2/13 夢想
夢を見た。彼が自殺する夢。
まるで寝起きの挨拶のような軽さで、「前々から死のうと思ってたんだよね」と告白され、何と言葉をかけようか迷っているうちに彼は遺書などの全て必要なものを用意し終えていた。
なぜ自分に言ったのかと言うと、君ならやりたいようにすればいいんじゃないと言ってくれそうだったから。というものだった。
彼をビルの屋上まで車で送った。彼は躊躇う様子もなく、ビルの屋上にある柵を越えて街の様子を見下ろす。そこに恐怖はないようで、「いい景色〜」などと言っている。
「スマホのパスワードだけ教えるから、写真とか覗かないでね。」そう言って、彼は私にスマホを託した。
「今までありがとう。」そう言うと彼は苦笑いしながらどこか寂しそうに、「死ぬのって、旅行みたいなものだと思う。普段僕たちが疲れれ家に帰ってきてから眠るように、そんな特別なことじゃないんど。ちょっとだけ血が出るから、あんまり人にはオススメしないんだけどね。」と言った。
彼はおかしな人だ、と今になって思う。小さい頃からやんちゃでお調子者で、かと思えばどこか繊細で、触れたら壊れてしまいそうな雰囲気があった。
そんな彼が、なぜ自殺しようと思ったのか。想像すればするほど、私が何かしてしまったのではないかと妄想を膨らませてしまうが、そんなこともないよな、とも思う。
彼はきっと繊細すぎて、この煩くて醜い世界を生きていくのが辛くなってしまったのだろう。
「じゃ、行くね。」と彼は言った。学校に行ってくるかのような気楽な様子に、私は待ってと声をかけることもできずにいた。彼はビルの屋上、街の喧騒を見下ろしながら歩を進めていく。
本当に彼が旅行のような雰囲気なものだから、私の方がおかしいのかもしれないと錯覚してしまいそうになる。
バス停裏、湿ったベンチで座りながら氷菓を食べた夏。草が生い茂る、日差しが眩しい河川敷でギターを持って歌った夏。アスファルトを叩く雨の夜、彼がどこか寂しそうに煙草を咥えていた夏。
今になって、色々な思い出が蘇ってくる。それはまるで、走馬灯のような。なぜ今思い出すのだろう。どうして思い出してしまうのだろう。人の死には慣れたはずだったのに。彼がいなくなることなど、分かっていたはずなのに。
空気が揺れた気がして目を彼のいた方向に向けると、彼は顔に微笑を浮かべながら、ふわりと足を前に運んだ。そこから先のことは、あまり覚えていない。
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