アンドロメダ瞬という先駆的ロールモデル

『アンドロメダ瞬』というキャラクターが、いかに革命的だったかという話をしたい。
『聖闘士星矢』は一九八五年に少年ジャンプで連載がはじまった作品で、主人公は五人の青銅聖闘士(ブロンズセイント)。聖闘士は聖衣(クロス)をまとうことで超人的な力を発揮(音速や光速の拳を繰り出す)する。女神アテナを守る聖闘士としては、黄金(ゴールド)・白銀(シルバー)の下の最下位の序列である。しかし五人は聖域(サンクチュアリ)の激しい内戦を、白銀・黄金聖闘士を打ち破って女神を守り抜き、海皇ポセイドン・冥皇ハーデスをも打ち破る。一応舞台は現代だが、まああまり時代性に左右されない作品ではある。
さて、アンドロメダ瞬の話である。物語がはじまる十三年前、聖域に赤子として降臨した女神アテナは命を狙われ、グラード財団の総帥であり、百人以上の実子を持つ城戸光政に託された。光政は百人の息子を孤児として集め、聖闘士となるための厳しい修行に送り出す。生き残って聖闘士となったのは十人。その中に一組の兄弟がおり、兄がフェニックス一輝、弟がアンドロメダ瞬である。兄との再会を夢見て帰国した瞬は、「ぼくは戦いを好まない」と発言。聖衣の一部である鎖を展開し、その結界に突入してくる敵を一蹴する。しかし彼を待っていたのは、最愛の兄との戦いであった……。
瞬は戦いを好まないフェミニンな男性でありながら、おそらく五人の中で最も強い。黄金聖闘士との戦いの中で、奇跡やパワーアップでなく、実力で黄金聖闘士を倒したのは瞬とドラゴン紫龍だけで、紫龍は相討ち技での勝利(相手に助けられて生存)なので、実力で黄金聖闘士を倒したのは瞬だけだと言ってもよい。瞬が鎖で戦うのは、拳で戦うと相手を殺してしまうからである。
八十年代半ばに、フェミニンで優しく、戦いを好まないが、最強の強さを秘めている男性のロールモデルが、すでに存在していたのである!
同時期の『美少女戦士セーラームーン』以降、「あるべき女性の姿(ロールモデル)」は多様化を極めた。戦闘美少女に限定しても『少女革命ウテナ』『プリキュアシリーズ』があり、ドラマや映画なら『逃げるは恥だが役に立つ』『ジョゼと虎と魚たち』などが、それぞれに多様なロールモデルを提供している。
対して、男性のロールモデルは『孫悟空』『モンキー・D・ルフィ』など、相変わらずの「心のないマッチョ」しかいないのが問題なのだ。
念のため、孫悟空やルフィがロールモデルに含まれること自体には問題はない。それ以外のタイプのロールモデルのバリエーションが乏しいのが問題なのである。
『鬼滅の刃』の竈門炭治郎は、「(ジャンプマンガで)最も優しい主人公」と呼ばれる。しかし彼は「大慈悲を以て殺す」。アンドロメダ瞬の系譜の、正当な後継者と呼べるかもしれない。

「相手を一撃で殺せる拳を持ちながら、自ら鎖でその拳を封じた、フェミニンで優しい少年」
現在でも全く通用するこのロールモデルを八十年代半ばに生みだした車田正美先生の才能に、改めて驚きを禁じ得ない。
だがNetflix、瞬を女体化したテメーはダメだ。

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