見出し画像

『デザイン経営』入門。ツクルバ クリエイティブ室 室長が教える、デザインを活かした組織のつくり方。

第一線で活躍するデザイナーやデザインマネージャーを取り上げ、事業や組織の成長をデザインの切り口からお伝えするdesigner’s story by Cocoda。

今回は、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」や、コワーキングスペース「co-ba(コーバ)」を運営する株式会社ツクルバの クリエイティブ室 室長 柴田さんに「どのようにデザインを活かした組織づくりを行えば良いか」を、ツクルバでの経験にもとづいてお話していただきました。画像2


今回登場するデザイナー:柴田 紘之 さん

tsukuruba creative室 室長

デザイン事務所にてアートディレクターとして企業ブランディングを中心に広告、商品企画、プロダクト開発、Webプロモーションなどに従事。「働くってもっと自由だ」という考えのもと、自分たちの働き方もデザインの一部と捉え、自らの欲しい未来をつくるため2015年9月ツクルバに参画。2018年2月にcreative室 室長に就任。

クライアントワーク中心の会社から、自社事業に切り替え。1人広告代理店の立ち上げ

ーー今回は、柴田さんがツクルバという会社に「デザイン経営」をどのようにインストールしたのかについてお伺いしたいと思います。まず、柴田さんが入社した当初のツクルバの状況を教えていただけますか。

よろしくお願いします。デザイン経営を。というほど大げさなものはありませんが(笑)。お話しさせていただきます。

私が入社したのは2015年なんですが、当時は、まだ社員が十数名しかおらず、現在ツクルバの主力事業となっている「cowcamo(カウカモ )」の立ち上げの時期でした。

当時のツクルバは、空間プロデュース会社としてオフィスデザインや、コワーキングスペースの運営などリアルな空間での「場づくり」をしていました。そこから、実空間と情報空間を横断する事業として、カウカモ が生まれたんです。その頃は、空間デザイナーはいましたが、グラフィックやWebのデザイナーはいませんでした。

そのタイミングで、資金調達して、会社としても一気にアクセルを踏むぞという時期に、空間デザイナーだけではなく、自社の事業に深く携わる専任のデザイナーが必要だという話になったんです。ちょうど私も、カウカモ のベータ版を公開したというプレスリリースを目にして、ツクルバが多角的に事業を進めていて面白そうだなと思い、入社に至りました。


ーーちょうど会社としてサービス立ち上げに向かうタイミングでの入社だったのですね。ツクルバとしては初めてのデザイナーだったと思うのですが、柴田さんはどのように振舞っていったのでしょうか?

もともと私は広告出身なんです。ツクルバに入る前は、デザイン事務所で働いていたんですが、代理店の仕事が半分、直クライアント半分といった割合でした。なので、自らクライアントと打ち合わせする場面が多かったんですが、ツクルバでも最初はその仕事の進め方をベースにしました。

当時は、まだ人数が少ないこともあり、職種の壁がありませんでした。そういう状況だったので、それまでのやり方と同じように、仕事で携わる他職種のメンバーに、カウンセリングしながら深掘りしていくうところから始めました。

当然、依頼してくる方もデザインに精通しているわけではないので、「なんとなくこういうことしたいんだけど、どうすれば良いか?」といったふわっとした相談が多かったです。代理店の営業担当がいれば、ヒアリングを重ねて課題を見つけていくのですが、当時はそれを1人でやっていました。例えるなら、1人広告代理店のような状況でしたね(笑)。

画像1

*参考
「スタートアップひとりめのデザイナーと、組織の話」


ーー別職種のメンバーは、そのように振る舞うデザイナーの行動を、すぐに受け入れられたのでしょうか?

ツクルバの場合、空間プロデュース事業をやっていたこともあって、初めからモノづくりのカルチャーがあり、デザイナーへのリスペクトがある状態だったので、僕自身も違和感なく、今までのやり方でやれたように思います。

最初に受け入れられたことから、自分が一番初めにやっていたデザイナーの型が、そのまま今も社内のカルチャーに残っていますね。しかし、他社の話を聞く限りでは、なかなかデザイン価値に理解があるように思えないな。と感じることもあります。もしそのような組織に所属しているのであれば、デザイナー自身がリスペクトを掴むような行動をしていく必要があるかもしれません。


組織からの信頼は、デザイナーの日頃の振る舞いで生まれる

ーーどのように、デザイナーから働きかけて、デザイナーへのリスペクトを掴んでいけば、さらに言うと、デザイナーから事業に対して価値を出していけば良いのでしょうか?

ツクルバの場合は、事業に関わるBizのメンバーがデザイナーを頼ってくれていています。「そもそもどうしたらいいですか?」というところから相談してもらえるのです。しかし、そのように信頼が得られていない場合、私はデザイナー側にも原因があると思っていますね。そもそもデザイナーが相手に合わせた言語でしゃべれない、踏み込んでいけないところに原因があるのではないんでしょうか。また、事業の目指す方向性に対してどういうことを求めているのか、デザイナー自身がよくわかってないケースも多いと思います。そういうデザイナーほど「課題発見はやりたいと思っているんだけど、機会がない」とよく言うんですが、それはそのデザイナーが日頃から信頼に値する振る舞いをできていないからなのではないかと思うんです。

例えば、会議があった時に、事業の話題に対してデザイナーが発言するかどうかだけでも違います。これは一例ですが、社内でもデザイナーが会議で、終始黙っていることが結構あるんです。そうなると一緒にやる他職種の人は「この人はこういうスタイルの人なんだ、黙々と作りたい人なんだな」って勘違いしてしまう。そういう認知をされると、上流の議論の場に呼ばれなくのは自明ですよね。

会議のような、小さなシーンの積み重ねで、デザイナーのイメージは醸成されていくからこそ、日々の振る舞いから変えていかなければいけません。

相手が求める価値を発揮していないのに、いきなり組織側に「デザイナーの扱いを変えてくれ」と求めるのは理解されない話なので、「デザイナーの組織の中での扱いを自ら変えるんだ」と振る舞ってもらえるといいですね。デザイナーが、自分の振る舞いでちょっとずつ周りの持つ認識を変えていくことで、組織は少しづつですが変わってくと思います。


上流からデザイナーが関わることで、大きな価値が生まれる。

ーー逆に、組織側からデザイナーが事業に対して価値を出しやすくするためにどのようなことをすれば良いのでしょうか?

デザイナーが下請け制作のような構造になっている会社が多いように思いますが、デザイナーは作る側じゃなくて、仕掛ける側に回らなければならない。デザイナーに上流側に携わってもらうことが、すごく大事だと思います。

具体的な話をすると、デザイナーは呼ばれるタイミングが遅いんですよね(笑)。ビジネス側としては、よく分からない状態で呼んでしまうことに、申し訳なさを感じてしまっているようです。ですが、デザイナーからすると「はじめから呼んでよー。」と思ってしまう。「やるかどうか分からない」「こんなこと考えてるんだけど」という段階から呼んでもらったほうがありがたいです。手を動かして作るだけではなく、一緒に考えてアイデアを飛躍させるところにデザインの価値がある。だからこそデザイナーを最初から巻き込んだほうが絶対に良いものをつくれると思うんです。

例えば新しいサービスをローンチする時、企画側がWebページをつくることをすでに決めている状態で、デザイナーに対して依頼がくるようなことはあるあるです。

そのような場合に、デザイナーが最初から企画の場にいたら、どういうことを達成したいのか、課題から整理して、それだったらこういう方法がありますよ、といった提案が色々出来たはず。例えば「Webページってそもそも必要なのか。」といったWebページを作ること自体の費用対効果についての議論も当然入れられますし、「もう少しSNSでのプロモーションにお金をかけよう。加えてリアルな場所でのプロモーション施策をもうちょっと仕掛けよう。」といった別パターンの話も出来ます。

本来であれば「こういうことを企画したいと考えているのだけど、どう思うか?」という相談の段階から一緒にデザイナーに考えてもらうのがいいのではないでしょうか。


ーーなぜそのような、「デザイナーを早く呼べない」という課題が発生してしまうのでしょうか?

組織構造の問題が大きいと思います。構造上、デザイナーが上流に携われるような組織デザインであれば、みんながデザイン価値を発揮出来るようになっていきます。

デザイナーが上流の意思決定に自然と入れる体制を敷くことで、「今やろうとしていることは、ユーザーの体験的にどうなのか」といった感覚的な会話が出てくるようになり、その結果ユーザー体験を重視したプロダクト開発を行うことが出来るようになります。

デザイナーが事業に対して価値を生み出しやすいよう、デザイナーにとって有利な立場が保てる組織構造を取り続けることが大事です。


デザイナーが動きやすい組織をつくる

ーー事業会社として、事業に価値を生み出すデザイナーが動きやすい組織をどうやってつくればいいのでしょうか?

前提として、事業側に入っているデザイナーには、課題発見をしてほしいと思っています。「深く事業と関わることで発見できる課題を解決する」仕掛ける側の人間になってほしい。

そのためには作り手のモチベーションを上げ、仕掛ける側に回れる仕組みを組織づくりに反映していくことが必要があります。デザイナーは「なぜやるか?」をとても大事にします。「なぜやるか?」自分の中で納得できた時はすごくパワーを発揮するが、なぜやるのかがわからないと、やらされている感覚が強くなってしまい、モチベーションが下がる職種です。「事業成長のために頑張ろう」とだけ言われるだけでは頑張れないので、「なぜやるか?」を共有しやすい組織構造を作り、自発的に仕掛ける側に回っていく人を増やすことを意識しています。

ツクルバには、クリエイティブ室という全社を横串で通しているデザイン組織があります。その横串を通す組織と、縦側の事業ラインが自然にクロスしている状態が、デザイナーが自発的に仕掛ける側に回りやすい環境をつくっています。デザイナーはクリエイティブ室に所属しながら、縦側の事業にも入っている構図になるので、事業目標と「なぜやるか?」をバランスよく意識することが出来るんです。


デザイナー1人1人に、キャリアパスを示す

ーー2人目、3人目と、デザイナーを巻き込んでいく上でどのように彼らをマネジメントすれば良いでしょうか?

デザイナーとしてのキャリアパスをしっかりと示してあげることが大切です。

デザイナーとして働いている人の中には「作業は好きだから、デザイン以外(いわゆる作業)はあまりやりたくない」という人も、まだ多いと思います。ただ、作れるだけだと他にもっと優れている人はいくらでもいて、いずれ壮絶なレッドオーシャンの中で戦うことになるということをまず認識してもらったほうがいい。

手を動かせるだけで価値になるのは、ある一定の年齢まで。その後は、作るだけでなく、「その後どういう効果、成果を生み出したのか」「そこからどんな失敗があって、その失敗からどんなことを学んだのか」のほうがはるかに価値になる、ということを常日頃メンバーに対して言っています。会社としても、手を動かす以上の価値を出せているデザイナーを評価出来る仕組みを用意しています。

ツクルバでも今後、責任範囲を広げて事業リードする役割に伸びていくキャリアパスと、デザインの専門性を突き詰めていくキャリアパスの2つにデザイナーのタイプを分けて人事制度を策定しようとしています。
このように、人事制度にも手を入れることで、多様なデザイナーのキャリアを会社の制度として示せるようになります。


デザイナーに対してリスペクトを持ち、キャリアパスや期待している役割について対話することで、2人目、3人目とデザイナーを巻き込み、デザイン組織を立ち上げていくことが出来るのではないでしょうか。


ーーデザイン経営を推し進める上で重要な組織づくりについて、さまざまな観点からお話いただき、大変学びになりました。今回は、貴重なお話ありがとうございました!
・ ・ ・

- - -

本メディアを運営するCocodaでは、「自社のデザインチーム・プロダクトチームの強みを発信していきたい」企業の方をサポートするプランを提供しています。

Cocodaのメンバーが発信のテーマづくり・コンテンツ作成・拡散のサポートを行います。ご関心のある方は、こちらのページよりお問い合わせください。

もっとサービス設計・デザインの知見に触れたい方へ

Cocodaで取り上げるサービス設計に関する知見にもっと触れたい方は、こちらのTwitterアカウントをぜひご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?