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自由研究2019 「電線の老後について」

今日は8月31日。
夏の名残と秋のはしりです。これは池袋西武のお菓子フェアのタイトルなんですが、韻を踏んでますね。
自由研究2019も韻を踏んでるといえば踏んでます。

小中学生の方々は今ごろ夏休みの宿題に追われている頃でしょうか。

「完璧にやれるまで出せない」とか思ってると私のような締切の守れない大人になってしまうので、とにかく今できるせいいっぱい、手を動かして頑張ってください。
これはすべて、今の私に言っています。うわあ。
夏休みの宿題について、小説家の安岡章太郎がエッセイに書いていたことがもう痛いほどに的を得ていたのでご紹介します。

「ことに山のようにたまった宿題帳のことは、いま考えてもゾッとする。 一日一日、雪ダルマのように重荷がかさんでくるのは、大人が高利貸しの金を借りたも同様のもので、あと三日、あと二日、あと半日、と日がせまるにつれて時間は加速度的にすくなくなり、それに反比例して宿題の量は急速度で増大するのである。」

安岡章太郎『とちりの虫』(中公文庫)

ギャー!

小学生のころから自由研究はわりあいに好きでした。
自分のやったものでまだ覚えているのは、小学高学年で作った「日本全国 妖怪・都市伝説図鑑」と中学生の頃に作った「食べられる血糊」です。
オカルティックな並びなのは、その時々に都市伝説や血糊がでてくるようなものが大好きだったからですが、いまはむしろわりと苦手です。

大学生の頃は同級生と「大学生活って人生最後の夏休みらしいよ」なんて話していたものですが、卒業してから5年で大学生の夏休みみたいな日々が戻ってくるとは思いませんでした。
夏休みだから自由研究がしたいな…と思っていたそんな折、ありがたいことに「東京非鉄金属商工協同組合」の「リサイクル環境推進部会」さんから
『電線リサイクルの現場を見に来ませんか?』とお声がけいただきました。
今年の三月にDVDをリリースした際、産業新聞さんで取り上げられた記事を見つけていただいたそうです。やったね!

これまで電線誕生の瞬間と、うまれたてほやほやの電線は見たことがありました。DVD「電線礼讃」の撮影の際に古河電気工業さん、理研電線さんで電線工場の見学をさせていただいたときのことなのですが、これはもう、もう本当に楽しかったです。
実際どのように…ということにつきましては「DVDを見てね!」という感じになってしまうので今回は割愛いたします。

さて、街で使われる電線の寿命は設置状況などにもよりますが、
ざっくり30~40年と言われています。
現役を引退した電線がその後どう過ごすのかはご存知でしょうか。
調べてみたら、導体(電気を通す銅やアルミなどの部分)は100%がリサイクルされるそうです。
100%って全部だね!!!そんなことってあるんですね。
一度電線に生まれたらもう何度だって電線ということなのでしょうか、もしくは別のものになるのでしょうか。
私も徳を積んだら来世では電線に生まれ変われるのでしょうか。
さっそく見ていきましょう。

電線リサイクル全体の工程としては、まず引退後の電線たちは業者さんたちのオークションにかけられたあと、リサイクルヤードというところに集められます。

しなやかな金属の塊こと電線が軽々と持ち上げられる。

集められた電線は切断機で加工しやすい長さに切られ、被覆と導線に分ける剥線(はくせん)作業に移されます。
ここからの作業は三立機械工業さんで見学しました。

これが楽しかった!!
重さも長さもある線(そりゃ金属で作られた線だからね)を切断機でバシッと切るのですが、すこんと切る瞬間がなんとも気持ちいい。
もちろん、危険を伴う作業なので取り扱いは慎重に。
けれど家でケーブルを黙々と切ったり剥いたりするくらいには電線を切るのが好きなので、太物(ふともの)と呼ばれる1号線をバシッっと切れるなんて夢のようでした。
1メートル程度の長さに切断した電線を剥線機に入れます。

すると!!!見て!!!つるっと分かれるの!!!!!

ここで出てきたピカピカの銅線は「ピカ線」と呼ばれます。

ぺろんと剥けた絶縁体のポリエチレンは白ネギにも似ています。

これを「湿式ナゲット機」というマシンに入れて細かく砕き、「砂金採り」のような感じで水を使いながら銅ナゲット(細かい状態の名称)と被覆材のプラスチックを重さによって分けていきます。

この工程は怒涛の速さで進んでいくのですが、老後の電線を銅として回収できる精度はなんと99%!
分別されたばかりの銅ナゲットを手のひらに乗せてみると、回収されたばかりの銅が静かに輝いておりました。きれい。
しかも、水で分別した銅を一瞬で乾かす装置を通ってきたあとなのでかなり熱いのです。
銅の純度や回収率によって、リサイクル材料としての価値も変わるそうですが、たとえ素人の私が体験したとしても、精度の高いマシンのおかげでちゃんと銅が回収できるのは驚きでした。

つぎに、アール・マテリアルズさんへ移動して同じように切断した後のアルミ電線をナゲットにする工程を見学しました。
先程は水を使って(=湿式で)銅とプラスチックを分別しましたが、
こちらではアルミ電線のなかに使われているアルミと鉄を分けるために磁石を使う「磁選機」で選別していきます。

これもあっという間です。

こうして回収された金属たちは、さまざまな企業に材料として買われ、
純度によってふたたび電線や、スマホなどの基盤として生まれ変わっているそう。被覆素材は競馬のトレーニング場に使われたり、埋め立てられたりしているそうです。

ここでじんわりと感動してしまったのが、電線はその老後も何度だって生まれ変わって人間のそばで生き続けるってことですよ。

電線、あまりにけなげじゃないですか。
銅は立派だねっていうことでもあるんだけどさ、それを可能にするのは電線リサイクルに関わる方々の企業努力と研究、日々のお仕事の賜物なんです。

老後の電線をそのままスクラップとして、無価値なもの・無価物としてしまえばそれでおしまいですが、価値を見出し、引き出して、有価値にしていくお仕事ってすごいことだなとしみじみしてしまいました。

電線愛好家としても、電線のよさをもっと発見し、面白さを引き出せるよう努力せねばと思います。

そして今回の電線リサイクルを見学・体験した様子を特別に、
リサイクル環境推進部会さんの「進会楽チャンネル」でYouTube動画にしていただきました!
その名も「リ環推 feat. 電線礼讃」です!!!
うまれて初めての「フィーチャリング」でございます。
ぜひのぜひ!ご覧ください。とってもいい映像です。
その道のプロたちの説明で電線リサイクルのことがより詳しくわかります。

さらに、Twitterで皆様から募集しました「電線リサイクルについての質問」を座談会で聞いてきました!

noteに載せられなかった写真や動画は、Instagramに順次アップしていきますのでそちらもぜひご覧ください。

今回ご協力いただいた東京非鉄金属商工協同組合のリサイクル環境推進部会さん、三立機械工業さんとアール・マテリアルズさんはじめ
ご関係者のみなさま、お忙しいところお時間いただきまして本当にありがとうございました。

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