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オンラインシンポジウム「郊外住宅地再生フォーラム2020」開催記録4 〜新百合ヶ丘・研究

2020年6月6日、郊外未来デザインラボでは「郊外住宅地再生フォーラム2020」を開催しました。ここでは、その報告として、フォーラム前半の事例報告の内容を紹介します。後半のディスカッションについては、2021年7月に発行予定のプロジェクトレポートに掲載しています。全体概要についての記事はコチラ

事例報告②新百合ヶ丘

<研究(東京大学 特任助教 藤垣洋平)>

 私からは、新百合ヶ丘におけるミサワホームと東京大学の共同研究成果のご紹介としまして、「郊外住宅地へのMaaS導入が開く住宅空間活用の新しい可能性」というタイトルで発表させていただきます。

MaaSが郊外住宅地の空間に与える影響

 まずMaaSが郊外住宅地の空間に与える影響についてお話しします。MaaS、モビリティアズアサービスという言葉自体については、現在、様々な使われ方をされておりますが、このMaaSという言葉には、主に二種類の使われ方の類型があると考えることができます。1つ目の「類型1」は、複数サービスの統合を指すもので、複数の交通サービスを対象にした検索、予約、決済管理等を一体的に提供するサービスを指すという考え方です。スマートフォンアプリや、定額制の料金体系を提供するといったようなことがこの「類型1」にあたります。2つ目の「類型2」は、新しい柔軟な交通サービスを指すもので、オンデマンド交通、カーシェア、自動運転といったサービスが当てはまります。統合型のMaaSの具体的な例としては、鉄道、バス、タクシー、カーシェアなどが乗り放題、または一定回数まで使えるというようなサービスが、インターネットや携帯の通信料のように決まったパッケージで、オールインワンで提供され、そして一つのアプリで検索、予約、支払い管理ができる、といった形態が挙げられます。これによって自家用車を保有せずとも適材適所で交通サービスを利用できる、というような姿が目指されております。
  MaaSをはじめとして、自家用車保有率の低下を加速させうる大きな変化が、現在、日本の郊外住宅地で進んでおります。1段階目の変化は、高齢者などの運転免許の返納、自家用車運転の取りやめです。高齢者の免許返納促進策などの様々な取り組みが、既に各地で始まっております。2段階目の変化は、オンデマンド交通等の新しい柔軟な交通サービスの登場です。将来、完全自動運転車が登場した場合、その車両の回送コストが低下することによって、自家用車を自分のものとして敷地内に置いておく必要性が下がるという可能性が一部で指摘されております。現状では、免許返納に関する取り組みについては様々な取り組みが各地で存在するものの、新しい交通サービスや自動運転については発展途上の段階にあり、段階としては1段階目と2段階目の間にいると捉えることができます。
 これらの変化によって、郊外住宅地の住まいのスペースにも変化が生じると考えられます。まず、自家用車を保管する駐車スペースが不要になる事例が多くなってくると予想されます。その一方でタクシーや送迎車両、また将来は自動運転シェアカーや自動運転車を活用した移動販売などのサービス車両などの、一時的な停車および乗り降りをする空間の需要が増えると考えられます。そこで、駐車スペースや庭などの空いたスペースを、乗降スポットなどとして、車両が駐停車するスポットにも使えるようなオープンガーデンとしてリノベーションして活用することで、地域との交流の拠点にするという可能性があるのではないかという仮説をもちまして、研究を行っております。

オンデマンド交通提供時の移動実態調査


 続きまして、3月に実施したオンデマンド交通提供時の移動実態調査についてお話します。まず研究の着眼点についてです。先程、MaaSパッケージの例を紹介いたしましたが、そもそもこういったMaaSのようなサービスがあった場合に、人の行動はどう変わるのか、特にタクシーやオンデマンド交通といったような柔軟な移動サービスが追加料金なしで乗り放題になったり、安くなったりした場合、タクシーやオンデマンド交通ばかりが使われるのか、それとも既存の路線バスもしっかりと使われるのだろうか、ということについては、まだはっきりとわかっておらず、データが十分には集まっていない状況です。そこで、こうした点を明らかにすべく、調査を行いました。調査の目的は、路線バスとオンデマンド交通が追加料金なく利用できる環境下における、交通手段の選択実態を捉えることです。オンデマンド交通が乗り放題だったとしても、一定以上の高頻度の路線バスは並んで適用されるのではないか、という仮説を立てて、検証を行いました。方法としては、路線バスとオンデマンド交通「しんゆりシャトル」を、一定期間、追加料金無く利用できる環境を提供して、その期間の移動を記録するとともに、インタビューを通して移動に関する定性的な事柄を把握しました。期間は2020年の2月から3月、対象者数は12名で、先程のミサワホームオーナー様向けアンケートの実施時に行っております。対象地域である新百合ヶ丘駅周辺では、小田急電鉄株式会社が2020年2月から4月までの期間に、オンデマンド交通「しんゆりシャトル」の実証運行を実施しておりましたので、その期間に合わせて実施しました。
  続きまして、結果をお示しします。交通手段別の分担率としては、路線バスが29%、しんゆりシャトルが11%となり、オンデマンド交通「しんゆりシャトル」だけでなく路線バスの方もしっかりと使われるという傾向が確認できました。個人単位では、路線バス中心の方々と、しんゆりシャトル中心の方に、はっきりと分かれるというような傾向が見られました。またインタビューの結果からは、高齢化した際には、より多くの方がオンデマンド交通をより利用したいと考えていること、また、オンデマンド交通の存在が、高齢になってからの居住継続意向を高めるということが確認できました。

様々な乗降スポットの可能性


 続きまして、住宅敷地内の乗降スポットの可能性について、交通機能面及び地域コミュニティによる活用の可能性の2つの観点でお話しいたします。まず、交通機能の面での意義です。こういったオンデマンド交通などの様々な交通サービス向けの乗降スポットが存在することで、交通の安全性、円滑性、また交通サービスの利用しやすさが向上すると考えられます。期待できる機能としては、車両を停車させておく事で後続の車が追い越ししやすくするという機能と、利用者が安全快適に待機できる機能の2つが考えられます。安全性の面では車道ではない安全な場所で歩行者が待機できること、また車両の方でも追い越しなどの負担が減るといったことが、安全性につながるとともに、車両の通行の円滑性も高まると期待できます。また利用のしやすさの面では、乗車のために待っているべき場所が分かりやすいということで、利便性が向上することが期待できます。また類似した空間としまして、既存の戸建て住宅の駐車場がありますが、駐車場は長時間車両を停車させることが想定されており、人の滞在は乗降時の短く、基本的に居住者のみの利用を想定されている一方で、乗降スポットは車両の停車時間が短い場合も考えられ、さらに多様な人が使うといったことが想定されます。そのため、乗降スポットとしての活用を行う場合には、駐車場に比べて、より人のための空間としての設計が求められると考えられます。
 また、駐車場を転用した乗降スポットは、ガーデニング等の継続的な地域活動や、一時的なイベントの場所として活用できる可能性があると考えられます。
 個人の所有地を緑化して公開するという観点では、オープンガーデンという取り組みが以前より郊外住宅地などで行われておりましたが、そういったオープンガーデンをより気軽に実践する方法としても活用できます。オープンガーデンなどと比較した際の特徴として、庭の全範囲を公開するよりも始めやすいこと、また住宅内を公開するよりも始めやすいといったような長所が考えられます。こういった長所は、あくまで現段階では仮説であり、実際どのような形で、またどの程度受け入れられるのかということは検証が必要です。また、車両一台分の駐車スペースだけで実施できる可能性がどこまであるのか、またデザイン上の工夫がないと利用しにくいといったことも考えられますので、具体的な設計についても、検証・検討が必要であると考えております。以上で私の発表を終わらせていただきます。