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菅プロ対談① 強引な解釈を生み出すレイアウトの力とは

「新しいデザインの教科書」とは、多摩美術大学統合デザイン学科菅俊一プロジェクトによる、課題成果展です。私たちは、デザインという考え方の本質について改めて向き合い、7つのテーマから制作課題を考案しました。
本展示は、2020年8月16日20:00にて終了しました。
多くの方のご来場および、課題へのチャレンジありがとうございました。

このnoteでは今回から5回に渡って、それぞれの学生がどのように課題に取り組んでいったのかについて、話しています。第一回は、この課題を出した菅先生と、「レイアウト」というテーマで課題を制作した布瀬・野中によるトークです。


そもそも「課題」ってどういうもの?

:僕は元々美大の教育を受けていなくて、美大特有の教育のスタイルだなと思っているのが「課題(教員があるお題を出して、学生たちがそれに則った作品を作るという形式の授業)」なんですよ。もちろん、僕も大学の時にそういうタイプの授業を受けたことはあるけれど、授業の多くが課題を作ることに割かれているのはとても独特だなと思ってるんです。二人はそもそも「課題」ってどういう物だと思ってます?

野中:技術や考え方を習熟するには実際に作ってみるのが早いと思うんですけど、知識がないと作るものを考えるのも難しいので、そういう時に明確に作るものを提示してくれるものだと思ってます。

布瀬:デザイナーやアーティストとして必要な経験を養う為のもので、調べて分かるような事より実際に手を動かす事で掴める感覚などを学ぶ機会だと考えています。

レイアウトを選んだ理由

:今回、「新しいデザインの教科書を考える」という課題に取り組む上で、二人は僕が提示したいくつかのテーマの中から「レイアウト」を選んだわけだけど、そもそも何でこのテーマを選んだの?

野中:自分が今まであまりでやってこなかったものをやろうという気持ちと、ビジュアル面に関することをやりたかったという気持ちがあります。後、菅さんが書いていた時間における配列が気になりました。

:確かレイアウトについては、最初に「時間・空間における事物の配列の仕方について扱う概念。どのように配列すると、どのような意味や解釈が生まれるかについて考える」って定義した話をしてから、僕が以前書いていたレイアウトという概念について考えた時のメモを見せたんだよね。布瀬くんは何でこのテーマにしたの?

菅メモ_アートボード 1菅俊一による「レイアウト」に関するメモの一部(2005)

布瀬:大学での課題をこなしていく中で自分が今まで強く意識していなかったテーマであったことと、個人テーマ研究でグラフィックデザインについて調べていたので、「レイアウト」とグラフィックは深い関わりがあるなと思い選びました。

菅:このプロジェクトでは、僕の方針で3年生の時から「個人テーマ研究」と題して、卒業制作のためのテーマを1対1でみんなとそれぞれ話す検討会を月1くらいのペースでやっているんですよね。布瀬くんとはその中で「”強い”グラフィックとは何か」という話をずっとしていて、野中くんとは「言語やイメージによる感情の伝達」っていうテーマで話していました。今回の課題については、それぞれのこういった関心に繋げてみたり、敢えて離れてみたりという判断があったってことですね。ただ二人に共通しているのは、「レイアウト」という言葉から直感的に、視覚要素に関係しているイメージを持っていたっていうことですよね。


リサーチの中での発見

  :テーマを決めた後、みんなにはまず「レイアウト」って何なのかを改めて調べてみるところからはじめてもらいました。知っているようで知らないことってたくさんあるし、調べていく中で、これまでのイメージが変わっていくということも期待して色々調べてもらったんですが、「レイアウト」について色々調べる中で、初めて気づいたり驚いたことってあった?

野中:デザインにおけるレイアウトのイメージは変わらなかったんですけど、レイアウトを広く捉えることで普段の物の置き方とか映像における情報を出す頻度とかもレイアウトだと思うようになったのは良かったです。

布瀬:自分が思っていた以上に視覚要素が強かったことと、レイアウトされたものは何かしらの意図や秩序が含まれている極めて人工的なものである、という気づきがありました。

野中:音もレイアウトになるのか?!みたいな話をした記憶がありますね。個人的にはタワーディフェンスゲームみたいな、レイアウトがゲーム性に直接関わってるものがリサーチで一番グッときました。

布瀬:ありましたね!オーケストラの配置がパフォーマンスに影響しているという話もリサーチで出てきた覚えがあります。

:リサーチをすることで、自分の先入観が覆されたり枠組みが広がっていくっていうのは、とても重要なことですよね。特に「レイアウト」というテーマは視覚的な要素以外にも、ある空間上で構成することで意味の理解が進むというものだと思うので、その可能性に気づいて欲しかったなというのがあります。空間ってことは、紙の上も部屋も空間だけど、音の帯域とか、経過する時間みたいなものも空間として解釈できると思っていて、リサーチをきっかけにそこまで掘れるといいなという思いはありました。


レイアウトの持つ強引な解釈を持つ力

:で、そういった「レイアウト」って何?ということを色々調べたことに基づいて、何かを作ることでレイアウトの概念を学ぶための課題案を考えていったわけだけど、最初に野中君が出したのは、「レイアウトが意味を与える」というタイトルで、写真を構成する物でしたね。色々探った結果、最終的なアイデアもこれに近いものになったわけだけど、どういう着眼と思考によって最初のアイデアにたどり着きました?

スクリーンショット 2020-08-08 17.03.25野中初期課題案

野中:「配置によって意味や解釈が伝わる/生まれる」という言葉をレイアウトの役割として考えていて、それを学べるようにしたい。そのためには、モチーフ同士の配置を色々試せると良いなと考え、最初の課題案ができました。その後、デザインにおけるレイアウトの目的を考えて行くうちに、徐々に案が変わっていったんですが、途中でレイアウトの目的と手法をごっちゃに考えていることに気づいて、それを整理したら最初の案が一番しっくりきた感じです。

布瀬:確かに、レイアウトで解釈が変わった時の印象の強さは、途中で試していた単純な図形を並べる案よりも、最終案で用いた写真の方が強かったです。

野中:写真の方が強引に解釈を生み出している感があって、レイアウトの力を感じるんだと思ってます。

:「写真の方が強引に解釈を生み出していてレイアウトの力を感じる」っていうのは、一度写真になったものは、情報が固定化されちゃっているようなイメージがあって、その中身を変えたりするのはできないっていうイメージがあるからかな?

布瀬:写真は図形と比べても抽象度が低いから、解釈が固定化されたイメージもありました。多分さらに詳細で説明的な写真になると複数の解釈が出来る余地がなくなりそうな気がします。

野中: レイアウトするエレメントに作者側の意図が見えにくいほど、レイアウトの力を感じると思ってます。極端な話で言えば適当に選んだ写真をレイアウトだけで解釈を生み出すとか。布瀬くんの場合はどんな風に考えて行ったんですか?けっこう物理的にものを配置させようとしてた気がしますけど。

スクリーンショット 2020-08-08 17.06.02布瀬中間課題案

布瀬:自分は野中くんが平面の中でレイアウトを扱っているのを見て、途中あえてそこから外れて、空間にモノを配置し、そのレイアウトが与える印象を扱う課題を作ろうと考える方向にシフトしました。 そこから、どうすれば配置するモノと、その結果見えてくるモノが大きく変わるかについて考えていきました。 物理的なものを扱う上で、モノが持つ機能やイメージをどれだけ排除できるかを結構重視していましたね。

実際に課題をやってもらって

:実際に課題を設計して、同じプロジェクトのメンバーに取り組んでもらったわけですが、出来上がった作品を見てどう思いました?

布瀬:いい意味で、予想していた以上の幅が出てきて驚きました。今回「虫」をテーマにしたのですが、自分を基準にして、課題で表現する対象への知識を考えてしまってたところがあります。みんなが作品に取り組む様子を見て、そもそも持ってる知識の差が、作品に大きく影響するという発見がありました。

野中:いろんなパターンが出ていて良かったです。特に武田さんの写真を重ねるものと、竹縄さんのA4用紙自体も活用する案は予想外のものでした。自由に考えられる条件をコントロールすることで、ある程度は作品の幅を予測できるようになるのかなと思います。

:じゃあ最後に、これから二人の課題に取り組んでもらおうとしてる人に伝えたいことはありますか?

野中:いろんな配置を試して、見え方が変わるのを楽しんでもらえると嬉しいです!

布瀬:自分で作ったモノを是非家族や知人に見せて反応を伺ってみると更に面白いと思います。




菅俊一(すげしゅんいち)
コグニティブデザイナー/多摩美術大学講師
2014年の統合デザイン学科の立ち上げから教員として着任し、現在1〜2年生の基礎教育と3〜4年生のプロジェクト(ゼミ)科目、大学院での研究指導を担当している。普段は人間の知覚能力に基づいた新しい表現の研究開発に取り組み、様々な方法で社会に新しい価値を提案し続けている。
http://syunichisuge.com
野中大地(のなかだいち)
多摩美術大学統合デザイン学科4年生/菅プロジェクト
主に映像やインタラクティブ系の制作をしている。現在はメディアの内と外の関わりが人の意識に与える影響について取り組んでいる。
https://vimeo.com/user97228189
布瀬雄太(ふせゆうた)
多摩美術大学統合デザイン学科所属
菅プロジェクトの元で思考技術を学びながらジャンルに捉われず様々な手法を用いて制作を行っている。
主な作品として国旗展、大喜利『こんな銀行いやだ』など
https://vimeo.com/user97189203

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