ヘンシン

僕らはもう、お勉強に辟易していた。テレビもダメ、ゲームもダメ、漫画もダメ、おしゃべりもダメ。じゃあ一体何ならいいって言うんだ!僕らはもう、逃げ出すことにした。しかし僕らは子供だ。まだ12歳の子供が親から独立するというのは、ちょっと難しい。だから僕らは、動物になることにした。僕はあまのじゃくな性格なので、猫になることにした。黒猫さ。レオくんは、チワワになった。小物の癖に喧嘩っ早いし、バカだから。僕はチワワになったレオくんを馬鹿にした。
「君、似合ってるよ」って。
するとレオくんはワンワン‥ というより… キャンキャン吠えた。僕は笑って自分の腕を舐めた。
僕らは僕らが居なくなってヒステリックに喚き散らかす親たちを見ていた。塀の上に立って見ていた。母親は泣き喚いた。僕らがヘンタイの餌食になったとばかり思っている。僕は若干可哀想にもなったけれど、こんなもんじゃ僕らの精神的損害の抗弁は出来ていない。僕らはしばらく動物として楽しむことにしよう。
街中の子供が、勉強から解放された。ゴールデンレトリバーになったり、コオロギになったり、カマキリや、ゴキブリになった奴もいた。ゴキブリになった奴らは僕の格好の餌食になった。僕は奴らを追いかけ回し、食い散らかして遊んだ。けど、普通のゴキブリと違って人間から動物になった奴はまたどこかで復活する。だから永遠に狩りを楽しめる。ゴールデンレトリバーの彼は「やめなよ」とか一丁前のことを言ってたっけ。けれどもやめるわけはないんだからな。オレが一番頑張ったんだからな。そんなこんなで、僕らはこの生活を各々のやり方で楽しんでいたわけだが、なんだか少々飽きてもきた。僕は僕をこんな風にした親たちに復シュウすることにした。
いや、なに、直接的な被害をもたらそうなんていうんではない。そんなもの、甘っちょろい。愛する僕が、愛するあまりに家出をし、愛しすぎた上にヘンタイに犯されるって状況を作り出してやろうというのさ。僕ん家の隣のおじさん。年は多分40歳くらいかな。仕事もせずに、だらだらしている。僕はこのおじさんにちょっと社会の厳しさって奴を教えてやろうと思うんだ。なに、簡単。僕の靴をおじさんの家に隠しておいて、中で叫んでやるのさ。人間に戻り、服をチワワに噛ませてズタボロにする。一旦猫になっておじさんの家に忍び込む。玄関で人間に戻って大声を出す。「助けて!助けて!」ってね。おじさんは部屋にいたようでどたどたいってやってくる。親父も母も急いで駆けつけてくる。玄関を開けるとそこには服がボロボロの、僕。

御用。
おじさんは否認したけど、証拠が揃ってるから仕方がない。と、いうのもね。僕はあらかじめおじさんの部屋に猫になって忍び込み、しわくちゃになったティッシュをくわえて拝借してきて、自分のお尻に塗りつけておいたんだ。前科一犯。どころかヘンタイのレッテルを
された無実のおじさんは、実家から追い出されて今、ホームレス。生活保護の申請も通らなくって、可哀想。親父と母は、僕に気兼ねして事件のことは語らない。僕は適当に「勉強がイヤになっておじさんの家に遊びに行ったんだ‥ そしたら‥ おじさんがいきなり」名演技。天才子役。注意深く見ていたなら、僕がにやけるのを抑えながら演技をしているということがこの優秀な両親なら分かっただろう。けれども息子の本来ないはずの「貞操」は、汚され、犯され、キズモノに。ああ哀れな両親は、泣いた、喚いた。可哀想

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