デザインの雑談:サービスデザイン・システミックデザイン・ソシオマテリアル
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デザインの雑談:サービスデザイン・システミックデザイン・ソシオマテリアル

ACTANT内で、最近気になっていることについて話したものを書き起こしてみました。世界中のデザイナーが試行錯誤中のまだ生煮え状態かつ現在進行中の話題をゆるゆると繰りひろげる「デザインの雑談」です。これを読んでいただく皆さんにとっても、デザイン活動のこれからを考えるトリガーになれば良いなと願いながら無責任に放り投げてみます。ここで出てきたキーワードは今後じっくりリサーチしていく予定です。皆さんも一緒に考えていきましょう。

今回の雑談は、サービスデザインからサービスエコシステムデザインへの変化について。その概念的なフレームワークはできつつあるけれど、その先の具体的な手続き、どう実践に落とし込んでいくのか、という話題です。

RYU:南部隆一
MASA:武山政直

サービスデザインがサービスエコシステムデザインになっていくってどういうこと?

RYU:さて、コロナで対面で話す機会がなくなって、雑談しながらぼんやりと次の一手を探る機会も減った感じがしますね。今日はそれを補完するというほどのこともないのですが、ゆるゆると流れに任せて話をしてみたいとお思います。やはりまずはサービスデザインの今について雑談したいですが、どんなテーマが面白そうでしょうか?

MASA:サービスデザインについて話すとき、サービスそのものの意味が大きく変わってきているので、サービスデザインもそれに伴って枠組みが大きく変わってきてますよね。そのへんを議論したい。

RYU先日公開したnoteで概説されているサービスエコシステムに大きく関連してますね。それはどんな変化なんでしょうか?

MASA:はい。サービスやデザインは、それぞれよく聞く単語ですが、わかりやすいようにみえて実はすごく動いている。その言葉の捉え方次第でやることが変わってくる。デザインもそうですが、サービスという言葉でとらえるものもどんどん広がっていて、最近は社会全体のエコシステムが対象になってきています。

RYU:デザインの定義はこうだ!っていう議論もよく目にしますが、定義そのものの境界線が常に揺れ動いてるってことですよね。でも、社会全体のエコシステムとなると、デザイナーが把握しなければならないことも、どんどん複雑になっていくような気もします。

MASA:そう。サービスデザインの扱う対象が広くなりすぎている気もするけど、一方でこの時代により重要な役割を果たすべし、という話でもある。サービスエコシステムの考え方は、サービスを、行動や習慣という人の行いのレイヤーと、それを支える社会規範やしきたりといった文化や集団のレイヤーの相互作用でとらえます。

新しいサービスを世の中に送り出すということは、すでにさまざまな行動や習慣がある社会の中に、サービスを利用してもらうための、あたらしい行動や習慣を組み込んでいくということ。なのでそこには、既存の行動や習慣を支える規範やしきたりが大きく影響してくる。そういう意味で、2つのレイヤーでサービスの社会への浸透を考えていこうというわけです。

サービスデザインは、社会システムづくり、人間の社会的な実践に携わっているよ、という話がサービスエコシステムデザインの根幹にあるんです。

RYU:なんだか随分壮大な話に聞こえますけど、一介のデザイナーにできることってどういうところなんですかね?

MASA:壮大ですよね。これから試行錯誤しながら探っていくべきことかもしれない。特にややこしいのは、デザインという活動自体もサービスエコシステムの中で起こっているし、地球や環境もサービスエコシステムといえるから、ひとことでエコシステムといってもそのなかに何重にもケアすべき側面があるところ。かなり壮大です。

システム思考とサービスデザイン

MASA:そんな壮大なテーマにチャレンジするための助け舟を求めて、サービスデザインは、最近はシステム思考にどんどん近づいていっています。

サービスのエコシステムを捉えようとするとき、いろんな要素が複雑に関係し合っていて、その全体の特性を、いろんな分析やマッピングの手法で捉える必要がある。そこにシステム思考が登場してくる。

つまりシステム論的にサービスを捉えましょうということ。これまで我が社とお客様といった小さい範囲の関係で見ていたのが、もっと視野を広げて、企業のサービスやビジネスを成り立たせているさまざまな間接的なステークホルダーとの関係性や、その関係を支える暗黙のルールや文化、環境といった「土台」がどうなっているのか見ていく必要が出てきた。そういう意味でシステム論はサービスの繋がりや構造を見るためのフレームワークとして有効だと思います。

RYU:最近、海外の記事を漁っているとシステミックデザインという単語をよく目にするようになりました。イギリスのデザインカウンシルのレポート(Beyond Net Zero)にも出てきたし、オランダのデザインファームの話を現地にいるACTANTのメンバーから聞くと、よくその話が出てくるみたいです。システム思考的な俯瞰した捉え方と実践的なデザインがつながっていて、すでに実践に落とし込まれているようですね。

MASA:いま世界中で起きているクライシスは、コロナも含めてうまく予測やコントロールできないことが多い。ある時突然パターンが変わるとか。そういうものを扱うフレームワークとして注目されているんじゃないかな。今までは、物事を単純化して、コントロールや計画の範囲で語れるロジックで対象を扱えてきたけれど、それを可能にしてきた社会の土台そのものが崩れ始めているので、なにかデザインしようとすると、一見関係ないものとか、これまで意識してこなかったものにも目を向ける必要が出てきますね。

RYU:なるほどなるほど。デザインという活動を成立させている基本条件が揺らいでいるということかもしれませんね。

MASA:そのとおりです。デザインもまた予測できない大きなシステムの内部に組み込まれている。その前提からデザインの活動をとらえていくべきだという考え方も出てきてます。デザイナーの視野が広がって、スタンスも変わってくる。そのためのフレームワークを持たなきゃってことで、システミックデザインといった話が急速に注目され始めたんじゃないかな。

RYU:そういう話も今後ちゃんと追わないとですね。

MASA:結局みんな同じところに向かってますね。

ソシオマテリアルという考え方

MASA:もうひとつ。デザインからサービスエコシステムを検討するためのポイントとしてソシオマテリアルというキーワードも重要かなあと。

RYU:その話題も気になっていました。ソシオマテリアルってどんな考え方なんですか?

MASAACTANTゼミのServDesの会で紹介したVinkのアプローチとも重なってます。デザインでサービスエコシステムの社会的ルールをとらえるときに、それが人の頭の中にとどまっているんじゃなくて、モノや人の振る舞い、環境のしつらえなど目に見える要素を通じて機能している点に注目します。そういったマテリアルな世界の要素と社会が分けられないように結びついているので、それをソシオマテリアルと呼んでます。

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(↑ServDes2020 https://servdes2020.org/events/84-addressing-echo-chambers-in-service-design-with-embodied-methodsよりVinkのワークショップ)

そのような結びつきは、人にそれを意識させないように判断や行動を促すので、普段はほとんど気にかけません。なのでデザインとしては、サービスの利用環境に存在する、見える要素が持つルールとしての役割にあえて意識を向けさせて、その変更の可能性を考えるようアプローチするわけです。

RYU:社会学的というかメディア論的というか、ギデンズの自己の再帰的プログラムのような話に繋がっていきそうなんですが。例えば、自分の属している社会を俯瞰的に見たり、自分の視点やバイアスを異化するしかけを投入してみたり。

MASA:Vinkの表現だと、現実世界のモノを氷山の一角として捉えて、その奥底に潜む社会的ルールの成り立ちを明らかにして、そこに揺さぶりをかける、といった言い方になります。ただ、先ほど言ったように、ユーザーもプロバイダーもデザイナーも、社会的ルールに無意識に組み込まれているので、その中からルールに気づくためにはそれなりの工夫と頑張りが必要になります。

RYU:世の中全体で、既存の社会構造が問題視されやすい流れになっていますよね。日本でいう70年代アクティビズムのような、社会を変えようと運動する人たちがまた増えてきている。たとえば、オリンピックの参加拒否を表明する選手が支持されたり、服装の規定等、自分たちが嫌なことを変えていこうという運動が増えてきてる。そこにデザインはどう応答していくのかってところがまだ曖昧。どうしていいかわからない状態にデザインがどう切り込んでいくか、まだ誰も対処できていない。ソシオマテリアルが突くところは、そういった文脈に対応するデザインの実践につながる切り口になるような気がします。

MASA:サステナビリティなど、地球をちゃんと考え始めるようになったのも、そういうこととも通じているんじゃないでしょうか。今までは、顧客とかユーザーとか、大きくみても日本はどうなってるのって話まででよかった。それが地球とか、生命エコシステムの中に自分が入っていると考えなきゃいけなくなった。でもそこまで含めたサービスエコシステムの発想に切り替えていくという意味では、未来に期待させる前向きな側面でもあります。

RYU:確かに、社会の仕組みそのものまで考えなきゃいけなくなるとVinkのソシオマテリアルはすごく重要な気がしますね。

コンフリクトやテンション(対立や緊張)に切り込む

MASA:サービスエコシステムをデザインする、あるいはその変化を促すということを考えようとすると、社会的なルールがいくつも組み合わさっていて、それがオーバーラップしてサービスエコシステムが動いている点にさらに目を向ける必要が出てきます。

RYU:また壮大な話に戻りました。

MASA:例えばヘルスケアだと、患者と医者のやりとりだけじゃなくて、医師と看護師の連携とか、病院の経営方針、保険制度、患者の家族や勤務先の同僚との関係、会社のルール、いろんな規範やルールが組み合わさって、安定したサービス交換のエコシステムが保たれている。

そこに、例えばDXが入ってくると、それまでにない新しい物事の進め方やあたりまえのルールが従来のルールとコンフリクトを起こすことがある。

RYU:ああ。具体的に考えるとわかりやすいですね。新しいサービスとかデザインを導入しようとすると、突如現れる障壁の一つですね。高齢者の方が新しい技術を使えるようにするにはどうすればいいか、リテラシーの差を切り捨てるのかどうか、とか。思わぬところから反対されたり、便利なんだけど結局使われなかったり。よく聞く話ですね。

MASA:サービスエコシステムのデザインは、そのコンフリクトに注目しています。異なる社会的ルール同士の対立や、コンフリクトが原因になって、イノベーションがそこから起こってくると考えるからですね。どういう制度が重なり合ってどこに緊張感、テンションが生まれているのか、みたいなものをみていきます。

RYU:人類学でよく聞くコンタクトゾーンや、バウンダリーオブジェクトといった境界域での創造性、あるいはトランスフォーメーションをテーマにしたデザインの話に近づいていきますね。

MASA:そう、亀裂とか対立がすごく大事で、そこで蓋をするんじゃなくて、むしろ焦点を当てていくことが、サービスエコシステムデザインの仕事なんだって話があります。

RYU:企業の方々がイノベーション、イノベーションって言い続けている文脈と、コンフリクトから生まれるイノベーションの話とは違うのでしょうか。

MASA:我々もそうなんだけど、イノベーションを考えるときに、なんとなく自分たちが気持ちいい範囲で議論してしまう。自分たちの前提が崩れるところまではタッチしない。というか、無意識に避けてるところがある。なので自分たちがどこを守っているのか、何に守られているのか、それをいったん暴いて、そこに意識を向ける。矛盾をはらんでいるけれども蓋をしている部分を引き摺り出して、危うい緊張感をあばく、みたいなことを本当はできると良いですね。そもそも論から。

RYU:亀裂に目を背けて変化が起きず、そのまま沈んでいくという事例は山程挙げられそうですねw

MASA:亀裂をみないで蓋をしちゃいがちだけど、(その亀裂に切り込んでいくことに)企業がお金を出し始めたら素晴らしいかも。組織や業界、生活習慣の合意コンセンサスはどこからきてどれくらい強固なのか。どこが崩れるとその前提が崩れるのか、みたいな話をしていく。つまりクリエイティビティを薔薇色の未来を描くためでなく、現状の「亀裂」を前向きにとらえるイマジネーションとして働かせるようにする。

RYU:となるとデザイナーは、蓋をしたいクサイものをあえて取り出してみせるという役割を担う必要があるってことですね? 損な役回りかもしれませんね、嫌われそう(笑)

サービスデザインの枠組み、どこまで広がっちゃうの?

MASA: サービスデザインの枠組みがサービスエコシステムまで広がってきているけれど、枠組みを一挙に広げすぎるとジャンルやアプローチとして危ういところも出てきますね。

RYU:以前、情報デザインというジャンルの枠組みがどう変わってきたかという分析をしたことがありますが、実はジャンルというのはその境界線が揺らいだり固まったりしていく過程であって、確固たるものじゃないんですね。みんなサービスデザインやデザイン思考というものを確固たるアプローチとしてとらえているかもしれないけど、そうではない。広がりすぎてコミュニティが薄まれば、ジャンルそのものも融解する可能性がある。科学技術社会論(STS)的な見方としてはそのほうが妥当です。

MASA:サービスエコシステムはマーケティング論やサービス研究の分野で発展してきた考え方だけど、その概念的なフレームワークを踏襲してデザインにもっていったときに、デザインの位置付けや役割が自ずとかなり大きくなってきますね。半年のプロジェクトでアウトプット出して終わりという話ではないし、いろんな人を巻き込んで、サービスエコシステムを支えるいろんな社会レイヤーのレベルまで関わっていくと、そこにおけるデザインとはなんなのか?もはやそれはデザインではないんじゃないのか?

RYU:ということは、たまにふと頭をよぎりますね。

MASA:あるいは、マンズイー二が言うように、政治から何からみんなで全部デザインしていくのか?そこまでいったらデザインじゃなくていいのではとか、だんだんアイデンティティクライシスみたいな話は出てくる可能性がありますね。

RYU:確かに危ういかも。

MASA:サービスエコシステムという考え方の理解までいっているけれど、それを行動に落とそうとした時に、その概念をつかって誰がどう動くのか。はじめからあまり大きなスケールのデザインを狙うんじゃなくて、ローカルでそれぞれがやっているデザインをそれぞれのパースペクティブでやればいいという方がシンプルです。ただそれらのローカルなデザイン同士のジョイントの仕方が問題になるけど、そこがまだよくわかっていません。

RYU:ボトムアップな具体性のネットワーキングというところでしょうか。総合的なアプローチを目指したバウハウスを思い出すと、「美しさ」みたいなものが存立条件になっていそうな気もしますけど。

MASA:関わることが複雑化してお互いにつながってきます。最近のサーキュラーエコノミーで社会をサステナブルにしようという話も、相当いろんな人が頑張らないと実際には実現しません。ビジネスモデルキャンバスにアイデアを書けば実現できるとかいう次元ではないですし。では、「エコシステムをキャンバスに描くようにしてデザインするツールや方法があるのか?」というと、そういうツールの使い方や活かし方も含めて、その開発の試行錯誤はサービスデザインのこれからのチャレンジだと思います。

RYU:デザイナーが意図して全体をデザインできるのかなぁという疑問もわきますが。それとも自然の生態系のように個別具体が絡み合って繁茂するようなネットワークになるのか。

MASA:うーん。

RYU:デザインというのは概念だけでなくて、もっと実践的に社会とつながっていく営みだし、そこが強みだと思うので、今日はここまでにして次回また、その先の具体的な手続き、どう実践に落とし込んでいくのか、という話題で話してみましょう。


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