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ビジネスマンのためのブラックスワン対策講座(1)そもそも予測をしなくていいようにする

ブラックスワン講座(1)~(9)において、ブラックスワンがどのように生まれ、なぜこれほどまでに被害を大きくしてきたか、また意外によく起こっている残念な事実を見てきました。

これからは「対策編」として、ブラックスワンに対する実務的な対策を考えていきましょう。

1.ブラックスワンは予想できない

ブラックスワンの定義をおさらいすると、①異常である。通常に考える範囲の外側にある、②とても大きな衝撃があること、③起こった後に適当な説明をつけて予測が可能だったように装う、ということになります。

タレブの「ブラック・スワン」において、様々な理由により、私たちにはブラックスワンが見えないことを説明しています。

主な点を言うと、ひとつは社会の変化により私たちの世界がより極端化してきているため、過去の経験が生かせないこと、また、あまりにも外れた値が出るために予測が困難であること。もう一つは人間の本質的な性質として、抽象を嫌い、物語をでっち上げたり、言葉に出来ないことや、想像できないことを嫌い、過小評価する、などです。

実際に、ヒトラーの台頭、第2次世界大戦、ソヴィエトの崩壊、インターネットの浸透、1987年のブラックマンデー、2001年アメリカ同時多発テロ、2008年のリーマンショック、2011年東日本大震災など、どれをとっても、その当時、私たちには予測はできなかったのです。

更に悪いことに、社会科学においては、これほどまでにブラックスワン的な事象が発生しているにも関わらず、予想ができないゆえに、「無いこと」にしてしまっています。

このような私たちの状況を考えるならば、残念ながらブラックスワンを正しく予想するのは極めて困難と言わざるを得ません。それならば、ブラックスワンの本質を理解して、正しく対処していくしか方法はありません。

2.予測できずとも大丈夫

ブラックスワンは予想ができず、その被害は甚大です。しかしながら、すでに見てきたように、このような事態に対して「脆い」ものと「反脆い」ものが存在します。

社会やシステム、また私たち自身が「脆い」と、ブラックスワン的事象に対して、大きな被害が出ます。従い、ブラックっスワンを正確に予測する必要があります(それでも予測はできないのですが)。

一方、「反脆い」または「頑健」であれば、ブラックスワンを正確に予測する必要はありません。極端な話をすれば、お金がたくさんあって、地下室に必要で、且つ取引可能な物資がすべて揃っていれば、正確な予想はなくても差し当たりなんとかなるのです。

大事なことは、「脆さ」をコントロールすることです。ブラックスワンが起こって惨事となったときに、私たちが考えるべきことは「その事象そのものをなぜ予測できなかったか」ではなく「なぜ私たちはこれほど脆いシステムをつくってしまったのか」なのです。

つまり、津波や経済危機を予見できないのは仕方がない、でも津波や経済危機に対して「脆い」システムをつくっていることが罪なのです。

3.脆さをみつけて潰すこと

まず、私たちが心しなけれなならないことは、「脆さ」を減らすことです。それには今までこの講義で学んできた「脆さ」をつくっているものを思い出す必要があります。

あなたが経営者やプロジェクトの責任者とします。不確実性により予期せぬ事象が起こった場合のことを考えて何をしているのか?という問いの答えはどうなるでしょうか?

日本では、火事や地震への備えは比較的進んでいます。特に様々な災害に苦しめられてきた歴史もあり、現在多くの組織でこれらに対する備えは比較的十分に行われています。

しかしながら、今回の新型 #コロナ ウィルスのような疫病や、経済危機、国内外の騒乱、革命、戦争、あるいは原発事故などへの備えはどうでしょうか?また、ネットの事故(たとえばデータセンタの崩壊)などはどうでしょうか?ブラックスワンが、考える範囲外の出来事であるならば、それらの事象以外のまったく想像もつかないブラックスワン的な事象も起こりうるわけです。

4.まずは冗長性の確保

効率化、最適化、JIT(ジャストインタイム生産方式)、#レバレッジ 、人員最小化、機械化、アウトソーシング等々。経営学における「あるべき理想のスリム化」は一度すべて見直した方が良さそうです。これはあくまで平常時のことしか考えていないのです。

比較的「反脆い」人間の体でも、臓器やキャパに相当の予備があります。決して「最適化」されているとは言えません。自然ですら、冗長性をブラックスワン的な環境変化に対する対処法としています。

まずは、ギリギリのオペレーションを見直して、重要なところに設備や人、モノ、資金等の冗長性をもたせることです。すでに述べたように、システムや組織の「脆さ」は、最も弱いところの強度で決まります。

そして、コストと効果の比較です。このような冗長性をつくる前提は、凸の非線形であること、つまり変動が起こったことによる損失の低減が大きいことが条件となります。もちろん、これは長期の話になりますので、年度決算や四半期決算の話ではありません。

ブラックスワンによるペイオフ(対価)がいくらになるかは想定が難しいですが、たとえば今回の疫病の流行などは外食産業や観光業にどれだけのインパクトがあるかを考えれば、一企業など簡単にぶっ飛びかねないのは明らかです。

そのエクスポージャーに対する投資として、その冗長性によるコストアップがペイするかどうかの判断は経営者の長期的な視野と想像力にかかっています。