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父、入院

先日9日、深夜父が車で出かけるので奇妙だなとは思っていた。
95歳でほぼ毎日運転しているとはいえ流石に深夜、いったい何の用があるというのか。

しばらくして近くの救急医院から電話で「腸閉塞でオペが必要だから来てくれ」と連絡が入った。オヤジは激烈な痛みを抱えたまま約15分の距離とは言いながら自分で救急に駆け込んだというわけだ。

私は担当の看護師や医師から説明を受けながら同時に書類へのサインで忙しい。こんな場面ではいつも思う。つくづく訴えるとかしないから好きに施術してくれていいよって。ヒポクラテスやナイチンゲールの末裔に何のクレームもありません。というか偶然かもしれないが理不尽な対応と感じたことはほぼ無いことも手伝っているかもしれない。

サインしたら帰れと言われるかと思いきや「術後に経過説明がありますからあちらでお待ちください」と待合のソファを示された。横になるのも何となく気が引けたんで背を預けたまま目を閉じていた。午前2時から始まった手術は2時間。午前4時に執刀医から説明を受けた。ただただこんな時間に他人の腹を切って面倒見てくれてありがとうという気持ちしかなかった。
幸いに壊死が無く癒着や捻転を正しただけで済んだ。

父が手術室から出てきた時「大丈夫?」と声をかけた。術前は海老のように丸まって痛みを訴え苦痛で歪んだ顔をしていた父が、まるで天国にいるかのような笑顔で声かけに反応していた(これは後で覚えているかと聞いたら「覚えてないな」と言っていた)
「麻酔って気持ちいいんだな」と思った。

はてさて、無事の退院を迎え我が家に帰宅した父はまず薪ストーブき火を入れた。そうしてこう言った。「まさか、ここでストーブに火をつけられるとは。あの時(救急に駆け込んだ時)はもう2度とこの家に帰れるとは思わなかったサ」
それからタバコに火をつけて一服した。
やがて車で出かけた。
帰ってきたらキレイに髭剃り散髪が済んでいた。