ホン雑記918「奥に細道」

日曜日の夜に嫁とつるんで再放送の「日曜美術館」を観る習性があるんだけど、昨日のは良かったなぁ。

どうも権威に「ケッ」と思っちゃうケがあるオレは、教え手になった時点でその人はホンモノのその道の人じゃない、と決めつける偏見があった。
クラシック作曲家の中では一番思い入れのある（いうてもそんなに曲しらんが）ショパンも弟子や教え子がいたんでそのへんはまぁ矛盾するんだけどもさ。
ボイトレコーチとかに作詞作曲歌唱する「音楽家」が皆無だよなぁってのがデカいのかもしれん。
で、昨日の日本画家にはだいぶそこんとこブッ飛ばされた。

西田俊英（しゅんえい）って画家なんだけど、武蔵野美術大学の教授もやってる人。
で、これもまぁ偏見なんだけど、いい感じ（何がかはわからん）の人は「あ、いい感じだな」と感じるセンサーがオレにはある。ってか、いい感じって自分が感じるんだから全員あるのか。まぁとにかくオレには強めのセンサーが搭載されてるんだ。しらんけど。

んで、やっぱ最初から「いい感じ」だったんだよ、その人。人がいいとかそういうこっちゃーなくてね。ま、それも入ってるけど、トゲを感じても「いい感じ」の人はざらに、というか結構いるからなぁ。

あ、急にわかったぞ。オレがこの「いい感じ」を感じる人の共通点は、「自分がすごいと思うものと、それに応ずる自分が世界で一番だいじである人」のような気がする。うん、きっとそうだ。

で、その西田氏が屋久島の森に入ってずーーーっと巨木を描いてるんだよね。数時間そうしてるわけ。「このへんが音楽では勝てんとこだよなぁ」なんて、する必要のない比較をいっつもしちゃうんだけど、逆に絵描きという人間には「オレの嫌いな感じの写真家」の要素がみんな1ミクロンほど入ってんじゃねーの？　なんていう偏見もあった。
その要素は、衒いとか酔いとかイキりとかカッコつけとか芸術家気取りとか言われるものかもしれない。

だけどね、西田氏ったら、絵を描きながら落涙したんだよ。それを見てオレは瞬時に大反省し、半落涙するはめになる。
泣きながら描く人、初めて見た。「こんな人が教授の中にいるのか」と思った。それを奪っては生きてはいけないようなタイプの人間が。そういう人は、人には教えないと思ってた。長嶋茂雄みたいなもんで、天才は「あーやってこーやって」を擬音で説明すればみんなわかるだろという、説明下手な人しかいないと思ってたんだな。

「あー、こういう人がいるなら、大学に行く価値ってあるんだなぁ」と、初めて思ったかもしれない。大学出ってのは、ただの選人眼無しボンクラ採用側人間に合わせた無意味なパスポートではないんだなと（芸大に対しては一般大学ほどそもそもこの偏見もないけど）。

西田氏は「なんで泣けるのかわからないけど、生きてるな～って感じるじゃないですか。描くという行為の中でいろんなことをできる」というような内容のことを言っていた。完全うろ覚えだ。
それを聞いてオレは心から、
（はぁ～～～、良かったねー、最高のものに出逢えた人生だったんだねー）
と、排他的な人間のくせに珍しくそう思えた。
俗世からしたら教授捕まえて「あー、おめでとう」ってのは偉そうな物言いかもしれんが、オレにとっちゃこれ以上の賛辞、いや別に褒めてるわけじゃないか、まぁとにかく「良かったね～」は無いんだ。
それは彼の中の永遠の少年に対して抱く感情であって、年上も年下も偉いも偉くないもプロもアマも上手いも下手もないのだ。ただ「出会えた人」を見て、心底「あーよかった」と思えた。
それは、これまた不遜に感じる人もいるんだろうが、彼を見て湧いたオレのこの感情が、「お前も出会えてるじゃないか」と、これ以上のやりかたはないレベルで教えてくれるからだ。

高校の自転車通学の帰り道、毎日自分の歌う歌に感極まって泣いてたオレだけど、ある日ふと「これってとても幸せなことなのでは？」と思った。それまでは自分でも恥ずかしいって思ってたからね。物心ついた時から泣き虫だったんで。
で、自作曲を歌ってる時がどうやら一番泣けるということがわかってきて「こ、これは結構愛されてるのでは？」と思ったのだ。そこに実力は関係ないぜ。あ、ちなみに行動力だって関係ないぜ。しらんけど。

そして西田氏は泣いたあとに「弱いっていうことは良いことなんですよ」って言ってくれて、「キターッ！」って感じだった。
「あぁ、狭いかもしれんが、やっぱりこの路地で合っているぞ、どうやらオレは」と思った。もちろん、合っていなくても、音楽にさほど愛されてないと自覚する日が来たしても、「そっか。じゃーもういいわ」とはならんのだけどさ。他に続いてること、何ひとつ無いしな。

自分が最も嫌ってる自分の弱点に、ダイヤモンド埋まってる可能性結構あると思います。

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【今日の過去詩リーズ】