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愉快な悪徳


私の高校時代の友人にKという人物がいる。彼はとても優秀な人物で、優秀な大学を出、優秀な企業に入った。彼の悪徳は数えればきりがないが、彼の沢山ある悪徳が、かえって彼を魅力的な人物にしていた。彼と関係した人は、彼を愛するか、さもなくば憎むかしかできず、彼と言葉を交わして完全に無関心でいられる人物というのは、よほどの大人物でなければならないだろうと思われる。実際彼はよくモテる。女にもモテるが、男に対しても抗えない魅力を発している。さて、そんな彼の愉快な悪徳の一つに盗み癖というのがある。彼と遊びに出かけると、必ずと言っていいほどどこかから何かを盗んできてしまう。ポーカーゲーム遊びをしていた時も、店からコインを盗んできたし、ある時、彼に銭湯に誘われ、ついていくと、脱衣所に備え付けの化粧水をこっそりバッグに入れるのであった。そして犯行の直後に脱衣所に監視カメラがあることに気が付くと、この愉快な小悪党は薄ら笑いで、「あれってカメラだよな?俺化粧水盗んだんだが、まずいかな?」なんて悪びれる様子もなく私に聞くのであった。彼はこの化粧水の匂いが気に入ったから盗ったのだというが、盗む理由はそれだけではあるまい。彼はスリリングな気持ちで盗みを行っていることは明白で、それ自体がストレス発散なのであろう。フィクションの中の人物であるが、シャーロックホームズも同じ性癖を持ち合わせていたという。もしかしたら盗み癖とは知的で魅惑的な人間共通の悪徳なのかもしれない。

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