観戦記: 2014 J2 第18節 山口 vs 清水
J2第18節、折り返り前の最後のアウェイ戦となった山口戦、こちらも現地観戦しましたのでレビューを書きます。あー、悔しかったです。
アウェイ上位対決またも2-0で敗戦
まずはハイライトを見てみましょう。
前半14分に、田中隼磨の息子、48番新保にPA内をするすると突破され、混戦の中でクロスを16番吉岡に押し込まれて失点。さらに前半27分に同じく左サイドから、37番田邊の楔を受けた20番河野の上手いターンから、9番若月が落としたところを、8番佐藤がダイレクトでミドルシュート。PA枠外からでしたが、ブラインドになったのか権田は反応できず追加点。シュートわずか3本で、前半の序盤に2点を決められるという厳しいスタートなりました。
これで優位に立った山口は、前線からのプレス、セットしてのディフェンスとメリハリをつけた守備を展開。対する清水は、前半はそのままのシステムで戦い、修正がうまくできず。後半から松崎と千葉を投入して4-4-2に変更するものの、山口もうまく対応し、状況は打開できず。後半8分に宮本を投入することで、ようやくペースを掴みますが、ブロックを組んで守る山口の好守に得点できず。後半35分に北爪・成岡を投入して3バックして流れは変わったものの、時すでに遅し。バーに当たるシュートが2本あるなど惜しいチャンスもありましたが、山口にクリーンシートを許して2-0での完敗となりました。
どうしてこれまで内容に差が生まれてしまったのか。戦術の観点で見ると、非常に明確なので、詳しく解説をしていきたいと思います。
前半の展開
両チームのスターティングメンバーとシステム
両チームのスタメンは以下の通りとなりました。
清水は、乾が6試合ぶりに先発。4-2-3-1の「乾」システムに戻します。前の試合に怪我をしたカルリが欠場となり、左SMFには矢島が入ります。ボランチは前節同様に中村と白崎のコンビ。DFラインは高橋、山原、原に加えて、前節お休みだった住吉が復帰しました。
面白かったのがサブで、沖・吉田・北爪・松崎に加えて、久々に成岡と千葉がベンチ入りしました。これはTMや紅白戦で好調を示した選手に出場機会を与えるという秋葉監督のマネジメントでしょう。
対する山口は、4-4-2の基本システム。ターゲットマンの梅木が欠場し、山本が代役を務めます。また相田が怪我により佐藤が先発。右SHには吉岡が名前を連ねました。
一方でそれぞれ保持・非保持のケースではシステムが可変します。このシステムのミスマッチが、前半は非常に大きく試合内容を左右したため、見ていきましょう。
まずは清水の保持、山口の非保持。もちろん局面によって異なりますが、このような形になることが多くあったように思います。
清水は前線のブラガは中に絞ることが多く、また乾は自由に動きます。この日矢島は比較的サイドにはることが多かったように思います。ブラガが中に絞る分、原は山原よりも気持ち高い位置を取るケースが多くありました。ビルドアップ時には白崎が最終ラインに落ちて(クロースロール)、3枚でビルドアップすることもありました。それに対して、山口は、流動的にポジションを変える乾はボランチの佐藤が見る。運動量は求められますが、若月と山本はCBに加えて、ボランチの一人をどちらかが見るような固いでした。それぞれ誰を見るかという部分はきちんと整理されていたように思います。
逆に山口の保持、清水の非保持の際はこのような形が多かったです。
基本システムは4-4-2ですが、攻撃時には、新保が左サイドの高い位置を取り、後ろを3枚にして、3-4-3のような陣形をとっていました。右SMFの吉岡は少し低い位置を取り、左SMFの河野はハーフレーンの内側にポジションしていることが多くありました。
これに前半45分間、ずっと困りっぱなしだったのが清水の守備。特に、清水の右サイドで高い位置を取る新保、内側で浮いている河野、それをサポートする田邊、この3選手を基本的にはブラガ、白崎、原で守るのですが、誰に誰がつくのかということが45分間ずっとはっきりせずに、迷いながら守備をしていました。マークがずれるため、中村もつり出せることが多くありました。
これが清水が、山口の左サイドの攻撃にやられてしまった、最大の理由だったように思います。
山口の戦術はどのようなものだったか?
横浜FCや水戸は、清水対策として、やっている面が強かったと思いますが、山口に限っては、もちろんやり方が重なる部分もありましたが、山口のスタイルを貫いた結果として、清水を上回ったといっても良いかと思います。
まず守備戦術としては、前線からのプレッシングと、深追いはせずに3ラインを保ってブロックを組む、セットディフェンスを非常にスムーズに使い分けていたと思います。
前線プレスの基本は、横浜FCや水戸と同じく、同サイド圧縮。CBに対して、中と縦を切りながら寄せて、SBにパスを出させて、SBあるいはSMFのところで奪い切るというやり方ですね。
ただこのプレスを突破されて、清水のボランチや乾にボールが渡った際には、最終ラインの4枚と中盤の4枚が2ラインを形成し、コンパクトに保ちながらも下がって、固いブロックを組む形。特に2-0と2点差にした際に、このやり方が多く見られました。
攻撃戦術も興味深いものがありました。一つは相手の前線プレスのロングボールによる外し方。清水はCBからSBに展開して詰まっても狭い局面の中で、個人技や中盤との選手の絡みでプレスを突破しようとするのに対して、山口は一種の割り切りで、SBにパスが入って相手からプレスを受けたら、迷わずにロングボールを、相手のコーナーフラッグめがけて蹴ることを徹底していました。
最終ラインに弾かれたとしても、中盤の選手でセカンドボールを拾うというやり方ですね。パスサッカーと比べると、あまり綺麗な形ではありませんが、これによって自陣深くでボールを奪われることを避け、陣地を回復し、あわよくばマイボールにしてカウンターのチャンスを作る、という意味で非常に理に適った戦術だと思いました。もう一つが上記のシステムの話でも触れましたが、一方のサイドでの数的優位の局面づくり。特に左サイドは、ドリブル技術の高い新保を中心に、河野・田邊・2トップが近くに寄ることで、局面ごとに数的優位を作ることを良くしていました。ピッチの縦半分を使いながら、大外に1枚だけ残しておくような攻撃ですね。これも効いていました。
今年からレノファ山口を率いる、先月44歳になったばかりの志垣監督。かなりの戦術家かもしれませんね。
前半立ち上がりは清水ペース
前半4分、清水のセットプレーから清水の連続的なチャンス。原がもらった右サイドからのFK。矢島の蹴ったボールは、住吉が競り勝ち、ニアサイドに流れたボールを北川が折り返し。これをファーサイドのブラガが反応してクロス。こぼれ球を住吉がシュート。そのこぼれ球を乾が詰めますが、キムボムヨンの気迫のディフェンス。山口はゴールを割らせません。
前半7分。清水は左サイドでボールを回し、最終ラインに落ちた中村がボールを受けると、右サイドに大きなサイドチェンジ。いつもとは違う右サイドのライン際で待ち構えていた乾が、肩でインサイドに入った原に落とします。原からリターンをもらって、乾がドリブルからシュート。ただこちらは力なく相手にはじき返されます。
それに反応した山口19番の山本が高橋を背負いながらキープ。ここで清水のマークミス。流れの中でブラガ、原、乾、高橋が全員上がっている中で、白崎も中央のパスコースを消しに行ってしまい、ぽっかり空いたスペースに走り込んでドフリーになった神保にパスを通されます。神保はそのまま持ち上がり中央に走った16番吉岡にパス。吉岡はミドルシュートを放ちます。
清水右サイドの守備のリスク管理の甘さが気になるシーンとなりました。
前半10分、乾の前線からプレスによる清水のチャンス。左サイドスローインから神保に入ったボール、トラップが大きくなかったところをブラガがチェック、中央に出したパスを乾がカットし、そのままドリブルでショートカウンター。ブラガへのスルーパスを選択するも、オフサイド。
最初のセットプレーの度重なるチャンスを含めて、この時間帯で清水が得点を奪っていたら違う展開になっていたと思います。
清水の右サイドのルーズな守備により先制点を献上
前半12分、山口がチャンスになったわけではないですが、この時間帯の長い間、神保に対するルーズなマークがとても気になります。例えば11:30くらいのシーンですが、山口は攻撃の際にボール保持側に非常にコンパクトに選手が密集します。
このシーンとても気になったのが、山口左サイドの神保が大外でドフリーである点。本来マーカーはブラガのように思うのですが、ブラガは誰につくわけでもなく、新保のことを気にする様子もなかったです。このシーンでは山口は右サイドの攻めに転じたので、新保は使われなかったですが、この辺りの時間帯から、清水のルーズな守備が気になり始めました。
前半13分、清水の最終ラインでのビルドアップに対する、山口のプレス。闇雲に行く形よりは組織的に整備されたプレス。原に出たところで神保は縦を切って中にパスを出させるようなプレスの掛け方。右利きで縦切られるとコースが限定されてきついです。中村へのボールはわずかにずれて37番田邊がカット。田邊が奪うと確信していた16番吉岡がいち早く反応し、センターレーンのバイタルエリアに。田邊→吉岡でダイレクトで繋いでから左の神保へ。原と一対一で対峙。この時、乾が危険を察知したのか下がって原のフォローに行きます。でも上手かったのが神保。9番若月の大外の動きを囮に使って、乾と原を上半身のフェイントで外し、ペナ角で待つ田邊に預けて自身もPAに侵入しリターンを受けます。
この時、本来ブラガがつくべきだと思いますが、遅れて裏を取られてしまいます。乾・白崎・ブラガが3人で囲んで、ボールを奪おうとしますが、神保はここも巧みな切り返しで全員を抜き去りニアゾーンに突破。高橋はマークを捨てて寄せるもの距離があり、クロスは中央の密集地帯に。山原は良く戻ってクリアをしようとしましたが、混戦の中で16番吉岡に押し込まれてしまいました。権田的にはノーチャンス。むしろ、新保選手にPAに簡単に侵入されたことが問題でした。
確かに乾の守備が軽かった面もありますが、本来乾はここで守備をする役割の選手ではありません。まずはブラガの戻りが遅かったこと、あとどういう訳かこの局面で、右ボランチの白崎が人やボールに当たることができていないこと、右サイドの守備の課題が浮き彫りになりました。
山口のペースは続き前半中盤に追加点を奪われる
先制点を奪った山口は、序盤よりも、積極的には前プレスにはいかず、2トップのみプレスに行って、4-4の2ラインでセットする守り方に。それに対して、清水は外側を回す形が目立つようになります。
前半21分。清水の右サイドでのマズい守備。右サイドでコンパクトにパスを回す山口。これにより清水の守備陣形が全体的に左寄りになります。中央で37番田邊が保持。ここに中村・白崎・北川の3選手が寄せにいきますが、奪い切るほど強く行っていないので、田邊は難なく左サイドの新保に展開。3人かけて寄せているのに、ボールを出させてしまっては、相手に数的優位を作られますね。
清水は全体的に左に寄っていたため、清水の右サイドで待つ新保はフリー。ブラガが遅れてチェックにいきますが、そこをCBのヘナンが背中側を追い越し、それを囮に、中にドリブル。原もカバーに行く中でヘナン・河野がフリーとなりますが、ここは新保のスルーパスを原がカット。通っていれば決定的なピンチでした。
清水の各選手が、山口の誰につくのかということが曖昧で、迷いながら守備をしているように見えます。結果、マークが少しずつ遅れて、山口に数的不利を作られてしまいます。
そして前半27分に、またも全体的に緩い守備。山口は清水の右サイドで数的優位を作ります。まずは高橋のクリアを奪った田邊が、神保が最終ラインまで上がったことで、空いている左サイドのスペースにドリブルで持ち上がります。パス交換をしながら、田邊は内側に戻り、次は入れ替わりで8番佐藤がそのスペースに出てパスを受けます。この動きに、清水の守備はついていけず、相手選手にプレッシャーがかかりません。
佐藤→新保→田邊→河野とすべてダイレクトで繋ぎ、河野には中村と原がプレスに行きますが、河野が絶妙なターンでタメを作り、その間に佐藤は中央バイタルにランニング。河野→若月→佐藤と繋ぎ、最後は佐藤のダイレクトシュートが決まります。権田の反応が遅れたのは、味方選手がブラインドになったのだと思います。
このシーンで疲れからか乾・北川は戻らず。新保→田邊のチェックにいっていた白崎も寄せが甘くて、中途半端に出てしまった結果、中央のスペースを空け、矢島も、中村のカバーのために中央に絞る動きをせず、中央にぽっかりとスペースを空けてしまいました。中村一人がそれをカバーしなければいけない状況を作ってしまったのが良くありませんでした。
前半はそのまま山口ペースで終了
これでさらに山口は楽な展開に。
前半30分、押し込まれるなかで、住吉の素晴らしい守備。これくらいのデュエルを他の選手もやって欲しい。
前半35分、左右に揺さぶることで山口のラインを後ろに押し込み、PA内に人数をかけるものの、山口の守備陣は、最初から最後は守り切るという意思統一がしっかりしているのか、集中力高い守りを見ます。
前半40分にも、清水の右サイドを突破されます。
前半44分、一番両チームの戦術差が表れたシーンと感じました。これまでと同じ形ですが、清水のビルドアップは山口の前線プレスの餌食になります。権田から住吉へのスローイン。住吉には山本が縦のコースを切りながらプレス。ここで山本は周りを見ながら住吉にプレスにいっており、プレスのスイッチ役を果たしていることがわかります。住吉はプレスを受けたので、サイドに張る山原にパス。これは同サイド圧縮を受ける典型的なパターン。山原には右SHの吉岡がプレスに行きます。たまらず更にサイドレーンで下がって受けに来た矢島に縦パス。今度はここには右SBの前がプレスにつめています。乾がハーフレーンでボールを受けに来ているので、ここに出せればあるいは局面は打開できたかもしれませんが、乾にも8番ボランチの佐藤がついていってますので、矢島はヒールでの難易度の高い縦パスを選択。サイドラインを割って山口ボールになります。
お手本のような同サイド圧縮ですね。そしてそのスローインから、縦に入れて、佐藤がクロス。白崎が跳ね返しますがこぼれ球を田邊がシュート。これはミートせずにさらに跳ね返しますが、そのセカンドボールを佐藤が拾い、左サイドでフリーになる新保に展開。清水は白崎が最終ラインに吸収され、2失点目と同様に中央にスペースがあるのでセカンドを拾われ続けます。新保のクロスに山本がハンド気味ですがトラップし、反転して左足でシュート。枠内に飛びますが、これは権田がグッドセーブで防ぎます。ただ、さらに原のクリアを新保に拾われて、左の深い位置からのクロス。ついているブラガは距離が遠く、新保はほぼノープレッシャーでファーに正確なクロス。これは住吉が身体能力で競り勝ってクリア。ただこれをまた16番吉岡に拾われてクロス。ここは権田がキャッチをして止めましたが、相手の質が高ければ追加点を奪われてもおかしくない流れでした。このシーンだけでいかに山口の戦術が噛み合って、清水の戦術が噛み合っていないかがわかりますね。
このまま前半は終了。前半風が強くて風下側の清水は難しかったのは事実ですが、得点、内容的にも完全に山口にやられてしましました。山口にとっては完璧な前半になりました。
前半の総括
前半のスタッツは以下の通りになりました。
スタッツ上は両チームは拮抗。ゴール期待値は前半立ち上がりのセットプレーの影響でゴール期待値は0.99と山口を上回りましたが、約半分の0.51の山口に2点を取られるという展開でした。また山口の攻撃は半分以上が左サイドとなっています。
時間帯別のボール保持率、シュート数は以下です。
前半立ち上がりのセットプレーのチャンスでの連続シュートがあったため、開始から15分は清水が優勢に見えますが、それ以降は清水はシュートをほぼ打てておらず、ボール支配率は高いものの、どちらかという持たされているというゲームでした。
久しぶりに乾が先発し、4-2-3-1のシステムだったのですが、カルリが不在で、このシステムを取るのは今回が初めてとなりました。4-4-2の左サイドとしては非常に機能した矢島ですが、乾との組み合わせについては、相性の問題もあるのかなと思いました。
またブラガですが、ブラガが非常にパフォーマンスが良かった時には、右SBに吉田豊という相棒が常にいました。でしnoteでも「ブラガ使い」と書きましたが、吉田は守備に比重をおきつつ、ブラガに対してもかなり的確な指示を発していました。一方の原はピッチの外からの印象だと、そこまでコーチングをする選手ではないため、ブラガのポジショニングがルーズになっているという面もあるかもしれません。
この選手間の組み合わせについても、次節以降よく考えないといけないと思います。
後半の展開
ハーフタイムでの2枚替え
前半の内容が良くなかったので、ハーフタイムで秋葉監督は動くだろうなと思っていました。でし的には、前半2失点目を喫した時点で、前半の途中から修正しても良いかなと思っていました。ハーフタイムでのつぶやきはこちらです。
前半、中盤の右サイドのブラガ・白崎の守備が機能していなかったため、ここの梃入れは必須だと思っていました。なので前半頭から宮本を投入し、矢島(あるいは中村)とのWボランチにする。守備は課題ですが、攻撃はアクセントになるブラガは2トップに上げる(疲れたら千葉と交代する)。右サイドに北爪(あるは吉田)を入れて、3-4-1-2の3バック、乾はトップ下にするのが良いと考えました。
それに対して、秋葉監督は全く違う手を打ちました。ブラガに代えて千葉、矢島に代えて松崎を投入します。乾を左MFに出して4-4-2にして、相手と同じシステム、ミラーゲームにします。対する山口は交代なしでした。後半スタートは以下のような布陣になります。
システム変更をして流れを変えたい、2トップにして前線に厚みを持たしたい、前半守備がうまくいっていなかったブラガを下げたい、という意図はわかりました。一方で、この布陣には懸念もありました。1つは、(横浜FC戦もそうでしたが)相手にリードを許してからミラーゲームにすることは、原則としては逆であること。ミラーゲームにすることで、誰が誰につくのかが明確になり、試合は安定する傾向にあります。ただこれは相手にとっても同じこと。つまり両チーム共に得点が動きにくくなる傾向にあります。清水がリードして、ミラーゲームに変えて試合を落ち着ける、あるいは最初からミラーゲームにして、個でねじ伏せる、という点では有効ですが、この試合のように2点を追いかけなければいけない展開では、得策ではなかったかもしれません。2つ目が、ブラガ→松崎の交代が、攻撃・守備の改善に繋がるとは思えなかったこと。松崎はまず攻撃に特徴のある選手であり、守備の改善はあまり期待できません。また松崎は、足元でボールを受けて、自らのドリブルで局面を打開するタイプ。この試合、足りていなかったのは、裏抜けなどオフザボールの動きだと感じていたので、その役割を担わせるなら、北爪の方が良かったように思います。3つ目が、乾のサイドでの起用。山口の守備の特徴の一つは同サイド圧縮であり、乾がサイドに張り付くことで、対応が容易になること。そもそもリカルド監督時代に、乾のサイド起用はうまくいかなかったように、現在の乾は、やはり中央で自由を与えてこそ活きるかつ、相手にとって怖い選手ですか。(後半途中から、勝手に中に入っていましたが)
後半の序盤
後半の立ち上がり、後半2分に、中央でのパス交換から中村のシュートまで結びつけましたが、その後は、清水がシステム変更・2枚替えと勝負に出ているにも関わらず、流れは大きくは変わりません。やはり、乾が左サイドで窮屈そうですし、松崎は足元でボールを受けてセットする山口のプレスを受けてしまい、2トップにしたものの裏抜けが増えるわけでもない。清水はボールを保持することはするものの、ゴールに近づくことがなかなかできません。
後半5分、左のサイドで起点をつくった山本に交わされた白崎がファールで止めてイエローカード。白崎はこれが今季早くも3枚目。試合数から考えると少しイエローカードが多いですね。
同じく後半5分。GKのロングボールのセカンドボールを田邊に拾われて、いち早く裏に走った新保が左サイドを突破。清水の右サイドの守備は改善されていません。新保が深くえぐったクロスはファーに流れますが、そのボールを拾った吉岡が、ドリブルで乾を交わして中に切れ込んでシュート。その直後も左サイドでドリブルで持ち込まれて、田邊がシュート。イエローをもらってしまった白崎は強くは行けません。
これに痺れを切らした秋葉監督は、白崎の交代を決意。後半8分に、白崎→宮本を交代。ボランチのテコ入れをします。
宮本交代により中盤の活性化を図る清水
前節一度お休みをした、フレッシュな宮本が入ることで、清水はよりパスが回るようになります。
対する山口ですが、後半10分の時間帯に、ミラーゲームになっていることを確認した志垣監督が、ピッチサイドから、山口の前線のメンバーに、しっかり前線からのプレスに行くように大きなジェスチャーで指示をします。
おそらくその指示を届ける目的もあったのでしょう、山口は後半13分に最初の交代カードとして、ボランチの佐藤から、SBの板倉に交代。右SBの前をボランチに上げて、より守備の強度を高めます。前半乾をマークしていた佐藤を交代して、ボランチの位置に比較的体力消耗の少ない前を上げつつ、乾にフレッシュな板倉を当てるあたり、志垣監督がいかに乾を警戒していたかがわかりますね。試合後のコメントでも乾には触れていました。
メンバーは上記の通りですが、完全なミラーゲームとなります。
但し、この後宮本という相棒を得たことで、乾がより中央寄りに自由に動き、ボールを触れるようになり、清水の攻撃は活性化します。
後半15分には、乾はハーフレーンにポジション。その乾に宮本が縦パス。さらに宮本が動いて、乾からのパスを受けてダイレクトで千葉へ。千葉がフリックをミスして、3番目の動きで走っていた乾にパスは出ませんでしたが、乾の狙いとする攻撃の形ができかけました。
続く後半16分、中村→乾→宮本→乾とパスを繋ぎ。乾の空けたスペースに、山原が走り、クロス。跳ね返りを宮本がシュート。さらに跳ね返りを千葉がキープし、横パス。宮本がスルーして、松崎がフリーで受けますが、ここでの松崎の選択は左足のシュートではなくトラップ。右に持ち換えて利き足ではない右足でクロスを上げようとしますが、相手に引っ掛かります。ここは松崎に左足で思い切ってシュートを打って欲しいシーンでした。本人も悔しがっていましたが。
後半19分、清水にとっては非常に不可解なジャッジ。左サイド山原のロングパスに対して、9番若月がレイトタックル。山口のクリアに対して、乾が奪って、清水にとって決定機になりそうなタイミングで審判が笛。流すなら、プレーが切れるまで見るべきなのに、不可解なタイミングでの介入。これには清水の秋葉監督も声を荒げて抗議します。また途中でプレーを止めたにも関わらず、若月にはイエローカードも出なかったのも印象が悪かったです。
その後後半21分、山口は前線の2枚を交代。山本→野寄、若月→末永。前線のプレスの強度を保つための交代で、理に適ったものですね。
後半24分、またも宮本からセンターサークル付近に位置していた乾にパス。乾は巧みなドリブルで右サイドを前進し、相手を引き付けて松崎に縦パス。松崎から更に外を回った原にパスも、少し弱く、原はバックパスを選択。乾がCKを獲得。右からのCKでキッカーは山原。ニアサイドの中村にピタリと合わせますが、新保が良く反応してヘディングでクリアされます。
後半26分にも、セットプレーの流れから、高橋がPA内でオーバーヘッドするなどゴールに迫りますが、ゴールは割れません。
その直後の後半27分にもまたしても、清水のチャンスになりかけたシーンで、審判が笛を吹いて止めてしまいます。
ただその後のFKから、清水が決定的なチャンス。中盤真ん中で、中村から乾への縦パス。乾→松崎→北川と繋ぎ、北川はペナ角の原へ。原は右足で切り返して中にカットインすると、左足を一閃。左上隅に入るかと思いましたが、クロスバーに阻まれます。このシーンも、乾がポケットに走り込んだことで、原にスペースを生み出すことができました。
後半30分、山原から乾にパス。乾がまた巧みなドリブルから、右サイドライン際を走る原にスルーパス。松崎・乾が中央に位置し、相手の守備を引き寄せることで、サイドのスペースが空くシーンが増えてきます。原からPA内の松崎へ。但しクロスは阻まれます。
この一連の流れの中で、清水は得点を取れなかったことが痛かったですね。
山口が、最後のカードを切り逃げ切りを図ります。
後半終盤山口の5バックによる逃げ切り
後半30分、残り15分となったタイミングで、河野→シルビオ、新保→沼田の交代をします。選手交代にじっくり時間を使う山口。このあたりの勝負へのこだわりは素晴らしいですね。これにより、山口は5-4-1のようなシステムになります。
後半33分には、シルビオのポストプレーから、38番末永のシュート。交代選手が仕事をします。
清水も直後に最後の選手交代。後半35分に、高橋→北爪、中村→成岡とフレッシュな選手をいれます。
後半38分、乾が倒され良い位置でのフリーキック。山原のシュートは、ゴール左上の角にあたります。原選手のシュートに続いて連続のバー。この日の清水はついていませんでした。
以降、5バックで固く守る山口に対して、ATでの松崎の枠内シュートなど、清水は最後まで攻めますが、ゴールをこじ開けられず。特に終盤の時間は、山口の16番吉岡が素晴らしいできでしたね。左利きで、90分間走り続けられる走力と、攻守両面の高い水準のプレー、そして気持ちの強さ。清水にいたらなと正直思うような良い選手だと思いました。清水にとっては、最後まで、前半の2失点が重くのしかかる試合になりました。
後半の総括
後半のみのスタッツは手元集計になりますが、こちらになります。
さらに時間帯別のスタッツはこちらです。
ボール保持率が、終始60%を上回るなど、前半よりもさらにポゼッションは増し、シュート数やパス数も上回りますが、スコアは動かず0-0。
宮本投入から、山口が5バックにするまでの、後半10分から後半30分までの時間帯は、乾・宮本を中心にパスを繋げるようになり、バーに当てるなどチャンスも作りましたのでこの時間帯に点が欲しかったですね。特に後半の終盤はブロックを敷いて守る山口に対して、外側のボール回しが多くなり、ゴールに迫ること、北川や千葉にボックス内でボールを出すという形まで行きつきませんでした。
試合全体のデータになりますが、まずはパスソナー。
ブラガ・矢島・白崎は早いタイミングで交代したため、データの見方には注意が必要ですが、スタッツでも左サイドの攻撃が44%を締めていた通り、左サイド偏重になっています。さらにエリア別のパス数が以下です。
これ非常に興味深いのですが、エリア内へのパス成功数はほぼなし。山口の真ん中のブロックに対して、「外周」のパスが多かったことがデータ的にも明確になっています。
試合の総括
アウェイで山口に対して、0-2と完敗となりました。特に前半は守備のまずさが出て2失点。攻撃面でも、山口の前線からのプレスに苦しみ、また保持の際も、裏抜けなどオフザボールの動きに乏しく、PA内に進入することがほとんどできませんでした。
山口の前選手の試合後のコメントからも、山口の術中に嵌ってしまったことが良くわかります。
白崎を前節から継続してスタメン起用。サブには千葉と成岡を置くなど、これから始まる夏場の戦いに向けて、選手層を厚くするためにも、これまで出場機会の少ない選手にその機会を与えたいという意図はあったように思います。但し、白崎・千葉に関しては、信頼を獲得して、スタメンやサブに定着するというところまでは結果的になりませんでしたね。
山口戦で見えた課題について最後に整理しておきましょう。
課題①前線からのプレスに行くか行かないかの見極め
山口が、清水が前線からプレスに来た際には、ロングボールで回避するという対策をしたからか、清水の前線プレスは、この日はほとんどといっていいほどかかりませんでした。まずは行くのか、行かないのかの判断にメリハリをつけること。行く際にはこの試合よりもはるかに強い強度でいくこと。行かない場合はしっかりとセットすることなどの修正が必要かと思います
課題②自陣でのマークの徹底
前半で多く見られたことですが、この試合右サイドにおいて清水の守備の甘さが目立ちました。相手が可変で来た際に、誰が誰を見るのかを明確にする。下手に1人に対して2名、3名でいかずに、より自陣に近いエリアで相手選手をフリーにしないようにマークを徹底する。ボールホルダーに対しては、奪いきるまで厳しくいくことが必要ですね
課題③ハイプレス時のビルドアップの工夫
相手が同サイド圧縮のようなタイトなプレスをかけてきた場合にどうするのか。水戸戦では原の個人技や、高木の縦パスからのレイオフなどである程度回避の形が見えましたが、この試合は特に前半はプレスで嵌められることが多くありました。またSBとSHの立ち位置がサイドレーンで縦関係になりがちで、ギャップを作り出せていないという問題も。一つはボランチの選手が降りるなど、ビルドアップを2CBではなく、3枚で行うこと。その際にサイドバック、サイドハーフ、ボランチの選手が、レーンを分けて複数のパスコースを作ること、それでもだめで、次に、相手が同サイド圧縮で嵌めてきた場合には、最終ラインの裏にロングボールを蹴ること、などの決めごとを改めて徹底する必要あると思います
課題④相手にブロックを組まれた際の崩し
最後は相手にブロックを組まれた際の崩しの部分。まず前選手の試合後のコメントを見てみましょう。
特に後半の山口の守備戦術はブロックを組んで守るということが意思統一されていたようですね。またブロックの前に「下りる選手が多くて怖くなかった」「最終的な中の枚数も多くなかった」と前選手に指摘されているように、清水としてはブロックを組む相手の脅威になることはできていなかったということになります。ここに書いてあることと逆のことをしなくてはいけないですね。ひとつはもっと積極的にPA内に人が入っていくこと。またボールを奪われたら、前線からゲーゲンプレスでボールをもっと激しく奪いに行くこと。この辺りが鍵になると思います
最後に
悔しい敗戦になりましたが、それでも18試合で勝ち点40と現在1位、優勝ペースから4の貯金があります。次節は19節ということでこれが終わると折り返し地点。この際に、首位に立っているのか、いないのかは、後半戦にも心理的に大きな影響を与えると思います。幸い次はホームのアイスタの藤枝戦。満員の観客の中で、自信をもって清水のサッカーをやり切れば、必ず勝利はついてくると信じています。全力で応援しましょう!