「わがままを言うことの大切さ」

彼女の問題というのはつまり、自分の欲求を、他の誰かの欲求だと思い込んでしまうことである。

たとえば彼女の娘が、彼氏と毎晩遊んでいるとする。彼女はそれが気に入らない。なぜかというと、彼女が娘くらいの年齢の時、親から夜遊びを厳しく禁じられていたからだ。しかしそれをそのまま言ってしまうと、格好がつかない。そこで彼女はこういう。

「最近街の治安が悪いからよしなさい」

見事な手法だ!

彼女は娘に対する自分の妬みを、子を思う親心にすり替えてしまった!

あるいは彼女の息子が煙草を吸っていたとする。彼女はそれが気に入らない。なぜかというと、自分の家にヤニの臭いが染み付くのが嫌なのだ。しかしそれを言ってしまうと、格好がつかない。そこで彼女はこういう。

「ご近所の迷惑だから」

見事な手法だ!

彼女は自分の煙草嫌いを、ご近所の煙草嫌いにすり替えてしまった!加えて言えば、息子は娘より愛されてはいないようだ。なぜなら娘に対しては体を気遣う素振りをしていたのに対し、息子に対してはご近所に対する体裁をその言い訳にしたからだ。

そして彼女がすごいのは、その巧妙なすり替えを、無意識に行っているという点である。まったく、読者に彼女の話術を見せてあげたい。その流麗で自然なことと言えば、どんなペテン師も敵わない。それもそのはずだ。彼女は自分が詐欺師だということに気づいていないのだから。これほど手ごわい論敵はいない。

このすり替えの問題点は、娘や息子に対して、問題の本質を提示できないという点にある。
娘からすれば、自分の身は自分で守るし、彼氏がいるのだから安全だ。という論駁が可能だし
息子にしても、煙草が近所迷惑なら、窓を閉めて煙草を吸うだけの話だ。

こうして彼女の要求は無下にされ、彼女はますます苛立ってくる。
彼女に必要なのは、自分のわがままを、あるがままに相手に伝えると言う図太さだ。

彼女は責任を回避している。あくまで相手の為、周りの為に要求をしているのであって、自分のわがままではない。そう思うのは一時は楽であるかもしれない。しかし後々になってその欺瞞はさまざま厄災を彼女と周囲にもたらすだろう。

わがままを、あるがままに伝える。これが結局のところ、みんなが仲良く暮らすための一番の近道なのだ。

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