『ニート働く』


普段引きこもっている私だが、暇つぶしに働いてみようと思った。小説を読んだり書いたりするのも飽きてきて、ニュースもさして面白くない。部屋で一人、将来の不安と対決するのは心細い。いっそのこと働いてしまおう。そう思った。
派遣の登録会に参加して、初仕事。空のケースにCDを入れるだけのお仕事だ。丸々太った主婦と、歯がほとんどない老婆。この2人が私の上司。
「ケースにゴミがないかチェックしてね」太った主婦が私に笑いかける。
はい!と元気の良い返事をしてまじまじケースを見る。
「あんまり見ると穴が開くよ」ぼそっと老婆が言った。
その瞬間、何が起こったか理解できなかった。穴が開く?一体どういうことだ。私は何かまずいことをしているのか。
「冗談だよ」
冗談!私は感激してしまった。ネットや小説にこんな冗談があるだろうか。これこそまさに機知だ。誰も傷つけない笑いだ。私はタイミング遅れの吹き出し笑いをした。老婆は満足そうに目尻の皺を深くした。
私は少し興奮していた。これが生活する人なのか。私は何も見ていなかった。本だけで人間が理解できていると思っていた。否、否、無限大に否。文字にしても素晴らしいこの冗句。そう漢字で書きたい。これこそが『冗句』だ。
CDを数百枚入れた箱を指定の場所に運ぶ作業があった。私は仕事が遅かったので、老婆に「持ちますよ」と申し出た。太った主婦は「男の子だね、優しい」と言った。私は少し顔を赤め、老婆に手を出した。すると!老婆は機敏な動きで重たい箱を持っていき、ドサっと置くと「あたしゃ昔は男だったのさ」と言った。私はもう、参ってしまった。
私は働くのは素晴らしいことだと思った。肉体の心地良い疲れ、社会の一員である自尊心、人の優しさ、そしてなにより冗句!
私は良い経験をした。

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