デザイン図解式「書いて考える」ことのススメ 〜グラフィック・ストラクチャー
「岩田さん、その可視化の技術をぜひ言語化してください。」
「“グラレコ”とどう違うんですか?」
「カプリスさんはなぜ“ファシグラ”をやらないんですか?」
ここ数年ほんとうによく質問されます。そのたびにボクはなんとなく言葉を濁してきましたし、あまりちゃんと考えようともしませんでした。しかしこのたび、あるお仕事の機会をいただき、ついにそこから逃れられなくなりました。自分たちの技術の言語化。うまく説明できるかどうか分かりませんが、せっかくですのでノウハウも含めて公開していこうと思ったのが、このノートを立ち上げた動機です。
■自己紹介=ベースは「デザイン図解」の概念
まずボクたちは、自分の可視化技術に「グラフィック・ストラクチャー(以下グラスト)」という名前をつけました。
あ、申し遅れました。ボクは岩田ナオキと申します。パートナーの花奈さんと2人で、アトリエ・カプリスというデザインチームを運営しています。何の専門家かと聞かれたら、わかりやすくいうと「グラフィック・デザイン」という仕事をしています。
でもちょっと、分かりにくく説明します。
今から10年以上前に独立開業したとき、新しく「デザイン図解」という分野を開拓しました。分野といってもボクらたった2人ですから、むしろ「勝手にそう名乗っている」というのが正しいかもしれません。
でもこの言葉を使ってみると、いろんな業界の方から、いろんな相談や依頼が飛びこんでくるようになりました。まったく自分らでも予想外のできごとです。
たとえば大学の講師の仕事。「企画コース」を専攻する学生さんに「アイデアや戦略、思考、情報をまとめてそれをちゃんと伝える力」を養ってほしいという依頼。
また「新しい事業を立ち上げるからプロジェクトに加わってほしい」という依頼。そこではホワイトボードなどを使って、プロジェクトメンバーのケンケンガクガクを整理しながら、新しい価値やビジネスモデルを創っていきます。
さらにマンモス組織の想いや進むべき方向を指し示す「概念図」づくり。これも様々な意見や認識をまとめるため、制作編集過程からかかわっています。
じつにややこしい。
つまり新しい何かが生まれる孵化直前のモヤモヤ〜っとした状態や、これからのビジョンを描いていくケンケンガクガク状態を、ささっとドローイングして形にしていく作業というのでしょうか。誰かがボクらの活動を称してくれた「思考のビルドアップ」という言葉も気に入ってます。
■ファシグラやグラストとの違い
このように「企画プロセス」や「編集プロセス」のなかでホワイトボードや模造紙を使って、出てきたアイデアや意見を可視化していきます。この作業がちょっとだけ「ファシリテーショングラフィック(ファシグラ)」や「グラフィックレコーディング(グラレコ)」と似ているので、そんなご依頼もよく飛びこんでくるのです。でも恥ずかしながら「それはできません」とお断りしています。
そこで冒頭の質問が、たくさんわいてきます。
だからまず「ファシグラ」や「グラレコ」などとの違いについて、よ〜く考えてみました。そこで出てきた相違点が「発生源」の違いです。ボクらの可視化技術(グラスト)」は、話しあいの技術でもなく、記録の技術でもなく、ごくごく自然に「デザイナーの打ち合わせ」が起点になります。
それが違うと何が大きく変わるのかというと、グラストの場合はほかと違ってグラフィッカー(描く人)が主体性を持ってしまうんです。つまり出てきたアイデアや意見を、独自に解釈したり意味づけしたり、大事そうな意見を平気でスルーしたり、何でもなさそうな意見を大げさに取り上げたり。誰も何も言ってないことを書き加えたり。独断で線引きをしてみたり。こんなこと、ふつうの会議でやったら怒られそうですね。でもそこで行われている議論の、何倍もの価値にしていくのがグラストのミッションです。
学習にたとえて言うなれば、テストに出てきそうな重要な語句を拾うのではなく、自分が「おもしろそうだ、おもしろくなりそうだ」という、超主観的なノートのとりかたをする。そんな感じです。
それと意識しているのがアウトプット、つまり全体像をどう作るかです。グラストの進め方は必ずしも時系列で描いていくとは限りません。議論にはさまざまなカタチがあります。小さな起点から放射状に広がっていく議論もあれば、多様な意見が一つに収斂されていくカタチもあります。もちろんプログラム化された直線的な進めかたもありますし、はじめから枠組みがハッキリした進めかたもあります。またカオス状に意見が突発するカタチも少なくありません。さまざまな議論のカタチを読み解きながら、その骨組みとなる「構造=ストラクチャー」を描いていくことが、文字どおりグラフィック・ストラクチャーのねらいです。
■つまりグラフィックストラクチャーとは?
あれだけ避けてきましたが、いざ言語化しだすと止まらなくなってきましたので、ここらへんで一旦まとめを。グラストは一言でいうと「デザインの打ち合わせノートをパブリック化したもの」です。時代が生んだとか、社会ニーズがあったとか、そんな仰々しく言うつもりはありません。でも少なからずこの技術に興味を持ってくれる方がいることを支えにして、少しずつ記事にしていこうと思います。稚拙ながら、ほんの少しでもみなさんのお役にたてることを願いながら。
【プロフィール】
アトリエ・カプリス 2008年12月開業 グラフィック・デザイン業務
大阪市北区同心町
webサイト https://dzukai.com/
岩田直樹 1967年9月生まれ アトリエ・カプリス代表
デザイン図解士、趣味:落語「楽天家画楽」
神戸芸術工科大学 非常勤講師
国立明石高専 非常勤講師
A'ワーク創造館 契約講師
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