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瀧本哲史が若者に配った「武器」は「アップサイド・オプション」だ。

瀧本哲史氏は、2011年「僕は君たちに武器を配りたい」で、日本の若者に、資本主義、グローバリズム、日本の没落、そして人のコモディティ化を説き、この世界を生き抜き、世の中を動かすことができるようにそのための方法論を示した。

また、瀧本氏は、エンジェル投資家としてベンチャーの育成をしつつ、困難な企業再建にも自ら進んで挑み、京都大学で「意思決定論」「交渉論」「起業論」などの講義を行ってきた(2019年8月永眠)。

瀧本氏の伝えたかった具体的な点について検討していくが、彼の基本的な考え方は以下の通りだ。

1.衰退する日本を大きく変える可能性があるのは若者たちだ。  
2.自分は将来の日本に期待している。  
3.必要なことは、どんなことも「自分の頭で考え自分で決める」ことだ。
4.そのために必要な「武器」(知恵)を与えよう。支援は惜しまない。 

つまり、若者ひとりひとりが、今後世の中でいろいろなことに直面したとき、そのチャンスを生かし勝つための「アップサイド・オプション」を与えている。また、自らエンジェル投資家として若者の新たな挑戦に対して資金面で支援することで、更にアップサイド実現の可能性を高めている

では、どういう「アップサイド・オプション」を身に着けさせたか具体的に見ていこう。

1.彼が伝えたかったこと

私が本書を執筆することにしたのは、・・・厳しくなる状況の中で、一人でも多くの学生や若い人々に、この社会を生き抜くための「武器」を手渡したいと考えたからである。(「僕は君たちに武器を配りたい」)
本書は・・・「投資家的な生き方」のすすめである。・・・自分の時間と労力、そして才能を、何につぎ込めば、そのリターンとしてマネタイズ=回収できるのかを真剣に考えよ、ということなのだ。(「僕は君たちに武器を配りたい」)

2.人材のコモディティ化

全産業で「コモディティ化」が進んでいる。賃金を下げないためにはコモディティになるな!・・・(自分自身がコモディティになれば)一生低い賃金に留まることになるだろう。(「僕は君たちに武器を配りたい」)

瀧本氏は、どんな学歴や資格があっても、グローバル化が進む現代の社会では、ホワイトカラーの労働力そのものがコモディティ化してしまい、今や社会は「高学歴ワーキングプア」を生み出す仕組みになっている、と言う。

勉強して高学歴を手に入れ、高スキルの職業につけば安泰であるというのは、医者であれ、弁護士であれ、建築家であれ、ほとんどの業界で崩壊している。知識は何の役にも立たないのである。

3.どういった人材を目指すべきか

一言で言うならば、知識・判断・行動のすべてをセットでこなすことのできる、交換不可能な人材だ。変化の激しい現在では、たとえ「エキスパート」と言われる人材であっても、あっという間に時代遅れになってしまう。若かりし頃新しい知識を売り物にブイブイ言わしていたが、今や冴えない中年となってやることなく窓際にいるなんて人が、大企業にうじゃうじゃいることを皆知っているはずだ。

4.どういう能力が必要なのか

では、知識・判断・行動のセットはどういう能力があれば可能なのだろうか? それには「武器としての教養(リベラルアーツ)」を身につけることだ。

そのうち正しい「判断」の仕方については、瀧本氏の「武器としての決断思考」に詳しく述べられている。ディベートの考え方をもとにメリット、デメリットを上げ、「根拠」や「反論」などを精査することを通して、正しく「思考」する方法論を論じている。

今後、カオスの時代を生きていく若い世代にいちばん必要なのは、意思決定の方法を学ぶことであり、決断力を身につけることです。(「武器としての決断思考」)

そして更に行動力に関して、

武器は持っているだけでは意味がありません。使ってなんぼ。失敗しても、間違ってもいいから、自分が得た知識・教養を、自分の判断、自分の行動に日常的に役立ててください。・・・教養も、座学ではなく、実践によって磨かれます。(「武器としての決断思考」)

5.交渉術と仲間

いくら自分の力で決断できるようになっても、・・・世の中を動かすためには自分一人の力ではとても足りません。共に戦う「仲間」を探し出し、連携して、大きな流れを生み出していかなければならない。そこで必要となるのが、相手と自分、お互いの利害を分析し、調整することで合意を目指す交渉の考え方です。(「武器としての交渉思考」)

若者が「仲間」を探すことは重要である。但し、気をつけないといけないのは、同じ価値観を持つ人たちがSNSなどでつながりを深めていくと、どんどん「タコツボ化」して、一般社会からかい離しかねない。従い、「異質な人」とのコミュニケーションや交渉によって合意を結ぶことにより、変化を生み出し、創造性をもたせることも重要なのである。

過去の重要な革命や改革は若者が主導で行ってきたように見えるが、その裏には必ず若者たちをバックアップするエスタブリッシュメント層(社会的な権威や財力をもつ大人)がいた。明治維新においても、中国の共産革命においても若者を支援する大人たちがいた。また、アップルやフェイスブックにも、スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグらの後ろには投資をして企業を支援した大人たちがいたのだ。

6.自分の人生は自分で考えて、自分で決めていくしない

今までの日本は、だいたい「みんなと同じ」「これまでのやり方」を選択しておけば問題は何もなかった。しかしながら、今の日本は大企業に入ったからといっても「一生安泰」ではなく、リストラされたり、低賃金に甘んじることになったり、会社が潰れることも珍しくない。

いまや将来がどうなるかは、まったく誰も予測できない。これこそが強いランダム性、カオスの時代になっているからである。その時代を生きていく上で最も大事なことは、今後ありとあらゆる場面で、「自分で考え、自分で決めていく」、そして「思い切って行動をする」ことだ。それこそが不確実な未来に向けて若者のみならず私たちに必要な能力なのである。

 ベンチャー企業というのは、統計的に100社あってうまくいくのは3社くらいだと言われています。要は「3勝97敗のゲーム」なんですね。でもぜんぜん悲しむことはなくてですね、失敗した人は再チャレンジすればいだけです。そうやって失敗と成功をグルグル回していって、社会を良くしていくのが、資本主義の素晴らしいところなんですね。人生もそうですよ。みなさんがいろんな分野でチャレンジし、分母の数を増やしていくことが重要で、そうしてみんながいろんな方法を試しているうちに、2,3個ぐらい成功例が出てくるんです。   (「2020年6月30日にまたここで会おう」)