第十二夜 二日目、そして三日目(後編)

 平安時代の結婚には二種類あった。一つは親同士の決めた結婚で、正式な儀式によって執り行われる。
 本人同士の恋愛による結婚は、一般には婿取り婚で、男性が三夜連続で、女性の元に通うことによって成立する。
 この三日目の夜を、三日夜(みかよ)と呼び、露顕(ところあらわし)と呼ばれる結婚披露の宴が執り行われる。露顕では、三日夜の餅(もちい)と呼ばれる、祝いの餅が供され、新郎新婦は、銀盤に乗せられた餅を、銀の箸で食べる。この時、新郎は、餅を噛み切らずに食べなければならなかった。


 私の御簾の前には銀盤が置かれ、二つの餅が乗せられていた。
「今日で三日目です。普通なら、これで婚姻の成立になります」
 私の心の準備はできていた。だが、中将の君は意外なことを言った。
「あなたには想い人がいますね。私以外の」
 どきん。
「そんなあなたの、体だけを私のものにするのは、本当の恋とは言えないでしょう」
 彼は私の御簾の前から、三日夜の餅をどけた。
「私は、待つことにいたしましょう。あなたの心が、私のものになるのを」
 すっと立ち上がり、私の前から去ろうとする彼を、私は思わず御簾を上げて追いそうになって、思いとどまった。
 ここで御簾を上げることは、彼の矜持を、いたく傷つけることになるからだ。


「ああ、奥方さま!」
 牛車の去って行く音が聞こえるか聞こえないかのうちに、几帳の綻びから拾が飛び出してきて、御簾の中に飛び込んで来た。
 私は、拾をしっかり抱き留めた。
 拾の唇が、私の唇を塞ぐ。
「私はこのままここに居て、よいのですね」
 私は曖昧にうなずいた。それを同意と取ったのか、拾は私を、優しくも激しく押し倒した。
 拾の指が私の乳をまさぐり、敏感な泉にすべり込む。
「奥方さま……!」
 拾の肉が、私の泉に潜り込んでくる。肉に押し出されるように、泉から汁があふれる。
 拾が私の肉をむさぼるのを、私はなすがままに受け入れる。
 でも、拾と愛し合うようになってからはじめて、私は、拾と気持ちがすれ違うのを感じていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?