「ラムネと共に愛して」
〇登場人物
・吉田毅(よしだ つよし)
・花咲英代(はなさき はなよ)
・友達1:♀ 友達2:♂ 友達3:♀
(♂:2 ♀:3)
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英代M:それは遠い昔の私の愛おしい記憶。
【間】
毅(子):おい、英代!早く駄菓子屋行くぞ!!
毅(子):お前に見せたい物があるんだ!!
英代(子):待ってよ~!!
英代(子):つっちゃん足速いから追いつけないよ~!!
英代(子):(息切れ)……つっちゃん、置いて行かないでよ~!!
SE:駄菓子屋に集まる子供の声
毅(子):英代、遅いぞ!
英代(子):つっちゃんが速過ぎるんだよ……。
毅(子):悪い悪い!
英代(子):それで?見せたい物ってなぁに?
毅(子):これだ!
英代M:そう言って彼は高々と手を掲げ、私に指輪の付いたラムネ菓子を見せた。
英代(子):わぁ~、綺麗な指輪!
毅(子):そうだろ?お前にやるよ!
英代(子):良いの?
毅(子):良いんだ!俺、お前が好きなんだ!
毅(子):これをお前にやる、プロポーズだ!
毅(子):お前が嫌じゃなかったら……将来、俺のお嫁さんになってくれ!
英代M:彼は高らかに宣言し私の左手の薬指に指輪をはめた。
英代M:私に初めて婚約者が出来たあの夏の日。
【間】
英代M:少し大きくなった私たち。
英代M:勉強に勤しみながら、美術部の部活も頑張っている。
英代(中):はぁ~……毅の奴……また女子に囲まれてる。
英代(中):野球部のエースってカッコイイもんね……。
英代(中):絵描くの……捗らないや……。
友達1:あんた、また吉田君描いてるの?好きねぇ~。
英代(中):うん、好き。ずっと見ていたいくらい好き。
友達1:外ばかり見てないで手を動かせ、手を……。
英代(中):はぁい。
友達1:そう言えば英代、夏祭りあるけど……吉田君、誘うの?
英代:え?うーん……誘いたいけど……最近話もろくにしてないんだ。
英代:だから、行かない。
友達1:そっか……吉田君、モテるもんね。
友達1:なら私と行かない?
友達1:あんたのこと、気になってる奴も居るからね。
友達1:そいつ、誘ってみて良い?
友達1:吉田君よりはカッコ良くは無いけど、良い奴だよ。
英代(中):え~、二人だけで行こうよ~!
友達1:あんたはもっと吉田君以外にも目を向けた方が良い!
友達1:絶対に夏祭り来なさいよ!裏切ったら許さないからね!!
英代M:こうして無理矢理に誘われた夏祭り。
英代M:私が普通の私服で行くと、友達は
友達1:え?英代、浴衣着なかったの!?
英代M:と酷く驚いていた。
英代M:私のことを気になってると言っていた男子は
友達2:何だ?花咲は空気が読めねーのな。
友達2:普通こういう時って浴衣だろ?
友達2:何か冷めたわ。花咲なんて置いて行こうぜ。
英代M:と言い、友達の手を引いて歩いて行ってしまった。
英代M:置いて行かれた私はただショックで立ち尽くし、気がつくと泣いて家に帰っていた。
英代(中):電話しようかな……毅に……。
SE:コール音
毅(中):もしもし?どした?
英代(中):毅、今何処にいる?
毅(中):夏祭りに来てるよ。
友達3:毅~、何?電話?
毅(中):おい、五月蠅いから静かにしろって!
SE:ガヤガヤ音
英代(中):そっか……毅、女の子と一緒なんだね……。
英代(中):ごめんね、邪魔して、切るね。
毅(中):あ、おい!(SE:ぶつっ)
毅(中):切りやがった……。
友達3:何?あたし何かした?
毅(中):はぁ……誤解が生まれたようだ。
【間】
英代M:あの夏祭り以来、私は彼、毅と話すのを止めた。
英代M:高校も別々の所へ行き、あの頃の約束は私の心の中だけで時が止まっている。
英代M:時が止まったままの高校3年生の夏休み。
英代(高):今日の課外授業、疲れたねー?
英代(高):クレープでも食べに行かない?それからウィンドウショッピング!
友達1:良いね!……ん?……あれ校門に立ってるの……吉田じゃない?
友達1:アイツ、背伸びたね?でも顔は変わってない。
SE:近づいて来る足音
毅(高):英代。
英代(高):なに?
毅(高):お前、何でずっと俺を避けてるんだ?
英代(高):自分の胸に聞きなさいよ……。
英代(高):私たち、今からクレープ食べに行くところだから、それじゃあ。
SE:腕を掴む
毅(高):夏祭り。
英代(高):え?
毅(高):夏祭り、今度あるだろ?
英代(高):それが何よ?
毅(高):俺と行くぞ。
英代(高):え……?
毅(高):あの駄菓子屋で待ってる。
SE:立ち去る足音
友達1:ふふふ、素直じゃないなぁ……。
英代M:急に誘われた夏祭り。
英代M:私と友達はクレープ屋に行くのを止め、浴衣を買いに走った。
英代M:色んな浴衣を見たが、一番気に入ったのは水面に金魚が泳いでいる、金魚柄の浴衣を買った。
英代M:毅が金魚を飼っていたからだろうか。
英代M:無意識に金魚柄を選んでしまい、私はやっぱり毅が好きなんだと実感した。
英代M:こうしてやって来た夏祭り当日。
英代M:母に浴衣を綺麗に着付けてもらい、私は駄菓子屋まで走った。
毅(高):遅いぞ。
英代(高):ごめん……遅れた。
毅(高):お前……浴衣で走ったのか?少し着崩れてるぞ?
毅(高):帯が下がってる。ほら、直してやるから後ろ向け。
英代M:毅は器用に浴衣の帯の位置を直すと、私にラムネ瓶を手渡した。
毅(高):ほら、飲めよ。走って来て喉乾いてるだろ?
英代(高):あ、ありがとう……。
毅(高):お前が遅れたせいで、花火がもうすぐ上がっちまうぞ?
英代(高):えぇ!?
毅(高):多分、このまま夏祭りに行っても人混みではぐれるだけだ。
毅(高):俺、花火が綺麗に見える穴場を知ってるんだ。
毅(高):ついて来い、こっちだ。
SE:歩く音
英代(高):待ってよ~!昔から本当に歩くの速いんだから!
SE:海の音&花火の音
英代(高):わぁ~……綺麗……。
英代(高):こんな海辺で花火が見れるなんて……。
毅(高):綺麗だろ?前に友達に教えてもらったんだ。
英代(高):あぁ、例の彼女さんね。
毅(高):彼女?俺、彼女なんか居たことねーぞ?
英代(高):え、中学の夏祭り……女の子居たじゃん?あれは?
毅(高):あれは部活の仲間の彼女だ。
英代(高):え……勘違いしてたのは……私だけ?
毅(高):お前、約束忘れたのか?
英代(高):忘れてないよ!私、ずっと毅のこと……。
毅(高):俺、今も昔もお前が好きだ。
英代(高):私、あの指輪……今も持ってるの。
英代(高):大事にこの小さな巾着に入れて持ち歩いているの。
毅(高):この指輪、お前の指にはめてやりたいけど……小さいよな。
毅(高):俺が働いて給料貰ったら、ちゃんとした指輪……買ってやる。
毅(高):だから、よそ見なんかするなよ。
英代M:私は恥ずかしさのあまり、ラムネ瓶に口を付けた。
英代M:ビー玉を舌で押し戻しながら、一気に飲み干した。
英代M:ラムネを飲み終わると彼は私の肩をそっと抱き、ファーストキスを奪っていった。
英代M:甘かったラムネの味を彼のせいで忘れそうになった、そんな暑い夏の夜。
【間】
英代M:それから幾年が過ぎ、毅さんと結婚し、娘も産み、孫に囲まれる歳になった。
英代M:幸せな毎日だが引っ越しの時にあの約束の指輪を失くしてしまい、私は心底落ち込んでいる。
毅:英代、あの指輪が無くても大丈夫だ。ワシはずっと傍に居る。
毅:だからそんなに落ち込むな。
英代:でもあれは、私の大事な思い出だから……。
毅:なら買いに行けば良いじゃないか。
毅:ほら、あの懐かしい駄菓子屋へ。
英代:今もやってるかしら?
毅:行ってみないとわからんな。とりあえず、行ってみよう。
SE:車の音
毅:確か……ここら辺だったはずだが……。
英代:無いわね?コンビニになっているわ……。
毅:いつ無くなったのか、ちょっと話を聞いてみよう。
英代:えぇ。
英代M:コンビニに入った私たちは店員さんに話を聞くことにした。
英代M:店員さんが言うには、もう18年前に駄菓子屋は無くなり、コンビニになったと教えてくれた。
毅:そうか……もうあの指輪は買えないのか……。
英代:残念だわ……。
毅:帰るか……ん?
英代:ん?なぁに、あなた?
毅:売っている……売っているぞ……!
毅:あのデザインの指輪とは違うが、アクセサリーが付いたラムネ菓子が売っているぞ!
英代:本当ね!今のは当時と違って、いろんなアクセサリーが付いているのね!
英代:どれどれ……、あ!指輪のあったわ!!
毅:ならそれを買おう!店員さん、これ下さい!
英代:今はこんなにお洒落なのねぇ……。凄いわ……。
SE:レジの音
毅:良かったな、このラムネ菓子が見つかって。
英代:本当に嬉しいわ……。
毅:折角だし、開けて食べよう。
英代:はい。
毅:……うん、ラムネは当時と変わらないな……。
毅:ほら、英代。
英代:何ですか?毅さん。
毅:手を出しなさい。
毅:うん……やっぱり英代の手は綺麗だ。
英代:何かしら、ふふ、くすぐったいわ!
毅:この指輪を左手の薬指にはめてやる。
毅:ずっと、愛してるぞ。
英代:あらあら……もう何回目のプロポーズかしら?
英代M:そう言い、私たちは笑い合う。
英代:私もずっと愛していますよ?
毅&英代:(タイトルコール)ラムネと共に愛して。
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