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絵の無いマンガ#5 『結婚詐欺』

私の現在の名前は佐々木アケミ、本職は結婚詐欺師だが、いまはS市の駅前にあるホームセンターでパートとして働いている。S市に来たのは、R市での”仕事”を終わらせた後だったので、かれこれ二月ほど前だ。ホームセンターでは、驚くほど簡単に採用された。面接のときに提出した履歴書は、全部デタラメだ。しかし、パートさんの履歴書を丁寧に調べるはずもなく、店長による簡単な面接の後に無事に採用された。

今回のターゲットは、ホームセンターの向かいにあるS市では大きな鈴木総合病院の一人息子だ。ターゲットの名前は鈴木ヨシキで、パート仲間の山田のオバちゃんによると、ボサボサ頭の眼鏡陰キャで、彼女イナイ歴イコール年齢らしい。昼食休憩の際に、鈴木病院のエントランス付近で観察していると、老人が白衣を着た人物に声をかけていた。「若先生、この前はありがとうございました」。「ゲンさん、もう調子はいいの?」。「若先生のお陰で、ピンピンしてますよ」。

ゲンさんと呼ばれた老人は、左手に包帯をしていたものの、顔色はよく、元気そうだった。どうやら、若先生は気さくな性格で患者に慕われているらしい。若先生は、昼休みらしく、ベンチで休憩していた。そこに、子供を連れた若い女性が通りかかり、白衣の人物に声をかけた。「若先生、この前は子供がお世話になりました」。「私が治したんではありませんよ。アッ君が注射を我慢したお陰ですよ。そうだよな、アッ君」と言って子供に声をかけた。やはり、この白衣の人物がターゲットの鈴木ヨシキに間違いないと確信した。パートの山田さんから聞いた風貌とも一致している。

ターゲットが決まれば、これから本番だ。私は、”若先生”の行動パターンを把握し、アプローチすることに決めた。鈴木と付き合うようになるには、そう時間がかからなかった。鈴木の女性の好みは、事前に把握していた。鈴木は清楚系の大人しい女性が好みらしいので、化粧は控えめなナチュラルメイクにし、髪は茶髪から黒髪に戻していた。

ある日の昼休み、鈴木がいつものベンチで休憩している時に、最初のアプローチを仕掛けた。私は立ちくらみを装って、ベンチの近くでしゃがみこんだ。医者である鈴木は、それを目聡く見つけ、私に近付いてきた。「大丈夫ですか?。すぐ目の前が病院なので、一緒に行きましょうか?」。「大丈夫です。ちょっと貧血気味で・・・。もう治りました」。「そうですか・・・。貧血には鉄分不足が関係しています。最近は良いサプリメントもありますから、お薦めですよ」とアドバイスしてくれた。これをきっかけにして、私は鈴木と言葉を交わすようになった。

鈴木は観葉植物が趣味のようで、ホームセンターにも時々顔を見せた。パートの山田さんとも顔見知りのようで、挨拶を交わしていた。鈴木との仲を徐々に深めていたある時、彼から交際を申し込まれた。その後も交際は順調に進み、程なくして彼から両親に会って欲しいと告げられた。ここまで来るのに3ヶ月ほどかかった。最近は、私の部屋に招待して、手料理を振舞うこともあった。彼は古風で家庭的な女性を好むのだ。

いよいよ、彼のご両親との面会の日、S市でも有名なフレンチレストランの個室で、顔合わせすることになった。私の両親は既に他界していると彼には伝えているので、彼と彼の両親と私の4人での会食となった。彼の両親は品のある老夫婦で、終始和やかに会話が弾んだ。彼の母親からは「こんなきれいなお嫁さんなら、お母さん大賛成よ。早く孫の顔が見たいわ」と言われた。「母さん、気が早いよ。まだ婚約をしてもいないのに・・・」。「あらまぁ、お父さんに似てノンビリ屋なんだから」。

彼の母親がおしゃべりで、会話も弾んだため、会食は3時間にも及んだ。彼と彼の両親に挨拶して、私は帰路に就いた。マンションのカギを開けて部屋に入ると、いつもと雰囲気が違っていた。私はあわてて、例の場所に隠してある”あるもの”を探したが、一枚の書置きを残して、全てが消えていた。その書置きには、”○○△△(私の本名)さん。これまで結婚詐欺で稼いだお金は全て回収しました”とだけ書かれていた。「やられた」。私は茫然として、その場に座り込んでしまった。

俺の仮の名前は鈴木ヨシキで、もちろん偽名だ。本物の鈴木ヨシキは外科の技術を学ぶため、単身渡米中だと聞いている。なので、本人と鉢合わせになることもなく、無事にミッションを完了したわけだ。佐々木アケミ(仮)は、単独の詐欺師だが、我々は詐欺グループだ。山田のオバちゃん、ゲンさん、若いお母さん、ヨシキの両親は全て詐欺グループの構成メンバーだ。実はゲンさんがリーダーで、今回のシナリオは全てゲンさんが書いたものだ。アケミ(仮)は結構貯めていて、全財産を金の延べ板として保管していた。今の金価格なら、総額で5000万円を超える金額だろう。これらの多くは結婚詐欺で稼いだ金なので、被害届を出すこともできないだろう。

さて、次はどこのサギ師をカモろうか。

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