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3/4|OPEN LIVING LAB DAYS 2017 に参加しました

3日目からは会場をKrakow Tech Park(KTP)に移してワークショップが行われました。KTPは街の中心部よりさらに離れたKraków Special Economic Zoneと呼ばれる、様々な企業が集まるクラクフのイノベーションの中心的エリアに位置します。

最初に、ENoLLプレジデントのTujaとKTPのプレジデントからのイントロダクションがあり、1、2日目の様子をまとめたビデオを流して会場を沸かせました(昨年はカンファレンス終了後にwebにアップされていたので、そのスピードに驚かされました……!)。

ワークショップ:5つのカテゴリー

今年はワークショップに5つのカテゴリーが与えられ、より内容を想像して選択しやすくなっていました。カテゴリーの内訳は、“HEALTH”, “CIRCULAR ECONOMY”, “SERVICE DESIGN”, “SMART CITES”, “LL POLICY”と、昨年から雰囲気が変わっていました。私は3日目の午前中にSERVICE DESIGNのワークショップに、午後にSMART CITESとHEALTHのワークショップに参加しましたので、簡単にそれぞれの模様をお伝えします。

SERVICE DESIGN:リビングラボにおけるペルソナの活用

まず最初は、“Towards personas as tool in Living Labs”と題された、スウェーデンのBotnia Living LabとフィンランドのLaurea University of Applied Sciencesの共同主催のワークショップ。昨年は全くといっていいほど語られていなかったサービスデザインという領域に、リビングラボがどうアプローチするのか気になり参加しました。

その内容は、前半に「ペルソナとは何か」、「なぜ活用するのか」、「どのように作るのか」などをプロジェクトの事例を挙げながら説明し、後半に実際にリビングラボプロジェクトで行ったペルソナづくりを体験するといったものでした。前半のペルソナについての解説や使い方は、サービスデザインやその他の領域で実践されているものとほぼ違いがありませんでした。実際にユーザーと共創するリビングラボの場において、なぜペルソナが必要なのか? という疑問に対しては、やはり常にユーザーと細かいやり取りをするのが難しいからとのこと。また、プロトタイプフェーズまでの素早いコミュニケーションが必要になるデザインフェーズでは、個人としてのユーザーからフィードバックをもらうよりも様々なタイプで分けたペルソナを活用する方が、プロジェクトが速く発展しやすいという理由から取り入れているということでした。

事例として紹介されたプロジェクトは、未来の高齢者のヘルスケアサービスでロボットがどのような役割を持てるかという研究でした。ペッパーやドローン、iPadに走行ロボットが付いたものなど、様々なロボットを高齢者たちがテストし、その上でロボットに対する印象や彼らの考えをインタビューし、その先のデザインフェーズのためにペルソナを作成するというものでした。

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後半では、実際にこのプロジェクトで作成されたペルソナを自分たちで再現するワークショップを行いました。

① まず、実際に行われたインタビューのスクリプトをスキミングし、そこから参加者に割り振られた人物の発言や考えを読み解きます。

② スキミングした後は、4つのカテゴリー(アイデアをたくさん持っている、ロボットに対して好意的、人の意見に流されやすい、など)の各バーの中に、各人物をマッピングしていきます。

③ ホストが実際に行ったマッピングと照らし合わせながら、クラスタリングしていきます(あらかじめ割り当てられた人物ごとに色が分けられていました)。

④ クラスタリングしたグループに分かれて、そのなかの人物群から共通点を見つけ出し、ペルソナを作成していきます。

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↑最終的に出来上がったペルソナ

ペルソナの分析などをとても細かく行う、丁寧な進行のプラクティカルなワークショップだったので、ペルソナを援用することの少ないリビングラボには参考になったのかもしれません。一方、サービスデザインの知見をもつ人々にとっては、新しい発見がなく少し物足りなかったようでした。

SMART CITES:テストプラットフォームの課題と役割

午後の1つ目は、SMART CITESのトラックから、“Co-creating services for smart cities – models, processes and ecosystems”に参加しました。まず、フィンランドで実践されているスマートシティのプロジェクトSmart Kalasatamaのプレゼンテーションが行われました。そのなかで、来年2月に新しくオープンする予定の、ヘルシンキのソーシャルヘルスケアサービスを行うKalasatama Health and Wellbeing Centreのモデルを、Smart Kalasatama Living Labが共創しながら建設中であることも、最近の事例として紹介されました。後半では、実際にリビングラボで使われているオープンイノベーションエコシステムマップ(ステークホルダーマップのような運営モデルを表したもの)を紹介しながら、リビングラボの中間組織的な存在であるテストプラットフォームの課題と役割について、以下の2つのトピックにフォーカスしてディスカッションしました。

① 開発と実験プラットフォームで活躍するマルチアクターをどのように育てていくのが良いか?

② スマートシティサービスを創出するためのイノベーションエコシステムはどのように構築できるか?

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参加者それぞれのラボでの経験や事例を話しながら、どういったツールを使うとよい、どういうコミュニケーションや役割をしていくべき、など様々な意見が出ました。しかし、ここでいうテストプラットフォームには、ステークホルダー全体を協力者としてファシリテーションしてゆく総合的なネットのような機能を果たしながら、短期間でプロジェクトをアジャイルで回していくというかなり高度なことが求められているので、完全に体系化するのはまだ難しいという印象でした。

HEALTH:リビングラボの相互連携

この日最後のワークショップは、ベルギーのLiCalabがホストを務める“Evaluation of data collection and data analysis in a transnational healthcare project”という、ヘルスケアプロジェクトのプレゼンテーションとディスカッションでした。このプロジェクトは製薬会社がクライアントで、世界の各国で薬のパッケージデザインをローカライズするというもの。薬は国によって保管方法や処方の仕方、パッケージで与える印象などが変わるため、世界7カ国のリビングラボでユーザーテストしながらデザインを調整していったそうです。

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日本からは、東京大学の秋山教授がこのプロジェクトに参画され、鎌倉リビング・ラボでのテストの際のお話もされていました。実は、昨年のカンファレンスでパネルマネージャーのLeen氏が、このプロジェクトの日本での受け入れ先を探しており、秋山先生と連携する話をしている際に私も同席していました。そこからほんの数ヶ月、鎌倉リビングラボが本格的に立ち上がる(2017年1月にオープン)前にこのプロジェクトを行ったそうなので、これくらいのスピード感をもって進められる推進力はとても重要だと大変勉強になりました。

もちろん日本以外のリビングラボとも同じように連携し、パッケージの色や文字などのデザインを調整してローカライズしていったとのことなのですが、やはり遠く離れた国のリビングラボ同士の連携は大変なこともたくさんあったようです。そういったことを踏まえた上で、後半は、国境を超えたコラボレーションの際の障害を話し合い、その解決策を考えました。

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まず、プロジェクトを主催する側のラボと、それに協力するコーディネーター側のラボ、それぞれが抱える障害や問題を列挙します。その後、その問題に対してどのような解決方法があるか、またどういったツールやステークホルダーが必要かを書き出し、ディスカッションしました。やはり8割ほどがコミュニケーションの問題で、その他は文化的、物理的、技術的な問題などが挙げられました。リビングラボ同士のコラボレーションの課題はまだまだありそうですが、こういったカンファレンスで信頼関係を築いた上で、ある程度相手に任せながら進めていくことが大事なのではないかと感じました。

(おまけ)ガイドツアーとソーシャルディナー

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最後のワークショップが終わると、会場まで迎えに来た何台もの大型バスに乗り、参加者みんなでヴィエリチカ岩塩坑のガイドツアーに向かいました。ここはポーランドで年間100万人もの観光客が訪れる世界遺産で、地下327メートルも続く採掘場(全長300km以上もあるそうですが、公開されているのはほんの一部)の中には、すべて岩塩を掘ってできた部屋や立像、シャンデリア、礼拝堂などの素晴らしい景観が出現。と同時に、操業当時の厳しい岩塩坑の様子が窺われました。

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ガイドツアーの後はソーシャルディナーの予定だったのですが、なかなかツアーが終わらず、帰るにも帰れないなぁと思っていると、ツアー最後の部屋がなんとソーシャルディナーのレストランになっていました(これが今回一番驚きました!)。ソーシャルディナーでは、今年度新しく参加したENoLLメンバーの紹介や、Veli-Pekka Niitamo Prizeの発表、オーガナイザーへの感謝の言葉などが述べられました。このあと岩塩坑から脱出し、街の中心部に戻ったのは深夜12時近く。明日のワークショップのオーガナイザーたちは翌朝の出席率を気にしていました。(木村恵美理)
(2018.1.24)