続・サービスデザインの教科書 01 | サービスはエコシステムとしてデザインしよう
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続・サービスデザインの教科書 01 | サービスはエコシステムとしてデザインしよう

武山政直(ACTANT共同創業者 / 慶應義塾大学教授)

サービスデザインの誕生から30年以上が経つが、その発展と普及の一方で、肝心の「サービス」の意味が大きく変わってきている。それは業務や事業のカテゴリー(役務提供 / サービス業)として始まり、やがてあらゆる事業で成果や体験を共創する活動へと展開し、さらにいま、多様なステークホルダー、そして社会の共生を支える仕組みとして理解されようとしている。そのような変化にサービスデザインがどのように対応し、その行先を支えて(導いて?)いけるのか。すぐには答えが出なさそうな問いだが、気づいたこと、気になるところを(時間を見つけて)文字に起こしていこう。まずは「サービスエコシステム」というキーワードから。

サービスは支え合いの交換

アセット 12

人や組織は、ほかの人や組織の力を借りることで思うように活動できて、ほかの人や組織のために力を貸すことで、社会のなかで生き続けられる。そんな力の貸し借りを、広い意味での「サービス」と考えれば、社会はサービスの交換で回っていると言えるだろう。サービスは人が対面して直に行うこともあるが、製品を介して、またネットを経由して、リモートで行うこともできる。気心の知れた家族や友人、共に暮らすコミュニティのなかでの互恵的な支え合いがサービス交換の原型だが、人類がお金(=将来のサービス利用権)の交換を間に挟むようになったことで、その交換の組み合わせは見知らぬ者どうしの世界へと大きく広がった。

いろんな相手とサービスを交換できるといっても、やみくもにマッチングするわけではない。サービスのプロバイダーにとっても、ユーザーにとっても、繰り返し交換する相手が決まれば、都度相手を探し出す面倒から解放される。また多くの場合、1つのサービスの利用を、他のいくつかのサービスの利用がセットになって支えている。例えばLINEで家族に帰宅時間を知らせるという習慣が成り立つのも、LINEだけでなく、スマホのメーカー、通信キャリア、家族、帰宅時間を予想できる交通機関などのサービスのおかげだ。このような、”お得意様の”サービス交換と”お決まり”のサービスコラボのために、社会は人や組織の間にパートナーネットワークの形成を促す。そしてそのメンバー内で繰り返されるサービス交換と連携の手続きをルーティンにするために、共通のルールや慣習、文化を発展させた。

身近なところで、病院で診察や治療を受ける場合を考えてみよう。受付から始まって支払いが完了するまでの一連の手続き、患者としての医師との接し方や院内でのマナー、医師、看護師、技師などの専門スタッフの役割と責任、病院の経営方針と医療機関としての規範、病院施設に適した空間の構成や病院にふさわしいインテリアの選択、医療費の設定と保険による控除の仕組みなど、日本中(世界中?)の多くの病院に共通する様々な決まりごと慣わし(制度)が、そこに関わる多様なアクターどうしの繰り返すサービスの交換と連携を支えている。しかもそれは病院内にとどまらず、薬局、政府、医療費を負担する雇用主や保険会社などの組織にも及ぶ。さらに患者の家族や職場の同僚とのサービス交換にまで影響することもあるが、そこでも一定の慣習がアクターのやりとりをスムーズに促してくれる(あるいは、それに制約を受ける)。

サービスからサービスエコシステムへ

アセット 13

一連の慣わし(制度)の共有によって相互の価値共創が安定して繰り返されるパートナー間のサービス交換ネットワークを、最近のマーケティング論やサービス研究は、サービスエコシステムと呼んでいる。様々な生物の種が生存のために相互に依存しながら環境の中で生態系を築いているが、そのアナロジーで社会のサービス交換の特徴をとらえたものだ。生物が単独の種で生き続けられないのと同様に、人や組織も様々な相互のサービス交換に依存していて、その交換をできるだけ持続化させるようにサービスのエコシステムを築いている。ただし生物の生態系と違って、サービスのエコシステムは、病院の例で見たように、人や家族、組織、政府(さらに国際機関)などの異なるスケールのエコシステムが入れ子のように重なり合っていて、しかも経済圏、人種や文化、言語や宗教など、着目する制度の違いや重なりが(時に補い合い、時にコンフリクトを生むように)複雑な役割をはたしている。

新しいサービスの成功も、サービスエコシステムで考える必要がある。例えばUberのライドヘイリングサービスは、交通サービスの料金が移動距離に応じて決まるタクシーや鉄道などに共通する価格設定のルールや、AirbnbやZipCarに代表されるシェアサービスの購入・所有に対するメリットの認知、さらにAmazonやeBayなどで高まったオンラインのレイティング(評判)システムの信頼性などを土台にして、スムーズに理解され、利用されるようになった。しかしその一方で、タクシー業界との間に政治的、法制度的な軋轢も生んでおり、世界には日本はじめライドシェアを禁止している都市や国もある。つまりサービスエコシステムをまとめる制度は、新たなサービスの導入や普及にとって資源や追い風になり、制約や反動ともなる。またそれはときに破壊の対象ともなり、新たな創出の対象ともなりうる。

ルーティーンや文化に着目しよう

アセット 14

このようなサービスエコシステムの理解は、サービスデザインにどんな意味を持つのか?これまでのサービスデザインは、ユーザーの体験や成果に貢献するインタラクション、スタッフの役割と連携、それに必要とされる組織のコンピタンスなどを、一定の世界観やブランドのもとに生み出すことを得意としてきた。しかし魅力的なサービスの構成を組み立てて、その実現に向けて組織を準備することは、実際にそれがユーザーの活動するコンテキストに継続的に組み込まれ、さらに社会に広く浸透していくことを必ずしも保証してくれない。社会が様々なサービスエコシステムで動いていることを前提にすると、つくり出したサービスをユーザーや社会の新たなルーティンとしてインストールするには、そのサービスと関わる既存のサービスエコシステムとの関係の理解が不可欠となる。そして、そのエコシステムを支える制度に対する影響や、その制度からの反応、さらにそれを資源として利用する可能性などをデザインに取り込む必要があるだろう。

制度(決まりごと、慣わし、文化)は、繰り返す交換や連携の手続きをソリューション化して、意識的な検討や判断から人や組織の努力を解放する。しかもそれは外乱による変化に対する抵抗力を備えていて、それ自体を持続させるように働く。しかしまた、そのような制度をうまく利用することで、新しいサービスは既存のサービス交換のエコシステムの中に組み込みやすくなる。そのため、サービスのデザインやイノベーションをユーザーやプロバイダー、パートナー組織のアクターと共に進めるにあたって、それらのアクター(およびデザイナー)が暗黙の前提としている各種の制度の認識と、それに対する(建設的な)批判を促す必要がある。しかも明文化されているルールだけでなく、社会やビジネスの慣習と価値観、組織の規範や文化などの見えないルールを含めて、それらの意識化をどのように手助けできるかがサービスデザイナーの能力として問われている。

武山政直
ACTANT共同創業者/デザインストラテジスト/大学教授
慶應義塾大学経済学部卒業。Ph.D.(カリフォルニア大学)。慶應義塾大学環境情報学部助手、東京都市大学准教授を経て、慶應義塾大学経済学部准教授(2003)、同教授就任(2008)。経済地理学、マーケティング論、行動科学を応用したサービスデザイン手法の研究や産学共同プロジェクトを推進中。Service Design Network日本支部共同代表。
ACTANTはサービスデザインをベースとしたデザインファームです。リサーチから実装まで、さまざまなデザイン領域を横断しながら、しなやかに持続していくビジネスの実現をサポートします。https://actant.jp/