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1/4|OPEN LIVING LAB DAYS 2017 に参加しました

昨年に続き、リビングラボのカンファレンスであるOpen Living Lab Days 2017(8月29日-9月1日)に参加してきました! 今回も、その4日間の内容をレポートしていきたいと思います。(昨年の模様はこちらを参照)

今年の開催都市、クラクフについて

本年のホストを務めたのは、ポーランド第二の都市クラクフ(Krakow)にあるKrakow Tech Parkです。このKrakow Tech Parkと、市内の大きな大学Jagiellonian Universityの2箇所が今年の会場でした。クラクフは、市内にシンドラーの工場が残っていたり、アウシュビッツへも車で2時間ほどという、ユダヤの歴史が詰まった古い街。ヴァヴェル城と旧市街を中心に街が広がっていますが、中心部から離れるにつれて道路沿いに大きな建物が増え、日本の郊外のような街並みが見られます。トラムでの移動もできますが、車やタクシーが主な交通手段となっていて、今回の2会場も中心部から遠かったため、参加者の多くがタクシーやUBERで来場していました(しかし車の交通量は非常に多く、道路は常に渋滞気味で、この問題にはクラクフ市も積極的に取り組んでいると、カンファレンス内のプロジェクトでも話されていました!)。

今年のカンファレンス全体の動向

昨年から続けて参加して感じた、今年のカンファレンスの動向は、以下の4つでした。

1) 大きな動向として、リサーチペーパーの内容や全体的なプログラムから、ENoLLとリビングラボ自体が次のフェーズに移ろうとしているように感じました。

2) 今年は参加者が350人以上とさらに増え、外部からの注目も高まってきているようでした(日本はもちろん、韓国や中国、アジア圏からの参加も増えていました)。

3) リビングラボ間のネットワーキングが強まり、知見やノウハウのシェアや連携がなされてきているように感じました(今回はコラボレーションでのワークショップも多く見られ、昨年、力を入れていたネットワーキングが実を結んでいるのかも、と思いました)。

4) リビングラボをサステナブルに運営していくため、ビジネスサイドへのアプローチやサービスデザインのメソッドを取り入れようとする取り組みが増えていました。

そして余談ですが、もうひとつ加えると、今年はホスト側のホスピタリティが手厚く、昨年と比べると大変豪華なカンファレンスでした。市長とのウェルカムドリンクパーティー、地元テレビ局の撮影、塩鉱のツアーなどが企画されていたり……。ドリンクも充実しており、ランチはビュッフェスタイル、ワークショップの休憩ごとにリフレッシュメントが変わっているなど、去年のランチボックスはなんだったのだろう……と思うほどの力の入れようでした。

Open Living Lab Days 2017のプログラム

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全体的なプログラムの構成は昨年と同様ですが、今年大きく変わった点としては「DAY0(ゼロ)」が設けられたこと! こちらは招待メンバーのみでの開催だったのですが、参加した方に話を聞くとみんな「この日が一番良かった!」と答えていました。そこでは「リビングラボとは何か」、「どのようにリビングラボを立ち上げて行くのか」、「リビングラボプロジェクトで使うメソッドやツール」などを中心トピックとした、主に新規ENoLLメンバー向けのプログラムが行われたそうです。そのほか細かい内容の変化はありつつも、開催された4日間は、1日目がResearch, Policy & Best Practices (Conference)、2日目がPolicy & Local Engagement (Conference)、3、4日目がWorkshopという構成でした。

パネルディスカッション:シチズンサイエンスとオープンイノベーション

今年は1日目からカンファレンス開始ということで、パネルディスカッションとペーパープレゼンテーションを交互に発表するスタイルでした(論文が例年よりも少なかったため構成を変えたようです)。

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パネルトピックは、ヨーロッパのシチズンサイエンスとオープンイノベーションにおける新しい職業や教育に関して。ここでは各リビングラボが、それぞれのラボやプロジェクトの紹介をしながらトピックに関するプレゼンテーションをし、その上でディスカッションする……はずだったのですが、両トピックともプレゼンで時間が押してしまい、ディスカッションの時間が取れずオーディエンスより簡単な質問を2、3して終了。

トピックがリビングラボと親和性が非常に高かったため、新しい発見を期待していたのですが、各ラボのステートメントや立ち位置を発表しているような感じで終わってしまったのが非常に残念でした。なかには面白い取り組みをしているプロジェクトもあり、ディスカッションすることによってさらに面白くなることが期待できたため、登壇者や運営側の十分な下準備が次年の課題になりそうです。

リサーチペーパー:3つのセクションと9つのペーパー

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今年のリサーチペーパーは、以下の3つのカテゴリーに分けて発表されました。

① Reflecting on, and in, research and practice in Living Lab processes
② Living Labs versus other forms of collective and collaborative innovation
③ Open Innovation and User Innovation in Living Labs for SME/business support, healthcare and urban & regional development

今年のVeli-Pekka Niitamo Prizeは、①のトラックで発表された“Drop-out in Living Lab Field Tests: A Contribution to the Definition and the Taxonomy”という論文でした。多くのリビングラボで、参加者がリサーチステージでやめてしまい、フィードバックや情報を十分に得られずに終わってしまうことがある事実を紐解き、その原因を体系化した内容です。トラック①は、この論文のみの選出だったのですが、リビングラボがそろそろメソドロジーやパターンを持つべき時期に来ているのではないかということで設けられたそうです。

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上の図は、なぜ参加者が途中でやめてしまうのか、主な原因を表したもの。原因はそれぞれですが、例えば……

Interaction → プロセスの途中で参加者の声が反映されていないなど、運営と参加者のインタラクションの問題。
Perceived usefulness → 参加者が、到達しようとしているイノベーションに対して意味を見いだせないなどの問題。
Participants resources → 参加者の時間がなかったり、プロジェクトを進行する上で私物を使用したり、個人の資産を消耗してしまうなど参加者のリソースの問題。

結論としては、ドロップアウトしてしまう理由を上記のように定義づけ分類してゆくことで、気づきや知識として共有しましょう、ということでした。ちょっと物足りない感じはしますが、
・実際にどう運営で対処していくか
・上記分類のさらなる検証
・どうすれば一度ドロップアウトした参加者と再びエンゲージメントできるか
などの研究を、これからのリサーチとして挙げていました。

②のトラックでは、オランダのWindesheim Universityが、生徒達と行っているGood life for an adultをテーマにしたヘルスケアプロジェクトのコミュニティとリサーチを中心に紹介していました。また、同国のリサーチ機関であるTNOは、運営しているCITYLABの知見からシティロジスティックに関するリサーチを発表しました。CITYLABは、2030年へ向けた排出ガスフリーの都市づくりを目指しており、ヨーロッパの7カ国間の24つのパートナーで構成されています。CITYLABに属している各リビングラボが連携し、輸送貨物機関の排気量を減らすと同時に、今までよりも利益を上げるための7つの革新的なソリューションを研究実践しています。発表されたリサーチでは、プロジェクトを進行する上で重要なデータコレクションに関して、どこからどう集めて来たかよりも、どう使うか、何を学ぶかを重要視した内容になっていました。そのため、各都市のリビングラボでは違うアプローチ、リサーチを実践しているようです。また、異なる都市でプロジェクトを運営する際には、どこからリソースを集めてくるか、誰とコラボレーションするかが重要なチャレンジになるとのことでした。

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③のトラックでは全体的に、リビングラボを活用したビジネスアプローチやメソッドなどが発表されていました。今年はサービスデザインのアプローチを実践しているリビングラボがいくつかあり、そのなかにサービスブループリントをユーザーと一緒に行ったことをメインで発表しているものがありました。リビングラボとサービスデザインを研究しているとは興味深い! と期待していたのですが、結果が簡単なファインディングスで終わってしまい(例えば「ユーザーと共創するにはロジックが難しい、複雑だ」、「ディベートのトリガーになったり、同じステージでの話ができることにおいては有効」など)、本当にメソッドを試しただけの研究報告だったので、リビングラボにおいてはサービスデザイン的なアプローチがまだまだ浸透していないことが、明白にわかりました。

(おまけ)カンファレンスでもプロトタイピングがリビングラボの醍醐味?

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今年は新しい取り組みとして「ランチルーレット」というものがありました。受付でもらった紙と同じマークの人とミーティングポイントで落ち合い、一緒にランチを食べましょうというセレンディピティなイベントなのですが、うまくワークしておらず皆近くにいた人と適当にランチを食べていました。ですが、小さい仕掛けをいろいろ仕込みながら、プロトタイプしていくのがこのカンファレンスのゆるさで、リビングラボのいいところだなぁと思います。

次回は、引き続き2日目のカンファレンスの模様とローカルビジットについてお伝えします。(木村恵美理)
(2018.1.18)