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ゴマダラカミキリとプラタナス

 人生で初めて美しいと思った昆虫は、ゴマダラカミキリ(胡麻斑髪切)でした。黒光りしたメタリックボディに、白い斑点。さらには瑠璃色の脚と触角。ゴマダラカミキリのビジュアルは完璧です。しかし、ゴマダラカミキリの特徴は、何といってもその長い触角です。英語では、longhorn beetle (長い角の甲虫)といいます。ちなみにカブトムシは、rhinoceros beetle (サイ角の甲虫)、クワガタはstag beetle (シカ角の甲虫)です。

 遠い昔の保育園児の頃、私が通っていた保育園には大きな木が3本生えていました。その木には、夏前になると必ずゴマダラカミキリがやって来ました。後で知ったことですが、ゴマダラカミキリの幼虫はその木の中にいて、成虫になって木から出てきていました。やってくるのではなく、ずっと隠れていたのでした。確かに、その木には丸い穴がいくつも空いていたのを、ぼんやりと思い出しました。

 その木は、広い葉っぱを持つ広葉樹で、秋になると丸い実(?)のようなものを落としました。その当時は、木の名前に感心が無かったので、その木がプラタナスだと、ずっと後で知りました。しかし、私の中では長い間、『ゴマダラカミキリの木』として認識されていました。

 ゴマダラカミキリは、好みの食樹が広範であるため、都市部の街路樹・庭木・公園樹木でもよく見られ、カミキリムシ中で最も知られた種類の一つです。しかし、幼虫は生木の材部を食べて成長するため、幼虫に食べられた木はいずれ枯死します。そのため、ゴマダラカミキリは害虫として認識され、特に園芸関係者には目の敵にされています。

 ゴマダラカミキリは、立派な複眼を持っていますが、視力はあまりよくありません。そこで、あの長い触角を使って周囲を探索しています。交尾をするためにメスを探すときにも、この長い触角が頼りです。無事に産卵された卵は、やがて幼虫となり木の内部で木を食べて大きくなります。カミキリムシの幼虫時代の呼び名は、樹木と植物愛好家の天敵であるテッポウムシです。幼虫は木の幹を食べてトンネルのような穴を作るので、幹に鉄砲が通ったような細長い穴ができてしまいます。このことから、鉄砲虫と呼ばれるようになりました。

 フランチャイズ店なのかはわかりませんが、”髪切虫”という店名の散髪屋さんを何度か見たことがあります。私の他にもカミキリ好きがいて、ちょっと安心しました。しかし、子供の頃に大好きだったゴマダラカミキリが、こんなにも嫌われている害虫だったことを最近になって知り、少し複雑な気持ちになりました。

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