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絵の無いマンガ#2 『運命の輪』

これは、正直で真面目なオレが、運命の輪に翻弄された物語である。暇な奴は読んでみてくれ。

登場人物のスペック(当時)を簡単に紹介するよ。
オレ 28才 ブサンメン寄りのフツメン(だと思いたい)
   地方の国立大卒 地方の同族系企業の課長 婿養子
ヨメ子 26才 特別ではないが美人の部類
   都内の女子大卒 同じ会社の取締役・部長 我儘なお嬢様(一人娘)
社長 50才 ヨメ子の父(義父) 同じ会社の代表取締役・社長
ヨメ子母 すでに他界

私(オレ)は東京出身なんだが、都会の喧騒が嫌いで、地方の国立大学を卒業した後は、そのまま地方の企業に就職した。同族系の企業で、同じ苗字の人が多いのは気になったが、出世を気にしなければ比較的ホワイトで働きやすい会社だった。私は三人兄弟の三男ということもあり、家業(小さな町工場)を継ぐ必要もないので、気楽な身分だった。

そんな私とヨメ子が結婚したのは2年前で、上司から勧められたお見合いがキッカケだった。お見合いの席で初めて知ってビックリしたのだが、その相手は社長のお嬢さんだった。上司の勧めもあり断れない見合いだったし、どうせ相手から断ってくるだろうと思っていたが、なぜかトントン拍子に話が進んで結婚する運びとなった。後で聞いた話だが、社長がなぜか俺のことを気に入り、娘に勧めたそうだ。

元々見合い結婚なので、特に仲が良いわけではないが、最初の1年間はソツなく暮らしていたはずだった。しかし、1年前から私に対するヨメ子の態度が急変した。私は婿養子なので、親族一同から後継ぎを期待され、それなりに努力をしていたが、1年前から徐々に拒絶されることが多くなり、この半年間はレスの状態が続いていた。

そんな時、ヨメ子から衝撃的なことを告げられた。「私、妊娠したみたい。いま妊娠三か月なの」。一瞬絶句した。「あのぉ、俺たちここ最近はレスだったよね」。「それがどうしたの。この子はあなたの子供よ。文句言わずに育てなさい」と、無茶苦茶なことを言ってくる。さらに追い打ちをかけるように「あなたは婿養子だから選択肢はないわよ。どうせ離婚する度胸はなさそうだけど、離婚するなら会社はクビよ。退職金も慰謝料替わりで無しになると思うわ」と言ってきた。

衝撃の告白から3日間、かなり悩んだが、離婚して退職することに決めた。「まだ20代だし、別の場所でやり直そう」と、気持ちは意外とサバサバしていた。結局、正直で真面目なことしか取り柄の無い私には、次期社長は夢のような話だったのだ。しかし、恩義ある社長に直接伝えたくて、ヨメ子と一緒に離婚を報告することにした。

約束の時間に社長室に行くと、社長秘書から部屋に案内された。勘違いかもしれないが、秘書は少し微笑んだような表情に見えた。「やっぱり、俺を小馬鹿にしてるのかな」と思ったが、どうせ今日で会社を辞めるので、あまり気にならなかった。社長には、「私が至らなかったせいで、お嬢様と離婚することになりました。詳しい理由は、お嬢様からお聞きください」と言うと、ヨメ子が「この人は不倫していたのよ。そんな不誠実な人とはこれ以上一緒に暮らせないわ」と全くの出鱈目でたらめを喋り始めた。「挨拶が済んだんなら、とっとと出て行って」とヨメ子がとどめを刺した。

「長い間お世話になりました」と頭を下げて出て行こうとした瞬間、「オレ君、ちょっと待ってくれ。出て行くのはヨメ子のほうだよ」と社長が意外なことを言い出した。「えっ」と私とヨメ子がシンクロした。社長は電話で秘書を呼ぶと、分厚い報告書を持った秘書が現れた。「これが報告書です」といって秘書が社長にその報告書を手渡した。「私はもう何度も読み返したが・・・。ヨメ子、読んでみるかい」と社長がヨメ子に報告書を手渡した。報告書を見たヨメ子の表情は見る見る青ざめ、その後蒼白となった。「これは何かの間違いよ!」と言って報告書を放り投げた。私が床に落ちた報告書を拾って、社長に戻そうとすると、「オレ君にも読んで欲しいんだ」と、その報告書を読むことを促された。

それは、ここ半年間のヨメ子の行動記録だった。特に、不倫があった日には、日時や状況が写真付きで詳しく報告されていた。社長は、「この報告書以外にも、動画や音声の証拠もあるんだ」と言った。実は、ヨメ子の方が堂々と不倫していたのだ。不倫が始まったのは、イケメン新入社員が配属された頃で、不倫の相手もその新入社員だった。ヨメ子はイケメン君が好みのタイプだったようで、私を追い出して再婚しようと画策したようだった。

ヨメ子が社長に言った。「実の娘になんてことしてるの、それでも父親なの!」とヨメ子は絶叫するが、社長は感情を押し殺して「実はお前は私の子供ではないんだ。母親も同じことをしたんだ。DNA鑑定の結果もある。父親が誰かは知らんが、遺伝とは恐ろしいな」としみじみと言った。ヨメ子はその場にへたり込んだ。

社長が続けて言った。「いま凄腕の離婚専門の弁護士を雇ったところだ。ヨメ子にはオレ君に慰謝料を払ってもらう。もちろん、私は金銭的な援助はしない」。「私に貯金がほとんど無い事は、お父さんも知っているじゃないの」というと、「母さんから相続した我社の株券があるではないか、それを全額、慰謝料替わりにオレ君に譲渡しなさい」。「それからこの報告書では、就業時間内に二人でラブホテルに行っているそうじゃないか。これは立派な服務規程違反に当たるので、お前もその部下(イケメン君)にも退職してもらう。新入社員には退職金はないが、お前には今後の子供の育児のこともあるので、自己都合退職扱いにして退職金だけは出してやろう」と言い放った。

社長が目配せすると、秘書がヨメ子を抱えて社長室から出て行った。ヨメ子が出て行った後、呆然とする私に社長が話しかけてきた。「オレ君、ヨメ子のことでは本当に迷惑をかけた」と深々とお辞儀をして謝罪してきた。「オレ君が優秀なことはよくわかっている。ヨメ子が取引先でしでかしたミスを何度も救ってくれていたのは、取引先から聞かされているよ。ヨメ子もいなくなることだし、辞めずに我社のために働いてみないか?。君は我社の大株主にもなる予定なので、まずはヨメ子の代りに部長になって欲しい。もちろん、ゆくゆくは社長だ」と言ってくれた。

「ヨメ子とは離婚するので、縁が切れるが、もしよかったら私の養子にならないか?」と提案された。この後、社長室で社長の半生が語られた。掻い摘んで説明するとこうだ。有能な社長は先代社長に認められ、先代社長の一人娘と結婚した。社長は後継ぎを期待されたが、中々子供はできなかった。社長は意を決して医療機関で調べてもらうと、自分が無精子症であることを告げられた。このことを先代社長に言えないまま数ヶ月経った頃、妻が妊娠した。先代社長は大喜びだったので、この事実は自分が墓場まで持って行くことを決意した。自分の子供ではないが妻に子供ができたことで、仕事に集中することができた。それまで傾きかけた会社は、現社長によって見事に復活した。当然だが、その後二子目ができることはなく、一人っ子のヨメ子はヨメ子母に甘やかされて育った。そして、結局こうなったわけだ。

ヨメ子は創業家から追い出された。風の噂によれば、女の子を出産したらしいが、今度はまともな娘に育つことを祈るばかりだ。私は、ヨメ子の傷が癒えた数年後、社長の遠縁にあたる女性と見合い結婚した。今度の嫁は、笑顔が似合う明るい女性で、ちょっと陰キャな私と対照的だ。養子縁組で本当に父になった社長とも、とても仲が良い。父は、来年生まれる孫を本当に楽しみにしている。

運命は時として残酷だ。しかし、正直に真面目に生きてさえすればなんとかなる。不倫なんて愚の骨頂だ。

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