「雨にも負けず‥」


辛いことがあったわけでもないのに、泣きたくなる夜がある。将来への不安とか、自信のなさとか、会話している上司がぴくりと口を痙攣させたのを思い出した時とか、そう言った夜がある。
今晩は、まさにそんな夜だった。なんの失敗もしていない。人生は確実によくなっているはずだ。仕事仲間もいい人ばかりで、家族団欒の時間もある。なのに、なぜだろう泣きたくなるのは。
泣くことはストレス対処法として優れているらしい。なんでも体から液体を出すと、人はスカッとするものらしいのだ。精液でも、尿でも、よだれでも、涙でも。
だから泣いてもよかった。けど泣けないでいた。
寝る前の風呂を浴びた後の日課、ベランダでの喫煙。すると姿は見えないがお母さんに連れられた男の子の声が聞こえてきた。
「雨にも負けず、風にも負けず。雪にも夏の暑さにも負けず。丈夫な体を持ち‥」
私はふっと笑い、ピースを唇から離して、泣けた。

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