見出し画像

DesignCrossイベントレポート #2 株式会社CRAZY 林 隆三さん「『私のデザイン』ではなく『私たちのデザイン』と呼ぶこと」

株式会社CRAZYで執行役員兼クリエイティブディレクターとして活躍されている林さん。今回は「私のデザインではなく私たちのデザインと呼ぶこと」と題して組織やご自身の価値観、あり方についてお話いただきました。

インハウスデザイナーとしてチームでデザインすること

画像1

これは僕の「組織で働くこと」と「個人で働くこと」のバランスの数字です。デザイナーに限らず、どんな職種・業界でもそうだと思うんですが、独立や自分の名前で勝負することはある一定の経験や実績を得ると目指したくなるんじゃないかと思います。僕自身もそうで、漠然と20代の頃から将来独立すべきと思ってた節もありました。

その一方で、チームでやることの価値や可能性というものもすごく強く感じていて、仲間や友達と高い目標に向かって切磋琢磨しながら矯正していくことも好きだったんですね。

なので、「組織でやること」「自分で戦うこと」どちらにも興味があって、今もなお50:50みたいな感じなのですが、組織でやりたいというのがいつもちょっとだけ上回ってるのが僕のバランスです。

結構フラフラするんですね。日によって違ったり、状況や状態によって移ろったりするんですが、結局ちょっとだけ組織でやりたい気持ちが強いなと思うわけです。

どちらかが100%と思う人の方が少ないんじゃないかなと思います。特にデザイナーだったら100%組織でやりたいとか、100%個人でやりたいってあまり振り切れないというか。なぜなら明確にそれぞれの良さはあるのですが、確証とか保証はないわけで。そうなってくるとそもそも組織であるのか個人でいるのかみたいな選択肢も別に2つというわけでもないし、みんなそれぞれに模索してるんじゃないかなと思っています。

今日はこの51:49な僕がインハウスデザイナーとしてチームでデザインすることについてお伝えしていきたいなと思っています。

画像2

自己紹介

改めてですが、簡単に自己紹介を。

学生の頃は建築を専攻していて、卒業してそのまま設計事務所に入りました。建築の領域では残念ながらなかなか良い成果を出せなかったこともあり、インテリアデザインにシフトチェンジしていきました。そして、そのまま建築ではなく空間デザインを主領域としてクリエイティブを生業にしてきました。

もう少し補足すると、今も諦めてはないですが、子供の頃は小説家になりたいと思っていて、物語を生み出すことにすごく興味のある子供でした。今も本や小説を読むことは好きですが、物語を生み出すのは紙の上だけでなくてもいいんだと大人になるにつれて思うようになり、現在、ストーリーを感じる空間や時間を作ることをしています。物語を作りたかった子が手段を変えて物語だけでなく体験も生み出していると思っています。なので、感覚だけでなく戦略や計画、ロジックもきちんと組んでものづくりをしているのが主張したい部分です。

2012年の創業のタイミングに当時は外部のアートディレクターとしてCRAZY WEDDINGと一緒に仕事をすることになりました。

株式会社CRAZYは、「CRAZY WEDDING」というウェディングプロデュース事業を行っているのですが、そこまでウェディングが社会的に注目されていなかった時に、「業界に風穴を開けたい」「一緒にやろうよ」と誘ってくれました。
結婚式への興味や経験、実績もない自分を誘ってくれた背景に「結婚式を作ったことない人に作ってほしい」ということがありました。その話を聞いて「この人たち面白いな。サービスも面白いし、この人たちと一緒にやりたい。ここで自分の力を使いたい」と思いましたね。

ちょうど、「自分一人でやってみよう」と思っていたタイミングでしたが、「一人でやるのはいつでも出来る。会社組織やブランドを作り上げていくフェーズで、面白い・可能性を感じると思ったチームに参画できるチャンスは後にも先にもないだろう」と思い、迷わずジョインしました。

その後、約3年間で200組くらいの結婚式をアートディレクターとして担当させていただきながら、プレイングマネージャーとして採用や育成のマネジメントを行い、アートチームを作り組織化していきました。5年目ぐらいにチームが形になり、みんなが育ったタイミングで僕はチームから離れました。

そして、2017年に新しく法人向けのサービス「CRAZY CELEBRATION AGENCY」の新規事業のクリエイティブディレクターを担当し、今期から執行役員を兼任しています。

デザイナーは独立すべきか

みなさんに聴いていただく中で問いを考えてきました。

「デザイナーは独立するべきか?」

結論から言うと、どちらでもよくて、良い仲間とデザインできるかどうかが重要かなと思います。良い仲間と出会い、良いチームでデザインする。もしくは採用や育成を含めて良いチームを自分で作る。

なので、僕はインハウスデザイナーはすごくいいと思っています。
自分が良いと思うサービスやブランドを近くの人だけでなく遠くの人、多くの人に届けるためには、個人活動より組織活動の方が大きなインパクトがあると思っています。一人でできることには限界があるので、良い仲間とデザインすることはとても大事だと思います。

画像3

私たちのデザインと呼ぶ方法

「私たちのデザイン」とは、つまり「私」の範囲をどこまで広げられるかと考えています。チームメイトのことを「あの人」と言うか、その人も含めて「私たち」と言うかという話だと思っていて、クリエイティブやデザイナーだけでなく、組織のあり方としてすごく大事だと考えています。

共にデザインしたり、ものづくりをするチームメイトのことをどれくらい「自分ごと化」して関与し、関係性を更新しながらコミュニケーションを取り、その人のために自分がどれくらい変化し、成長できるかはとても大事。

これが面倒だから一人がいいと思うんですけど、これができるとめちゃくちゃ面白いんですよね。自分だけでは見れない世界が見れるというか、自分では行けない場所に行けると経験としてすごく感じます。

チームであることの認識や自覚を持つ仕掛けをCRAZYは創業の頃からずっと大切にしているチームだと思っています。

「デザイナーだから」「エンジニアだから」といった職種は関係なく全員で集まって話したり、みんなで握手をしてから始めるといったコミュニケーションの仕方も、はじめはあまり好きではありませんでしたが、やっているうちに僕自身にも変化が起きて、「なるほど。こういうのもいいかも」と思えるようになってきました。

株式会社CRAZYについて

画像4

ウェディング事業を基幹事業としていて、全体の8割ぐらいはウェディング事業の社員になります。残り1割が総務、1割が法人向け事業のメンバーです。

ウェディングがメインの事業なので女性の方が多いですが、職種としては17%がデザイナーとクリエイティブメンバーです。特徴としてはプロパーが半数を占めています。つまり、新入社員として入社しているメンバーが半数ぐらいいて、うちのカルチャーで育ち、うちのサービスを作り、その中でスタンスやマインドを培ってきたメンバーがいるというのがひとつ特徴かなと思っています。

画像5

去年、ビジョンが変わりました。ウェディングという人生を取り扱うのが事業の特徴なのですが、ウェディングだけでなく日常生活の中でも自分の人生や仲間の人生をすごく大事に取り扱うようにしています。

画像6

その取り組みの1つとして、今年の2月に表参道にIWAIという人生の節目を祝う施設を持つ事業を始めました。また、法人にも個人でいう結婚式みたいな大事な節目があり、CRAZY CELEBRATION AGENCYでは、その大事な節目の扱い方をプロデュースしています。

画像7

これが創業の頃から大事にしている価値観です。「本質的で、美しく、ユニークに」をすべての事業やコミュニケーションに関してはもちろんのこと、僕はクリエイティブにおけるルールだと思ってすごく大事にしています。

画像8

経営の優先順位というものがあって、第一が健康なんですね。なので、食事は創業当時からずっと気を遣っています。こういう経営の考え方がすごく面白いし、良いなと思っています。

画像9

健康経営は、食事だけでなく睡眠や運動、働く環境、あとは人間関係、それらに対してどういうコミュニケーションを取るかを考えて経営することが非常に重要ですし、そこで生まれるものはやっぱり全然違うじゃないかと思います。

有機食材で作ったランチをみんなで食べたり、6時間寝ると報酬がもらえる制度や1年のうち1か月ぐらい休んで旅に出るための制度があります。
きちんと休息を取り、健康管理をする。旅はインプットも多いですし、精神的なリフレッシュにもなります。良いパフォーマンスを出すためのソリューションになると考えてこのような制度を取り入れています。


20代前半からこの環境でデザインをしている弊社のデザイナーは、健康への意識が高く、こういった環境や状態でクリエイティブをすることがどれくらいアウトプットに変化をもたらすかを身をもって感じていると思います。

画像10

これもとても重要なんですが、職種に関わらず採用プロセスの最後に全社員80人くらいの前で自分のこれまでの人生についてのライフプレゼンテーションを行います。僕はどんな人間で、なぜここに来たか等をプレゼンするんですが、聞いているほうも真剣なので感極まって泣いたりする人もいます。

つまり、入社する前にその人がどんな人なのかを詳細なレベルで知ることができるので、人となりを全く知らずに一緒に働くのではなく、この人と仲間になりたいと相互に思い仲間になっていくシステムになっています。

これらがCRAZYの組織としてのあり方であり、結婚式や法人のアニバーサリー事業を大切にするためのカルチャーでもあります。

「世界で最も人生を祝う企業」というビジョンには、熱心に一人の人間を知ろうとすることや、希望の側に立って複眼的に肯定することが背景にあり、創業者のメッセージでもあります。

複眼的であるために必要なものがチームメイトだと僕は思っています。

自分だけではなく仲間の経験や知識、技術を共有することで、新しい解釈やより共感性の高いものが生まれると思っています。人生を扱っているからこそ共感性というものが非常に大事で、共感できないものをやっていては独りよがりなものになってしまいます。そういった点でもやはり一人でやらずにチームでやることが重要なのではないかと思います。

CRAZYの組織体制

画像11

社内の組織体制をサッカーやラグビーのように「フォーメーション」と呼んでいて、状況に合わせて勝てる布陣に組み替える意図があります。代表的なチームの組み合わせは、プロデューサーとクリエイティブ、プロマネがいて、これを横串と呼んでいます。縦串もあり、デザイナー同士の組織やチームがあります。

これらが全体で事業になっていく組み方をしているのですが、これはプロジェクトのチームではありません。プロジェクトごとにチームを組み替えるのではなく、一定期間固定して同じメンバーで商品を作っていきます。そうすると、業務に対してPDCAサイクルを早く回せるようになり、より品質の高い商品づくりができるようになります。チームビルディングの観点でもとても効果的だと思います。

縦串もデザイナー同士の相互理解を深めるためにすごく重要です。基本的にはプロジェクトに対して、一人のクリエイティブしか入れないのですが、プロジェクトを超えてお互いのクライアントやプロジェクト、デザインについて検証しあったり、提案前にレビューをしたり、講評会や勉強会、情報のシェアを濃密に行うなどしています。

お互いの関係性、ただの業務上の関係性だけではなくコミュニケーションの時間もたくさん取っています。一時期は業務時間の40%をコミュニケーションに使っている時期もありました。結果的に取りすぎではあったのですが、それぐらいのスタイルでやっています。

画像12

これは講評会時の資料なんですけど、月に一度、自分のとっておきの作品を全員の前に出し、外部のデザイナーさん等を呼んで講評し、今月の一番を決めています。

美大やデッサン予備校に行ってた人で、講評会とか大変だったけど実は好きという人は多いと思うのですが、戦う相手ではなく、お互いにモチベートされたり、みんながどれくらいの頑張り度合い、商品への想い、クライアントへの向き合い方でやっているかを共有していくことで、ブランドの力を総合的に強くしていくことができると思っています。デザイナー同士の相互理解がとても大事ということです。

なので、一人で作っている感覚は全くなく、先輩後輩という関係性もさほどなくて、僕から見るみんなは結構フラットだと思っています。それはデザイナーと一口で言っても領域はさまざまで、僕は空間やインテリアなんですが、グラフィックのメンバーがいたり、プロダクトの子がいたり、テキスタイル、ファッション、Web、建築…といろんな人がいて、お互いに知識や技術を交換しあったり補填し合うので、ライバルという感覚はありつつも敬意と感謝が惜しみない感じがうちのクリエイティブチームの特徴です。

この資料はデザイナーだけでなく、会社全体のクリエイティブリテラシーを上げるために、全社で共有しています。

デザイナーに対する非デザイナーの関わり方や対応、理解を深めていくのも非常に大事です。言語が違ったりお互いに理解しづらかったりすることもあるので、このような資料が架け橋になっていくのは非常に重要です。

クライアントも同様で、僕らはクライアントもチームの一員だと思っているので、理解を深める関わり方やコミュニケーションを取るように頑張っています。

仲間と共にやることは時代遅れなのか?

仲間と共にやることは時代遅れと考えたことがありました。今日、皆さんにお伝えした話をうちの4年目のデザイナーに「僕の考えどう思う?」と聞いたら「そうだと思う」と共感してくれて間違ってなかったんだと思ったのですが、技術的には誰でもデザインできる時代だからこそ、人間性や関係性、関わり方、コミュニケーション、思考や意図をデザイナーとして大切にしていきたいと思っています。

やはりそれを一人でやるのは非常に大変なんじゃないか、苦しいんじゃないかと思ったときに複眼的な観点で仲間がいることはとても重要だと思っています。

結局どんな時代でも自分の本質、本来性で決めるべきだと思っています。誰かが何かを与えてくれるわけでもないし、自分で手にしていかないといけない、自分で手にすることもできる時代ではあると思うんですね。

「デザイナーがどうのこうの」というのを時代のせいにして何か言及する必要や意味はないと思いますが、少なくとも自分で決められるんじゃないかなと。「デザイナーはこうだ」「自分はこうだ」と自分で決めればいいと思っていて、答えはないと思うわけです。自分が決めるだけなので、結局覚悟するしかないと。

これはCRAZY的な感覚なんですけど、「どれがいい」ではなく「自分がどうしたいか」をとても大事にしたい思いますし、僕のチームはそうだと思っています。

これまでさまざまな経験で、葛藤したことはたくさんあり、その中であり方ややり方を色々考えてきたのですが、僕はやはり良いチームでデザインしたいと思っていて、結論インハウスデザイナーがいいなと思っています。

私のデザインなんだけど、その背景や横には仲間がいて、「私たちのデザイン」と呼びたいと思っています。明日は分からないですが、今現在は51:49で「私たちのデザイン」と呼びたいと思う。それが他の仲間も同じであればすごく嬉しいし、「『私たちのデザイン』と言ってよ」とリクエストを出せるし、「『私たちのデザイン』と言ってみたよ」と言い合えるようなコミュニケーションが我々の中では起きていると思っています。

具体的でなくて申し訳ないのですが、組織のあり方によってデザインのあり方は非常に変わるということが今日お伝えしたかったことです。

良いデザインはいい環境から生まれると思いますが、その環境は自分のことだけでなく自分の身の回りを含めたものだと思います。なので、組織のあり方とデザインのあり方をこの時代、この社会の中で、デザイナー同士、みんなで「こんな環境、組織、仲間とこういうデザインをしていきたいね」と話せるようになると、すごく面白くなるし、良いデザインが世の中にもっと増えると常々考えています。

[ 質疑応答 ]

質問者1:会社全体のクリエイティブのリテラシーを上げるために非デザイナーに向けての具体的な取り組みについてお伺いしたいです。

林:一番わかりやすい組織としての取り組みは、今期から僕が執行役になったことが非常に大きかったです。CRAZYの執行役員はいわゆる事業部の責任者で、事業部の執行責任を持っているんですが、僕だけ事業部の責任者ではないんです。

つまり、会社のクリエイティブ全域の執行責任を持つことをオフィシャルにしたので、みんなが非常に分かりやすくなった。僕がクリエイティブの責任者だと明確にしたことや、僕が責任を持ってきちんとみんなに伝えたり、コミュニケーションを取ったりすることで、お互いがわかりやすくなっているというのはひとつあったかなと思います。

あとは僕が「そんなこと言わせない」と思っている性質・キャラクターなのもあります。ごちゃごちゃ言ってる人がいたら「お前やってみろ」と言えるような関係性や遠慮せず率直に伝え合うことはしています。ただ、いきなりはできないと思うんです。やっぱり一緒にメシ食ったりとか一緒に仕事をする中でちゃんと率直に伝え合う。

わがままを言いたいのではなく、理想から考えたときに現実との差異に対して「こうだよ」という話ができるようなコミュニケーションは非常に意識しています。なので、僕はデザイナーでありながら、そうでない人たちとの間をつなぐことをすごく意識して言葉を選んで伝えるようにはしています。また、公式にそのような関係性や体制を考えるのもひとつの手だったと今は思っています。

質問者2:インハウスでなくてもフリーランスという関係性でプロジェクトメンバーやチームごとに複眼的にフィードバックしあえると思いますが、組織にいてアウトプットする時とフリーランスという関係性の中でアウトプットするもので何が違うのかを教えていただきたいです。

林:関係性の作り方に尽きると思っていて、これは組織のカルチャーだったり関係性のあり方、つまりチーム・組織の価値観の話だと思います。

それでいうと、CRAZYは特にそこをすごく大切にしていて、それが一番大事だという価値観があるので、お互いに理解してコミュニケーションしながら確認し合っていくことでプロジェクトごとの関係性ではなく、もう少し踏み込んだお互いの人生レベルで関与しあったり、利益のためだけではない繋がりをきちんと醸成していくことが組織なら、CRAZYならできることだと思っています。

インハウスでないとできないわけではないですが、非常に効率的にできるということですね。それが特徴なんじゃないかと思っています。

司会者:ちょうどいい時間になったので終えたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

Writer : Maika Tsukamoto(@tsukamo_com
Photo : YASUHARU HOSHINO(@Yasuharu_



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?