DesignCrossイベントレポート #1 柴田 紘之さん『15名→150名超へ。急成長するツクルバで実践した、これからのデザイナーに必要な能力の身につけ方』
株式会社ツクルバでtsukuruba studios creative室 室長として活躍されている柴田さん。今回は「15名→150名超へ。急成長するツクルバで実践した、これからのデザイナーに必要な能力の身につけ方」と題して、登壇いただきました。個人の能力には「共通スキル」と「専門スキル」と異なるスキルがあると言います。それぞれのスキルにはどんな違いがあるのでしょうか。
場の発明を通じて欲しい未来をつくる
柴田紘之(以下、柴田):ツクルバの柴田と申します。よろしくお願いします。今日は「15名→150名超へ。 急成長するツクルバで実践した、これからのデザイナーに必要な能力の身につけ方」というテーマでお話させていただきます。
まず簡単に自己紹介から。1984年生まれの35歳です。プロフィールに「池袋育ち」とありますが、これはネタでも何でもなく事故です(笑)。あるイベントでのプロフィールをコピペしてそのまま送ってしまって(笑)。デザイナー歴は14年で、制作が10年、インハウスが4年です。インハウスも制作も両方経験しているので、今回は両方の目線でお話できればと思っています。
柴田 紘之 / 株式会社ツクルバ tsukuruba studios creative室 室長
1984年東京生まれ池袋育ち。デザイン事務所にてアートディレクターとして企業ブランディングを中心に広告、商品企画、プロダクト開発、Webプロモーションなどに従事。「働くってもっと自由だ」という考えのもと、自分たちの働き方もデザインの一部と捉え、自らの欲しい未来をつくるため2015年9月ツクルバに参画。2018年2月にtsukuruba studios creative室 室長に就任。
ツクルバという会社で働いているんですけれども、ツクルバの名前を聞いたことがある方はどれくらいいますか?
(会場挙手)
おっ、めちゃめちゃいる!ありがたいですね。誰もいないと思っててすごいドキドキしていました。ツクルバでは「場の発明を通じて欲しい未来をつくる」というミッションを掲げています。2011年創業の事業会社です。
簡単な事業紹介です。主力事業として、ITを活用したリノベーション住宅の流通プラットフォームcowcamo(カウカモ)という事業を行っています。暮らしの妄想から、不動産の購入、売却までを一貫して行なっているサービスです。もう一つはコワーキングスペースのco-ba(コーバ)です。全国に拠点を展開しており、2019年12月にフラッグシップとなるco-baが恵比寿にできるので、ぜひ使ってみてください。
私自身は、2015年の9月に入社して5年になります。入社した時の写真が左です。
2019年7月31日にマザーズに上場致しまして、その4年くらいはグロース期をデザイナーとして過ごしました。
インハウスデザイナーに求められる能力
ここから本題ですが、まず前提を説明させてください。
前提1つ目は様々な職種の人と仕事すること。これはツクルバの特徴でもありますが、めちゃめちゃ色んな職種の人がいます。例えばカウカモでは不動産仲介、物件記事のライター、ビジネス、エンジニア、デザイナー…色んな職種の人と仕事をします。
前提2つ目はスタートアップフェーズはとにかくカオスということ。デザイナーだからといって手を動かせばOKという環境ではありません。この前提を頭に入れて能力の話を聞いてもらえたらと思います。
僕が感じたインハウスデザイナーに求められる能力。それは「相手に合わせた言語でデザインを説明する力」です。例えば名刺をリニューアルするとしましょう。提案した名刺の単価が200円だったとします。「えっ、高くない?」と担当者に言われた時に、デザイナーがビジネス目線で、なぜ200円の価値があるのかを語れるのかがめちゃくちゃ大事。それがないと自分が提案した名刺が採用されません。「なぜ」を相手の言語に合わせて語れる力が必要です。
次は、「領域を越境しながら、何でもやる・やれる力」。先ほどの前提でありましたが、スタートアップはカオスでスピードが求められます。とにかくやらないと始まらないんです。「◯◯が決まらないからできません」「◯◯さん待ちです」と言っていたらスタートアップでは何も進みません。自分がボールを持って前に進める気概や、実際に前に進める能力はインハウスデザイナーにおいてはとても大切だと体感しました。
鍛えるべき共通スキル「インナーマッスル」とは
よくうちのデザイナーに話をしているのがこれです。
これ何だと思いますか?プランクです...。
(会場笑)
何かというと、インナーマッスルを鍛えましょうということです。特に必要な能力が共通スキルと呼ばれるインナーマッスルだと常々思っています。どういうことか見ていきましょう。
デザイナーのアウターマッスルを定義すると、デザイン基礎力。レイヤーが取れたり、色やフォントに関する知識や、アプリケーションスキル、媒体に適した知識など色々あると思うんですけど、デザイナーの皆さんが普段使っているスキルは、外から見えている筋肉だと思っています。これをアウターマッスルと例えます。
では、インナーマッスルとは何かというと、「対課題スキル」と「対人スキル」と定義しています。図で表すとこのような形になります。
一番下は「資質・性格」。次に「価値観・指向性」。その上に「共通スキル」があって「専門スキル」と続きます。ここでいう専門スキルとは、僕が定義したアウターマッスル、いわゆる皆さんが持っているアプリケーションスキルやデザインレイアウト力です。実はその下に共通スキルがあります。共通スキルが強くないと、専門スキルの能力を発揮しづらいんですね。
デザイナーで例えるとインナーマッスルが付いていればWebをやっている人が紙のデザインになったとしてもお作法が変わるだけで成果を出すことが出来るんですよね。グラフィックが得意な人が空間デザインをやってもインナーマッスルがあれば活躍できると思います。実際に僕がその例です。共通のインナーマッスルがあれば上に乗ってくるアプリケーションが異なっても能力が発揮できると実体験を持って言い切れます。
具体的に対課題と対人を挙げていますが、例えばこのような観点で個人の能力を見ています。
共通スキルを磨く機会を失っていないか?
制作会社勤務の人なら、ディレクターや営業にクライアント窓口を任せていませんか?対人や対課題を営業やディレクターがやってくれて、「こうなりました」と修正指示しか降りてこないことってありますよね。そうなると結局、インナーマッスルが鍛えられずに手を動かすだけになってしまう。
また、インハウスデザイナーだと、同じような年次の人や、同じ人とばかり仕事をしていませんか?同じ年次の人であれば似たような悩みを抱えているので、深く言語化をせずともコミュニケーションを前に進められる。ただ、それが目上の人との仕事になると、全然話が通じないこともあると思うんです。
インナーマッスルを鍛えたいのであれば、全然違う職種の人と仕事をするのも大事なことだと思っています。「筋肉は十分に鍛えられていますか?」という問いを常に頭に入れておくと、インハウスデザイナーに必要な能力が身に付くと思っています。
まとめになりますが、インハウスデザイナーに特に求められる大事な能力は、どの職種にも求められる「共通スキル」、言ってみれば「仕事力」が非常に求められると思います。
3つのフェーズで自分の立ち位置を確かめる
続いて次の項目「今の立ち位置と鍛える筋力を確認してみよう」という話に入りたいと思います。じゃあ、実際に何をどうすればいいのか。特に若いデザイナーはこれに悩むことが多いと思いますが、このフレームワークで考えるとやるべきことが明確になると思います。「自分で立つ」「自分で律する」「自分で導く」3つのフェーズで考えてみましょう。
自分で立つというのは、字のごとく自分で仕事を一人前に回せる状態です。特に若いデザイナーは、自分で立てる前にあれこれ手を出すことが多いように思います。「まずはひとつの事で自分で立てるようになりなさい」と社内のデザイナーにも言っています。そのために必要なことは、専門スキルと共通スキルの両方を伸ばすことだと思っています。
専門スキルというのは、先ほどお話したような、デザイン基礎力やアプリケーションスキル、媒体に適した知識を伸ばすこと。それに加えて対課題と対人課題、両方の共通スキルを焦らずに鍛えていけば、自ずと自分を律するフェーズはやってきます。
何となく上手くいかないなぁ、デザイナーをやっていて全然伸びしろがないなぁ、他の人と比べて成長していないなぁ、という期間が僕にもありました。そんな時、僕の場合は、自分で立つことを意識してスキルセットを磨いてきました。そうすると、5年位経過したある時に「何かできるようになったかも」というフェーズが来るんです。そういう時期に専門スキルばかり磨いちゃって共通スキルが磨けていないパターンが結構ある。専門スキルが磨けていると「君これできるんだ。これもお願い」と作業者としてはできるものの、本当の意味で課題を解決できるスキルが身についていません。その結果、難易度が高い仕事に対して成果が出づらい状態に陥りがちなんです。
まずは自律のフェーズを見据えて、やるべきことをやることが必要なんじゃないかなと思います。
それでは今日のまとめです。インナーマッスル鍛えないと専門スキルだけでは成果はでないと思っているので、インナーマッスルを鍛えましょう。まずは自立する。そのために必要な負荷を自分にかけ続けることです。
人間って怠惰で、自分に甘いんですよね。「自分はこのプロジェクトではこの筋肉を鍛えよう」とやる前に自分の中で宣言をしてあげると、必要な負荷をかけ続けられると思います。ただこなすだけの仕事になっちゃうと、結局負荷がかかっていないので、どうやってもスキルは伸びません。自分で自分に負荷をかけ続けられると、自分で立てるようになると思います。
いまデザイナーを募集しているので、Wantedlyで検索していただけたらと思います。あとはミートアップを定期的にやっています。connpassで募集していますのでよかったら覗いてみてください。ありがとうございます。
(会場拍手)
[ 質疑応答 ]
これからのデザイナーに求められる3つの要素
質問者1:お話ありがとうございました。自分で立つ「自立」のお話が興味深いと思いました。2つ目の自律と自導に関してもう少し深くお伺いしたいです。
柴田:自分で律するフェーズというのは、「どのくらいのクオリティなら自分でオッケーを出すか」ということです。「これでいいのか?」と自分にムチを打ちながら進めていくのが自律だと思っています。
自導は自分で自ら問いを立てられる状態。例えば「なぜこの会社や事業、サービスでデザインが必要なのか?」「もしかしたらデザインは必要なくて、リアルな店舗があるだけでいいのではないのか?」こういった問いを自ら立てられるのが自導のフェーズだと思っています。
質問者2:ありがとうございました。お話の中で相手に合わせた言語でデザインを語る力が必要で、そのためにデザインのアウターマッスルだけではなくて、対課題や対人スキルのようなインナーマッスルが必要ということにすごく共感しました。僕も全社員がそういう風になればいいと思っているのですが、若手によくあるのが専門スキルを追求することに興味が集中してしまって、対人スキルはいらないくらいの考えを持っている人もいると思っています。そういった人たちにインナーマッスルが必要だと気づかせるにはどうするのか?柴田さんはどのように導くのかをお伺いしたいです。
柴田:素晴らしい質問です、よくある話ですね。いま質問いただただいたのは、手を動かすのが好きという話になると思います。これからのデザイナーに必要な要素として3つの要素があります。それは「クラシカルデザイン」と「デザインシンキング」と「コンピュテーショナルデザイン」。この3つの領域を持ち合わせているデザイナーであるとSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のレポートでジョン・マエダさんが発表しているんですね。その中で若手の人が興味を持っているのはクラシカルデザインの部分なんですね。
クラシカルデザインだけだと、そこはかなりのレッドオーシャンで、天才のような人が沢山いるんです。その人を越えられるようなアーティスト性や光るものがないとその領域で勝負するのは無理だと思っています。僕はその世界で勝負できるほど才能が無いと思ったので、クラシカルデザインだけで勝負をせず、それ以外のジャンルの掛け合わせで、唯一無二な人材になろうと思っています。業界的にもデザイナーの領域はクラシカルデザインに閉じないのは明白で、ますます広義な意味でのデザインの必要性が求められています。そのような時代の流れを見ても、これから生き残る可能性が高いのは広義なデザイン力を持つデザイナーです。なので、そうした説明をするのがいいのかな、と思います。
補足させていただくと、クラシカルデザインを否定している訳ではありません。「だけ」で勝負していく。という事が時代に合わない。という話をしていますので、誤解の無いようにお願いします。
質問者3:貴重なお話ありがとうございました。今の質問と似ているところがあると思うんですけど、共通スキルであるインナーマッスルを鍛えるためにツクルバで組織的に取り組んでいることはありますか?
柴田:最近はじめた取り組みでいうと、前述した共通スキル項目を評価・報酬の仕組みに入れています。実際にどうやっているかというと、それぞれの項目に対して自己採点し、その採点に対して「上長はこう評価している」という上長採点をします。自己認知と上長の求めているものの差をの1on1で埋めながら、鍛えるべき項目をしっかり設定するような取り組みをしています。
司会者:ちょうどいい時間になったので終えたいと思います。ありがとうございました。
(会場拍手)
Writer : Ryuto Shiraishi(@shirara1234)
Photo : YASUHARU HOSHINO(@Yasuharu_)
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