見出し画像

羅生門 芥川龍之介

○要約
芥川龍之介の『羅生門』は、平安時代末期の荒廃した京都を舞台に、羅生門で繰り広げられる人間の倫理と生存本能を描いた短編小説です。物語は、大きな門の下で雨宿りをしている一人の下人(従者)が主人公です。主人公は、仕えていた主人に解雇され、生きるための手段を失い、盗みを働くか、飢え死にするかの選択を迫られています。

雨が降り続く中、下人は門の上で火の光を見つけ、好奇心から上がっていきます。そこでは一人の老婆が、死体から髪の毛を抜いているところに遭遇します。驚いた下人は老婆を問い詰めます。老婆は、自分も生きるためにこのような行為をしていると説明し、死体の髪の毛を抜いてかつらを作り、それを売って糧を得ていると告白します。老婆の行為を非難しながらも、その必死さに共感を覚える下人は、次第に自らの行動を正当化する思いに駆られます。

下人は、自分も生きるために手段を選ばないと決意し、老婆の持っている衣服を奪い、その場を去ります。老婆の必死の抗議にもかかわらず、下人はその決意を曲げることなく、暗闇の中へと消えていきます。

『羅生門』は、極限状況における人間の倫理観の揺らぎと、生存本能の強さを描いています。下人は、生き延びるために自身の道徳的な枠組みを破り、盗みを働くことを選びます。芥川は、この短編を通じて、飢餓や困窮の中で人間がどのようにして生き延びるか、そしてその過程でどのように倫理観が変化するかを鋭く描き出しています。作品は、人間の本性と倫理の相対性についての深い洞察を提供し、読者に強い印象を与えます。

○伝えたい3つのメッセージ
1. **極限状況下での人間の倫理観の揺らぎ**  
『羅生門』は、極限状況に置かれた人間がどのように行動するかを描いています。下人は失業し、生きるための選択を迫られています。雨の中、羅生門の下で考えを巡らせる彼の内面の葛藤は、倫理観と生存本能の衝突を象徴しています。老婆が死体から髪を抜いている姿に驚愕しつつも、その行為を「生きるため」として理解する下人の心情は、倫理的な判断が生存の危機に直面するとき、いかに揺らぐかを示しています。芥川は、この物語を通じて、極限状況下では人間の倫理観が容易に崩れることを描き、人間の道徳の脆弱さを提示しています。

2. **人間の本性と利己主義**  
下人の行動は、究極的には自己保存の本能に基づいています。彼が老婆から衣服を奪うシーンは、倫理や道徳よりも自己の生存を優先する人間の本性を浮き彫りにしています。老婆の行為を非難しつつも、自らも同じく非道な行為に及ぶことで、下人は自分の生存を確保しようとします。芥川は、人間が追い詰められたときに現れる利己主義と、それに伴う行動の正当化について考察しています。この作品を通じて、読者に対して人間の本性とは何か、そして利己主義がどのように人間の行動を支配するかを問いかけています。

3. **倫理の相対性と状況倫理**  
物語の中で、倫理的な判断は状況によって相対化されることが示されています。下人は、老婆の行為を一度は非難しますが、彼女の「生きるため」という説明を聞き入れた後、自分も同様の行為に走ります。ここで示されるのは、倫理が絶対的なものでなく、状況に応じて変化し得るということです。芥川は、固定的な道徳観念が、極限状況においては容易に崩れ去る可能性を描くことで、倫理の相対性を浮き彫りにしています。この視点から、『羅生門』は、人間が状況に応じて柔軟に倫理的な判断を下す必要があること、そしてその過程で自己の行動をどのように正当化するかを深く考察する作品となっています。

これらのメッセージを通じて、芥川龍之介は人間の本質と倫理についての深い洞察を読者に提供し、極限状況における人間の行動とその背後にある心理を探求しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?