅する、という時効の規定であり、債権額算定の根拠になるはずがありません。客観的に見た場合、年金機構が行っている債権額が5年分となる法的根拠が存在しない、という事になります。

債権額算定の根拠条文が存在しない、あるいは時効の根拠と同一のもの(会計法30条)を使用している。いずれにしも、荒唐無稽な法解釈です。

債権額算定の根拠に年金法の時効規定(厚生年金法92条・国民年金法102条)を使用していない、これが根本的法解釈誤りの正体です。


不正受給の規定

不正受給(厚生年金法40条の2)により発生する返納金債権は、不正が発覚した時点ではなく、当初の振込時点です。受給者に悪意(不正を認識していた、又は認識していたとみなされる)があり、条文により返納義務が生じるからです。この解釈に争いの余地はありません。

事務処理誤り等によりる過払い年金返納債権も、同じように振込日時点で発生する、と不正受給の場合と混同して解釈してしまった、と推測されます。完全なる法解釈誤りです。


引き起こされる結末


1、死亡後に判明した場合でも遺族から取立

振込日時点で債務が発生していたので、相続してしまいます。

2、初回振込でまとめて受給のパターン

振込日時点で債権が発生する、という考えなので、当初の年金請求が遅れて、初回振込で2か月分を超える額をまとめて受給していた場合、初回振込額の全額が対象になります。
つまり、5年分を超える過払い額、最大で10年分が取立られます。

3、5年分を取立できなくなる

年金は2か月分その翌月に振り込む、後払い式です。振込日時点で債権が発生する、という考えでは取立する時点から判定して5年分とするしかありません。過払い判明から取立開始に数か月かかるため、全ケースで60月分の回収が不可能です。債務者により対象月数が異なる、という不公平もでできます。



厚労省に質問したい10の事


質問1
振込日時点では裁定の誤りは判明していません。債権額が不明であるが債権は存在するのでしょうか?

質問2
振込日時点で金額不明の債権が存在する、とした場合、これを金銭債権と呼ぶのでしょうか?

質問3
振込日時点では裁定の誤りは判明していません。誰も認識できないのに、受給者が「法的根拠のない不当な利益」を得たとは言えるはずがありません。裁定誤りが判明した時点で、過去(振込日)に遡って振込日時点で債権が発生していた、という解釈でしょうか?

質問4
過去に遡って債権が発生するのではなく、振込日時点で金額不明の債権が確定している、という考えでしょうか?いずれにせよ、今までの判例や学説ににない斬新な解釈であり、世間一般に周知する必要があると思いますが、公表していない理由を教えて下さい。

質問5
判例では再裁定により不当利得返還請求権が発生する、と明確に示されています。振込日時点で発生する、という解釈は、この判例を真っ向から否定する法解釈です。判例を否定する理由を教えて下さい。

質問6
社会保険審査会の裁決では、「処分通知により発生すると解する他なく」とあります。つまり、行政処分以外に債権が発生する事はあり得ない、という事です。個別具体的ではなく、普遍的案件です。年金機構は、行政処分無しに債権が発生する、という法解釈です。社会保険審査会の裁決が間違っている、とする理由を教えて下さい。

質問7
判例、社会保険審査会の裁決のとおり再裁定の時点で返納金債権が発生、額は年金法の時効規定により5年分、という解釈であれば矛盾点が一切生じません。公定力が働いても法的安定性を欠く事はあり得ません。この法解釈を否定する理由は何でしょうか?何か不具合が生じるのでしょうか?

質問8
振込日時点で債権が発生する、という法解釈をとる以上、未払いが後日判明した場合は、振込日時点で国が正当な額を支払わず、不当な利益を得た事になります。振込日時点で国は不当利得返還義務を負う事になるはずです。
過払いの場合のみ、返納金債権が発生し、未払いだと民法上の返納債務が生じない、と解釈する理由を教えて下さい。

質問9
既に返納してしまった遺族の方から、不当利得返還の請求を受けたり訴訟を起こされた事はありますか?受けた事がある場合は件数・弁済額等の詳細を教えて下さい。

質問10
今後、返納してしまった遺族の方から、不当利得返還の訴訟が起こされる事があれば、裁判で闘争しますか?それとも和解により弁済しますか?自らの法解釈と事務処理の正当性に根拠を持っていれば100%闘争以外はあり得ないはずです。闘争しない可能性があるとしたら、理由を教えて下さい。











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