「自分がウソをついた女とは、極力会いたくない」

自分がウソをついた相手とは、極力会いたくないんだ。僕はウソをつくには良心的過ぎるんだね。

Aにも会いたくない。彼女は素晴らしい女性だと後から知ったよ。夢があって、ひたむきで、それだけじゃなくちゃんと現実も見つめていた。僕はAにウソをついた。僕は銀行マンだということになっていた。その実僕は下世話な雑誌のライターなんだ。Aは「銀行マンって早めに帰れそう」なんて言ったから、僕は「そうは言っても銀行が閉まってからが大変なんだよ」と言った。Aはまだ僕を銀行マンだと信じている。いっそのこと、ウソを見破ってくれればこっちとしても楽なのに。銀行マンのことをいろいろ調べてAに話すのは疲れるんだ。だからもうAには会いたくない。

Bにはなおさら会いたくない。だって彼女は僕にウソをついてきたんだ。Bはねずみ講にはまっていた。そして僕を勧誘してきやがった!僕がBについたウソは「へえ、それってすごいね!話もっと聞かせてよ」というウソだった。その時Bが僕を見下した目で見やがった。騙されたフリって奴だ。まあ、なかなか愉快だったがね。騙せそうなオツムの奴だと思われたのは気に入らないな。バカのフリってのはなかなか疲れるんだ。だからもうBには会わない。

Cには実を言うと、会いたいんだ。けど会えないんだな。Cはいい子だった!僕はCに愛しているってウソをついちゃったんだな。そしたらCの奴そんな冗談を信じ込んじゃったんだ。あーあ。愛しているわけがないじゃないか。それくらいわからないのかなあ。Cはもう喜んじゃって、僕にお土産を買ってきたり、クッキーを焼いたりした。僕は愛していると軽々しく言える人だが、そう何度も求められると嫌になるな。愛していない相手に愛しているというのはなんだか精神が分裂しそうになるんだ。Cを愛している自分が新たに生まれて自分の体を操ってしまうような。それはまずいから急いで幽体を連れ戻してきた。このままいくとCを本当に愛してしまうかもしれない。Cはお世辞にも可愛いとは言えないから、それはまずい。だからもうCには会えないんだ。

ああ、読者の皆さん。僕はここで残念な告白をしなければならない。これまで僕は読者の皆さんにウソをついていた。ちょ、ちょっと待って!行かないでくれ。頼む。全部が全部ウソじゃない。本当のところもある。ウソなのは、まず僕は下世話な雑誌ライターではなくニートなんだ。次に僕はBに20万円騙し取られた。最後にCは実は可愛くて、僕はCにつきまとっていただけだ。

ああ!僕は読者までも失いたくないから、こうしてちゃんと正直に告白したんだ。だからどうか行かないでくれ…どうか!どうか

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