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ビジネスマンのためのブラックスワン対策講座(7)不確実性を料理せよ!「リアル・オプション」

いいブラックスワンを掴むため不確実性を料理するワザがあります。それが「リアル・オプション理論」です。これは今まで述べてきた、ブラックスワンへの対処法としての「オプション」の考えを、主として事業評価や計画に利用するものです。一言で言うと、事業環境が不確実性な時に、オプションの行使を選択的にすることで、リスクを抑えながら、アップサイドを狙う方法です。それにより「いいブラックスワン」をモノにするのです。

1.リアル・オプション

たとえば、新たに10億円の投資をして食品工場を建てるとします。ただその商品は新しいテイストの食べ物であるため、売上予想は当然不確実です。また流行の動向では大きな売上を見込める可能性もありますが、あまり売れない可能性もあり、かなり不確実性は高いとします。

通常この手の投資の場合は、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)を使って、投資すべきかどうかの判断をします。具体的にはその会社で決めた割引率(たとえば10%)で、将来(たとえば事業開始から20年間)のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、それが投資額の10億円より大きければ投資をするし、少なければ(儲からないので)投資はしないというような判断になります。

このような場合に、リアル・オプションの考え方を使うと、まず小規模(たとえば4億円で)工場を建てて、事業を開始するのです。残りの6億円はオプションとして保有するわけです。

そして、実際に事業を開始して、新商品を市場に出して反応を見た上で、オプションを実行するかどうか決めればいいのです。いい反応で今後の商品販売がかなりいけるとなれば、6億円分の増築を行って当初の規模の工場にします。もし市場反応が悪ければ、撤退するか、その小規模のまま継続すればいいのです。

2.リアル・オプションのメリット

1)ダウンサイドを抑える

商品・サービスに対する市場の反応が思ったようにいかない場合、市場の成長率が思ったように伸びない場合など、見込み通りにいかない場合に最大損失額を抑えることができます。前述の例の場合は、4億円が最大の損失となります。

同時に、ブラックスワン的な事象が発生した場合にも、非常に有効です。金融危機、地震、コロナのようなパンデミック、急激な市場崩壊、など全く予期していない惨事が発生した場合、撤退、休止などの方策が取れます。10億円フルに投資した場合に比べて損失額は大きく抑えることができるわけです。

2)アップサイドのメリットを取る

このリアル・オプションでは、最終的には、当初10億円入れたときと同じアップサイドのメリットを将来的に取ることができます。

もし、当初リスクが高いということで、10億円の投資が出来ず、リアル・オプションを使わなかった場合には、このアップサイドのメリットは取れていなかったわけです。

3)不確実性が大きいほどメリットが大きい

利益の不確実性があまりに大きいために、最悪のケースを考慮して却下される案件はどこの会社にも多くあると思われます。たとえば、うまくいけば年間30%の利益が出るが、環境が悪くなるとマイナス5%というような案件です。

このオプションは、すでに見てきたように、不確実性が大きいほど価値があります。いわゆる「ばらつき具合」が大きいほどいいのです。

事業においては、ブラックスワンは悪い方向だけではありません。いい方向、思ってもいなかった幸運も多くあります。追加投資をオプションとしてもつことで、いい方のブラックスワンも期待できるわけなのです。

3.不確実性を料理する

投資を多段階にして、一部をオプション化するという手法は、それ以外のビジネス環境でも活用することが可能です。

1)企業投資

まず、企業投資においてです。投資する先の企業の中身はなかなか外から見えないものです。まずは20%~30%の株式を取得して役員を送り込み、企業の中をよく見せてもらいます。その企業の実力やリスクをよく理解した上で、100%の投資に踏み切る、というやり方です。最初の投資の時点で、最終的に100%までの投資の権利を保有することを合意していることが条件です。

2)リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ(lean startup)とは、アメリカの起業家エリック・リース氏が2008年に提唱した、起業や新規事業などの立ち上げ(スタートアップ)のためのマネジメント手法のことです。

不確実性の高い環境下では、事業家の思い込みで顧客にとって無価値な製品やサービスを開発してしまうことに伴う時間、労力、資源のムダをなくすため、まず実用最小限の機能の製品を売り、市場の反応を見ながら短いサイクルでより市場やユーザーのニーズにあった製品に変えていく手法です。これも不確実性への対処法としてのリアル・オプションの発想です。

4.リアル・オプションでチャレンジを!

このように、リアル・オプションは、ブラックスワンも含む「事業環境の不確実性」を最初から認めて、そのランダム性を逆に活用する考え方です。「何が起こるかわからない」と怖がっていては何も出来ません。

実は、不確実性が高いことは大きなチャンスなのです。なぜなら、この不確実性の料理の仕方が分からないとだれも手が出せないからです。リアル・オプションは、この不確実性に対して、最大限アップサイドを取り、ダウンサイドを抑える理想的な料理法なのです。

ぜひこの手法で果敢にチャレンジしてください。