#1 りくるーと
○ C – 1 記録映像
ハンディカメラ風の記録映像。
椅子に座りカメラ目線の田中。
画面に向かってゆっくりと喋り始める。
田中 「みなさん初めまして。田中といいます」
田中 「あれから、丁度半年が経ちました」
田中 「まずは、そうですね・・・ どこから話しましょうか・・・」
#1 りくるーと
○ 1 – 1 ネットカフェのブース 昼
狭く散らかったネカフェの個室。
備品のPCとは別に使い込まれたノートPC。
冬吾がソファーの上で窮屈そうに寝ている。
ノートPCから通知音。
冬吾、目を開け、もっさりと体を起こす。
○ 1 – 2 とあるマンションのリビング 昼
ありふれたマンションのリビング。
ユキコが一人テーブルに座りノートPCに向かっている。
チャットでメッセージのやりとり中。
ユキコ(chat) [すみません]
ユキコ(chat) [さっき、振り込みました]
すぐに返信が来る。
MINT (chat) [ありがとうございます]
MINT (chat) [確認できました]
MINT (chat) [PASSをお伝えします]
MINT (chat) [orange1313]
MINT (chat) [こちらです]
ユキコ、SNSのログイン画面にPASSを入力。
夫の裏アカウント(※鍵付)にログイン。
投稿内容は妻や仕事の愚痴。
MINT (chat) [ありがとうございました]
ユキコ、チャット画面を閉じ、SNSのDMの履歴を閲覧。
ゆり(DM) [奥さん大丈夫??]
TOM (DM) [池田と飲むって言ってある]
ゆり(DM) [www]
ゆり(DM) [実在する人?]
TOM (DM) [するよ!部下!(笑)]
ユキコ、ため息をつき、ノートPCを閉じる。
ユキコ 「ねえー! 旦那浮気しとったー!」大声で
ヒロシ(愛人) 「マジー? どんまい!」
○ 1 – 3 ネットカフェのブース 昼
冬吾が自前のノートPCを扱っている。
ユキコとのチャット画面を閉じ、クラウドソーシングサイトを閲覧。
某依頼人 [パスワード解析:上司に復讐したいです]
ドアノックの音。
しかし、冬吾は気づかない。
ノックが次第に強くなり、やがて気づく。
ぎょっとするが、返事はしない。
冬吾、慌てて作業画面を消し、ノートPCを隠し、息を殺す。
しばらくして、ドアをそっと開け、外を確認。
誰もいない。
冬吾、集中力が切れた様子。
○ 1 – 4 ネットカフェのドリンクバー付近 昼
冬吾がジュースを注ぐ。
冬吾、背中を叩かれ振り返る。
若い女性。ライチ。
二人の目が合う。
冬吾、状況が飲み込めず固まる。
ライチ 「プログラマーさんですよね?」
冬吾 「・・・」
冬吾、無言でジュースを注ぐ。
○ 1 – 5 とある会社(店舗)の事務所内 夕方
小企業(あるいは店舗)の事務デスク。
PCに向かう新田(ITに詳しい若者)と、その側で画面を覗く冬吾。
ライチと南と乾(ガラ悪めの従業員)はその様子を見守っている。
冬吾、コードを読んでいく。
ライチがスマホを取り出し、音声入力。
ライチ 「ランサムウェア」
Siri(的なモノ) 「ランサムウェアは身代金要求型ウイルスで、感染した端末はロックをかけられる、ファイルを暗号化されるなどの被害を受け・・・」
ライチ、途中で説明をストップさせる。
ライチ 「中のデータが人質ってことですね」
新田 「です」
ライチ 「いくらですか?」
新田 「50万っす」
ライチ 「絶妙なラインですね」笑う
乾 「ど?」
新田 「・・・」神妙な顔でPCを弄る。
南 「おい、お前払えよ」
乾 「はい?」
南 「お前が一番使っとろうが」
乾 「勘弁してくださいよ」
冬吾 「解除しないんですか?」
皆が冬吾の方を見る。
新田 「どうやって?」苛立って
冬吾 「・・・さあ」
新田 「てか君誰よ?」苛立つ
ライチ 「出来るの?」
冬吾 「はい、多分」
〜 〜 〜
冬吾がPCに向かっている。
(リアルな解決方法)
新田が冬吾の技術に驚く。
ライチ 「できそう?」
ライチが冬吾に話しかけるが聞こえていない様子。
気づけば、全員がPCの周りに。
冬吾、ロック解除に成功し、ファイルを開く。
冬吾 「できました」
乾 「おお!ありがとう!」冬吾の肩を揺する。
社内で拍手が起こる。ことのシュールさ。
皆の反応にポカンとする冬吾。
○ 1 - 6 レストラン 夜
おしゃれな店。
2人で食事している冬吾とライチ。
冬吾は慣れない様子。
ライチ 「どこで勉強したんですか?」
冬吾 「ネットとかです」
ライチ 「独学ってコトですか?」
冬吾 「まあ、そんな感じです」
ライチ 「ハッカーってどんな人が向いてるんですか?」
冬吾しばらく考え、口を開く。
冬吾 「コンピューターに詳しい人ですね」
ライチ 「・・・」
冬吾 「あと、ひねくれてる人です」
ライチ 「どうしてですか?」
冬吾 「例えば・・・ 犬は可愛いですか?」
ライチ 「犬種によります」
冬吾 「マルチーズは?」
ライチ 「可愛い。平均的なマルチーズだったら」
冬吾 「じゃあ、『平均的なマルチーズだったら可愛いとする』っていうプログラムが存在するとして、ハッカーはその例外を考えるんです」
ライチ 「はい、でもマルチーズは可愛いです」
冬吾 「死体でもですか?」
ライチ 「いや。死体の状態によるね」
冬吾 「はい」
ライチ 「で?」
冬吾 「え・・・つまり」
新しい料理が来る。
ライチ 「今回の案件はどうでした?」
冬吾 「えっと・・・ ランサムウェアは初めてだったので」
ライチ 「はい」
冬吾 「だから、楽しかったです」
ライチ笑う。
ライチ 「ネカフェぐらしは、なにか事情が?」
冬吾 「家の借り方分かんなくて」
ライチ 「うちで働きます?」
冬吾 「あ、さっきの?」
ライチ 「ああ。あれはクライアントです」
冬吾 「何を、えっと・・・」
ライチ 「ま、便利屋ですかね」
料理を頬張る冬吾。
ライチが冬吾のグラスにジュースを注ぐ。
○ C – 2 記録映像
ハンディカメラ風の記録映像。
田中が画面に向かって喋っている。
田中 「このエピソードに私は登場しませんね」笑う
田中 「冬吾くんを迎えた我々は、更に色々な案件をこなしました。今思うと、楽しい時期でしたね・・・」
古い写真が表示される。事務所のメンバーで働いていたり、遊んでいたり、色々な場面。
ライチが寝ている冬吾の顔にくらげの一部を描いている写真も。(よく見れば程度に)
田中 「それから一年とちょっとが経った頃ですね、すごく暑い日だったのを覚えています」