【要約】ブラック・スワン 第11章 鳥のフンを探して

私たちの予測能力の構造的な限界は、私たちの側の問題ではなく、予測という営みそのものに伴う問題なのです。それだけでなく、私たちの手に入る道具を全部使っても複雑すぎます。黒い白鳥は捉えどころがありません。

発見とはだい たいたまたまの結果です。今ある発明はほとんど #セレンディピティ (ふとした偶然のたまものでいい目に会える能力)のおかげです。言い換えると、別に探していたわけでないものを見つけて、それが世界を変えてしまうのです。

このセレンディピティの例はたくさんあります。有名な例では、アレキサンダー・フレミングが #ペニシリン を発見したのは、研究室を掃除いているときで、以前の実験の培地のひとつが青カビに汚染されており、偶然ペニシリンの抗菌性を発見するに至ったと言います。

1965年、 #ベル研 で、二人の電波天文学者が大きなアンテナを使った研究をしていました。彼らは背景雑音(シャーシャーいう音)が鳥のフンによるノイズだと思って、フンの掃除をしたがどうしても消せませんでした。しばらくたってから、彼らは、自分たちが聞いているのは宇宙が誕生したときの名残りである宇宙背景放射だと気づきました。この発見で、 #ビッグバン 仮説 が復活しました。しかし、こういう件ではだいたいそうですが、彼らは自分たちの見つけたものがどれだけ重要か、彼らはすぐには気づきませんでした。

ほとんどの予想屋たちは、予測されていなった発見で大きな変化が起こるとことを予測できません。また、発見による変化は、彼らの予想より、ずっとゆっくりしか起こっていません。

エンジニアが道具をつくるのは、自然の秘密を暴くためより、楽しみのためであることが多いのです。道具は思いがけない発見につながることがあります。コンピューター、レーザーなどがそうです。

#レーザー の発明者、チャールズ・タウンは、網膜の縫合に使うことなど、思い浮かべてはいなかったと言っています。今やレーザーは、コンパクトディスク、視力矯正、データの保管と検索など様々なところに使われています。

カール・ライムント・ #ポパー は、歴史的な事件を予測するには技術進歩を予測する必要があり、技術進歩は本質的に予測できないと主張しました。

統計学には、#反復期待値の法則 というものがあります。その強法則は、将来のある時点で何かを期待すると今期待するなら、その何かは今期待しているということです。

石器時代に、もし車輪の発明の以前に、車輪の発明を予測できたら、車輪とはどういうものかもう知っている、ということは、どうやってつくればいいかわかっているわけだから、もうつくり始めているはずなのです。

反復期待値にはもうひとつ、弱法則というのもあって、予測ができるぐらい将来を理解するためには、その将来自体からきた要素を取り込まないといけません。つまり、だいたいどんな発見をすることなるかわかっていないといけないわけです。そうであればもう発見したも同然です。

つまり理屈から言って、私たちは将来の発明を思い描くことは簡単にはできません。従い将来は予測できないということになります。

アンリ・ #ポワンカレ は、「 #三体問題 」で、太陽系に惑星がふたつの時は正確に予測できるが、第3の小さな彗星が入っただけで、予測が爆発的に難しくなることを示しました。

数学者マイケル・ベリーによると、ビリヤードのボールの動きを予測するとき、壁に跳ね返る際のときの軌道の計算は、9回目の跳ね返りの際には、テーブルの横に立つ人の引力まで計算に入れる必要になると言います。そして、56回目には、宇宙のすべての素粒子について仮定が必要になるそうです。

このように均質的な力学系の計算ですら、予測が難しい中で、人の自由意思がはたらく社会の予測の複雑さは想像を超えています。人間を生き物として扱い、人間の自由な意思を考慮するならば、人間がかかわる将来の予測は、物体だけの話とはまったく違うものになります。

ほんとうに自由な意思を信じているならば、社会科学や経済学の予測などは信じられないはずです。ただそこには、 #新古典派経済学 のトリックが出てくるわけです。

すなわち、人は「 #合理的 」で、予想可能な動きをすること、それにより「 #最適化 」「 #最大化 」という数学の手法が使えます。

しかしながら、人は自分の経済的な価値を最大化する以外にやりたいことがあるかもしれない。でも、プラトン化した経済学者はそれを無視します。実証心理学者たち(ヒューリスティックとバイアス派)は、不確実性の下で合理的な行動を仮定するモデルは、現実を描いたものとしてどうしようもなく不正確だというだけでなく、ただただ間違っていることを示しました。これではもう「一般理論」なんてつくれません。「一般理論」がなければ予測なんてできないわけです。

それでは、なぜ私たちは計画をたてるのでしょうか?

答えは人間の性分にある、とタレブは言います。つまり進化の一面だからのようだ、と。

哲学者の #ダニエル・デネット は、私たちの脳みその一番強力な使い方は、将来を予測し、事実とは違うシナリオを進めることだと言います。これにより、第一義的な #自然淘汰 からうまく逃れられる可能性があります。この頭の中で予測をもてあそべる能力のおかげで、私たちは #進化 の法則から逃れられるのだが、それ自体もまた、進化の産物なのです。