後編|地球と共生する、これからのサステナブルビジネスデザイン:FOOD SHIFT
こんにちは。
食領域のビジネスにサステナブルな変革を起こすための参加型プログラム 「FOOD SHIFT」 について、前回の記事では、デザインメソッド「SiD」の特徴とDAY1のワークについてご紹介しました。
今回の後編では、DAY2〜DAY4のワークと、その後のアップデートについてレポートしたいと思います。
DAY2:システムマッピングによる課題発見と機会領域の設定
レクチャー
DAY2の前半は、ACTANTメンバー、武山政直教授(慶應義塾大学経済学部)によるレクチャーです。サービスデザインとはどういうものなのか、持続可能な社会へのトランジションにサービスデザインをどう活用すべきか、難しいポイントや留意すべき点などを、事例も含めてお話しいただきました。前回のTom氏のレクチャーとも通底しますが、武山先生からも、複雑性の高いサステイナブルという課題に対してシステム思考が不可欠であることを学び、システム全体を考えようという意識がより高まったと思います。
システムマップからレバレッジポイントを探そう
レクチャー後、チームで前回作成したシステムマップのラフを元に、事務局で作成した「カレーのサプライチェーンにおける食品廃棄量」「日本全体の食品廃棄量」のシステムマップから課題を見つけるワークを行いました。
システムマップを読み込んでいくと、例えば「製造過程からの廃棄量がとても多いが、これは食べられる部分の廃棄なのだろうか?」といった疑問が出てきます。そのときに、その場で疑問を解決できるよう「製造過程で出る廃棄の多くは不可食部」などのデータ補足する「サポートデータカード」を約15枚チームごとに準備し、参加者に見ていただきました。こうしたカードも活用しながらフォーカスすべきレバレッジポイント(課題)を探り、各チームで「ここを変えたい」というポイントを定めます。
次に、「ここを変えたい」という課題が解決できた場合の、理想のシステムマップを描きます。このチームでは「生産からの廃棄量」「最も多い製造からの廃棄量」「最も可食部が多い家庭からの廃棄量」を変えたいポイントとしていました。
この3点の廃棄量が減った理想的なシステムマップでは、製造からの廃棄物が肥料・飼料として生産で活用されたり、生産で余った食材を家庭や学校などで活用できたり、家庭で余った食材をレストランで使用できたり……といった形でそれぞれをつなげ、各廃棄量を減らすことを考えました。
この理想的なシステムマップの状態を実現するために「領域、工程、食材、梱包材、製造者……」などの変えたいパラメーターをチェックし、機会領域としてまとめ、DAY2のワークは終了です。
DAY3・4:サステナビリティに貢献するサービスアイデア検討
DAY3とDAY4は、伊藤忠インタラクティブがリードする後半戦となります。川島勇我氏(伊藤忠インタラクティブ・アチーブメント事業部長代行)のファシリテーションで、具体的な事業アイデア設計を進めます。
DAY3ではまず、和田美野氏(日本総研リサーチ・コンサルティング部門マネージャー)による「フードテック」についてのレクチャーを行いました。テクノロジーや社会の変化にともない日々進化しているフードテックのトレンド、食品ロスについての様々なデータや事例が提示され、これからアイデアを考えていくにあたって、とても充実したインプットとなりました。
レクチャーに続くワークでは、ブレインストーミングや「WWOO」シートの作成を通じたサービスアイデアの検討を行いました。「WWOO」とは「Why&What is Only One」の略で、サービスがどういう目的のものなのか(Why)、インサイトはどういうものか(How)、提供できる唯一無二の価値は何か(What is Only One)を考えます。
DAY4では、前日のWWOOにもとづいて「CVCA」を作成し、サービスやコンセプトを精緻化しました。「CVCA」とは「Customer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)」のことで、想定されるステークホルダーを洗い出し、それらの間の価値やお金の流れを検討する手法です。
以上のワークを通して、最終的に各チームからは、次のようなサービスアイデアが生み出されました。
チーム1:カレーサプリ
農家の廃棄食材を顆粒化し、ユーザーの不足栄養素に合わせてブレンドしたカレーサプリ(粉)を届けるサービス。
チーム2:カレードリンク
近隣農家やレストランから可食部のフードロスを集め、カレードリンクを作成。会員制で、店舗でドリンクを提供する際に知識のあるスタッフが材料の説明などを行う。店頭にはコンポストを置き、家庭や店舗のフードロスを集め、農家さんに肥料として活用してもらう。
チーム3:地元食材を最大限活用できるプラットフォーム
カレー店からの廃棄を肥料化し、地域のシェア農園や農家に利用してもらう。その農家からは野菜を提供してもらい、カレー店で利用。その他、地域住民の家からロスになりそうな食材を集める「ウーバーセーブイーツ」を運用し、地域で生ゴミが出ないようにする。
4日間のプログラムを通して
全プログラムを通じて、サステナブルなビジネス創出のために、複雑な課題をシステム全体で考えていく手法にチャレンジしてきました。本来は数ヶ月かけて行うSiDのプログラムを4日間に凝縮したため難しい部分もありましたが、参加者の方からは「ELSIやMap of Mapsのフレームワークが使いやすく、普段は考えられていなかった現在のシステムについて考えることができた」とのご意見もありました。コロナ禍でのオンライン開催となりましたが、なんとか参加者の皆さんの発話も促すことができ一安心です。
SiDと事業アイデア検討の接続部分に、改善余地があることもわかりました。SiDでシステム全体に着目して考えることができた一方で、ユーザー目線でのアウトサイドイン視点(生活環境でのニーズからの発想)との接点がこぼれ落ち、前半ではサプライチェーンに目が行きがちになってしまっていた点です。広いエコシステムと生活者のニーズをどうつなげるかが、今後の重要なポイントとなりそうです。
プログラムのアップデート
FOOD SHIFT終了後の5月、「DMN2022」の一環としてワークショップの機会をいただき、アップデートしたプログラムを実施しました。
ここでは、アイデア創出のためのプロセスに社会の慣習や価値観、人のメンタルモデルを検討するプロセスを追加して、広義と狭義のサステナブルな課題を接続する試みを行いました。手続きは以下のとおりです。
① 変えたいポイントに影響を与える要因を書き出す
② 理想の状態になるとどうなるのか書き出す
③ 理想の状態になるためのアイデアを考える
まず①のワークでは、要因を「制度・規制」「価値観・考え方」「その他」に分けて書き出してみます。例えば「一般家庭からの廃棄量が多い」という変えたいポイントに対しては、以下のような原因を挙げることができます。
制度・規制:
ゴミが捨てやすいルール、廃棄することに対してペナルティがない、コンポストの義務がない、制度が整っていない…
価値観・考え方:
分別するのが面倒、可食部でも外側は食べたくない、食材を余らせてしまう、知らない間に賞味期限が過ぎている…
その他:
子どもが好き嫌いして残飯が出てしまう…
次に②のワークでは、課題となる要因を理想的な状態に変換して書き出します。例えば「可食部でも外側は食べたくない」「食材を余らせてしまう」という要因を理想化すると「食材を余すことなく使って美味しい」という状態になります。
そして③のワークでは、理想的な状態を実現するために行うべきアクションのアイデアを考えます。カレーレストランで「食材を余すことなく使って美味しい」という状態を目指す場合、「普段捨てている可食部で作られた美味しいカレー」「余り物にかけて美味しいカレー」などのアイデアが出てきます。
このワークをアップデートしたことで、目に見える「インタラクション、タッチポイント、オペレーション」などだけでなく、目に見えない潜在的な要因となっている「ルーチン・慣習」「規範・価値観・文化」までを含められるようになり、SiDだけではカバーしづらい、ユーザー目線でのアウトサイドイン視点も取り入れることができました。ワークを3段階に分けたことも、アイデアの数や幅広さにつながったように感じます。
また、リアル開催となったDMN2022では、システムマッピングを手描きしたり、チームで活発にコミュニケーションをとったりと、対面ならではの盛り上がりが生まれ、とても充実した回となりました。
今後はビジネスモデルの検討をより精緻化できるよう、プログラムの更なるアップデートを進め、サステナブルビジネスのサービス創出・実装に取り組んでいきます。ご期待ください。
ワークシートのダウンロード
DMNでアップデートした後半のワークシートは、以下より無料でダウンロードいただけます。ぜひトライしてみてください!