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ブラックスワン講座(1)~コロナ禍のような惨事はしょっちゅうやってくる~


1.「ブラックスワン」について

ナシーム・ニコラス・タレブの2つの著作「ブラック・スワン」および「反脆弱性」を起点として、経済面や皆さんの生活面で大惨事を引き起こす、いわゆる「ブラックスワン」について考察します。ブラックスワンがなぜ起こるのか、予測は可能なのか、そしてどう対処すべきなのか、等について投資とビジネスの観点から検討していきます。

「数百年に1度の大津波」「100年に1度の大不況」「大恐慌以来の金融危機」「恐怖指数が史上最悪」「スペイン風邪以来のパンデミック」などと、事象の大きさを表現するのに、「めったにない」大事件であることを人は強調したがります。「めったにないことが今起こっている」となると投資家も不安にかられ売りに走り、株式市場が大荒れになります。また、すべての人々がそれぞれの立場で大きな影響をうけ、職を失ったり、収入が減ったり、資産価値が落ちたりということになります。

金融バブルがはじければ、銀行も投資家もファンドも痛手を蒙ります。場合によっては、サブプライム問題やリーマンショックの時のように金融機関が吹っ飛ぶことになります。

この「めったにない」「大惨事」がいわゆる「ブラックスワン」と呼ばれる事象です。黒鳥の存在を知らなかった人類が、17世紀に初めて豪州で黒い白鳥を見つけたという逸話から、この「ブラックスワン」がたいへん珍しい事象を示す言葉になったと聞きます。但し、今見てきたように、ブラックスワンと言うと、悪い事象や大惨事につながる事象を指すのが今は一般的なようです。

まず最初に認識をすべきポイントは、「100年に1回」とか「未曽有の○○」とか言っていますが、実際に過去を振り返ってみますと、結構「ブラックスワン」は頻繁に起こっているのです。

2.意外に頻繁なブラックスワン

30年ほど前から、いわゆる「ブラックスワン」と称される、国内外の事件を挙げていきます。

1987年ブラックマンデー 1990年日本バブル崩壊 1990年東西ドイツ統合 1991年ソ連解体 1991年湾岸戦争 1995年阪神淡路大震災 1995年地下鉄サリン事件 1997年アジア通貨危機 1997年山一證券廃業  1999年西暦2000年問題 2001年アメリカ同時多発テロ(9.11) 2001年ITバブルの崩壊 2003年イラク戦争勃発 2007年サブプライムローン問題 2008年リーマン・ショック 2009年欧州危機 2010年「アラブの春」運動 2011年東日本大震災 2015年ギリシャ金融危機 2016年英国EU離脱決定 2020年新型コロナウィルス蔓延 

どうやら、「100年に1度」など言うのはまったくのデタラメで、少なくとも数年に1度くらいの頻度で大事件が起こっているのが事実なのです。ですから「大損したけど、まあ100年に1度の大惨事なのでしようがない」なんて言い訳にはなりませんし、数年に1度大損を食らうわけにはいかないのです。

経営者は、突然のブラックスワンに対して、様々な影響を受けると思います。パンデミックのような疫病であれば、新型コロナウィルスのケースのように小売り、外食、サービス業、観光、交通など幅広い業種が大きなダメージを受けることになりますし、震災であれば、その地域のインフラ、商工業や人々の暮らしに大きな影響があるでしょう。大不況のようなブラックスワンであれば、銀行や投資ファンドのダメージが大きいでしょう。大企業がそろって大きな赤字を出したり、資金繰りに苦しんだり、場合によっては吹っ飛んだりもしかねません。

3.ブラックスワンにどう対処するのか?

ブラックスワンが、100年に1度でなく、数年に1度来ることがわかったら、さあどうしましょう? まずは、あらかじめ予測ができないものか、と思うでしょう。でもこれは不可能です。合理的に予測ができないもの、それがブラックスワンなのです。

ではどうすればいいでしょうか。それについてこれから検討していくわけですが、基本的には、あらゆる方法を使い「ブラックスワンによるダメージ」を最小化すること。また、可能であれば「ブラックスワンを逆に活用する」ことを考えるわけです。

起こりうる「ブラックスワン」の性質を考えれば、その「ブラックスワン」に対して何が「脆い」のか、「頑健」なのか見えてきます。そのうえで「脆い」ところを無くしたり、より頑健に作りかえることが必要になります。

また、「ブラックスワン」は、「不確実性」と強いランダム性がもたらす事象です。従い、組織でもシステムでも常に小さな変動を受けつつ耐えているなら、大きなランダム性である「ブラックスワン」への対処が可能になる可能性もあります。

それではこれから、「意外にしょっちゅう起こっている」ブラックスワンとの戦いを始めましょう。