ホン雑記 Vol.534「完璧の中にワクワクはない」

キンコンの西野氏と放送作家の高須光聖氏が話してて「これってこうじゃね？」と意見が一致してたのが、「何かやろうとした時に冷静になってからやらないほうがいい」ということだった。

これには、またしても、またしても激しく救われた。音楽家のはしくれであるオレは「自分天才なんじゃね？」と「これなんか意味ある？」のジェットコースターがすごい。ジェットコースター？　いや、オセロっぽいな。うん、オセロだ。水泡に帰すんだよ。
「天才じゃね？」はたまに、「意味ある？」はさらにごくたまにしかやって来ないけど、とにかく後者が来た時には水泡に帰す感がある。
会社でもないし、与えられる仕事でもないし、人にも頼まれてもいないし、どこにも寄りかかるところがない感覚。オレがオレを見限ったら、すべてが終わってしまう感覚。「なんか意味ある？」のドアを開けて不運にもそれが連続してしまったとて、脳内の分泌物量には一切関係ないので精神安定剤の類はまったく効かない感覚。

オレは西野氏をホンモノのツクリテであり行動力オバケだと思ってるけど、そんな彼でさえそんなことを思っていたのかと、胸を撫で撫で下ろし下ろしした。仏様よろしく指の間に水掻きでも生えてるんちゃうかおもた。

彼は自身のサロンメンバーのホテル用にと、5000万円の旅客機を競り落としてたけど、これも「よく考えたらいらない買い物だった」という。
もっと言えば、当時の若手芸人の顕著な成功譚である『はねるのトびら』を自ら降りたのも、冷静に考えたらおかしな判断だったと。

でも彼が安定を求めてたら、きっとあんな名作映画は作れなかっただろうし、世界一のメンバー数を誇るオンラインサロンもなかっただろうし、「ディズニーを倒す」と豪語することもなかったんじゃないか。

何より、本人があんなに楽しそうに生きてないんじゃないのかな。

世の中の出来事を四象限に分けると、
1 重要かつ急を要すること
2 重要だが急ぎでないこと
3 重要でないが急を要すること
4 重要でないし急ぎでないこと
がある。

たとえば、1は命に関わること、2は夢や生き甲斐など、3は宿題や会議などの錯覚の領域、4はまったくいらないもの、と考えられる。
そして、人生において最も大切なのは「2」である。自分の人生を、自分が思う最高のレベルでより良くしようと全力で考えてくれるのは自分ひとりしかいない。親や親友や配偶者でも面倒は見切れない。
きっとスティーブ・ジョブズなんかはそういうことをわかっていたから、来る日も来る日も鏡を見つめて「今日お前のやることは自分のやりたいことか？」と問い続けたんだろう。やりたいことを命の前に持ってくるために。

これって産まれて来た時には、誰もがわかってたはずのことなんだよね。
学ぶのは学ぶためではないし、暮らすのは暮らすためではないように、授かった命はそれを長持ちさせるために授かるはずはない。「何に使うのか？　何をセレクトするのか？」のための入れ物でしかないはずだ。

一番だいじなことが「何をするのか？」で、それをやるにはどうしたって「命」がいる。なので冷静になると（オトナになると）、「それを失ってはいけない」が一番だいじなことだと錯覚する。

やっかいなことに、そっち側の人（不安の排除が最優先される人）のほうがコドモのままの人にアドバイスしたがる傾向がある。
「貯金しときなよ」「絶対無理だって」「次が見つかってから辞職したほうがいいよ」エトセトラエトセトラ…。
これ、逆はあんまりない。当然っちゃ当然だわな。時間がもったいない。

でも「プペル」は珍しく、中身がコドモの人がオトナの力も使って、オトナになりかけてる人に優しいお節介を焼いてくれる映画だ。
彼にはたまに「そんなヤツいちいち相手にせんでもいいのに」なんて思わされることもあるけど、そのいちいち言い返すコドモじみた（褒め言葉）ところがないと、いろんなオトナに食い散らかされたんだろうなぁ。

大人になって冷静に考えたら、キン消しも、ビックリマンシールも、働きはじめの頃にハマったアダルトアニメのレーザーディスクの山も、「なんであんなもん買ったんだろう、もったいない」なんて思わせる。投資はじめた時なんか特に思った。「あの無駄遣いもいい種銭になってたよなぁ」なんてふうに。
でも、絶対に生きなきゃいけない命なんてものはないように、生命の本懐はいらんことしい…つまり、横道が本線だと思うんだよね。

産まれてから死ぬまでずっと、人が羨む側の属性に居続けた人の人生と取り換えっこしたいかって言われたらそりゃ断るよね。味気ないもん。

今日もせっせと白を置く。