水難で死にかけた3つの話
普通は何度も死にかけることは無いと思いますが、小さい頃に体験した3つの水難の話をします。まずは、3つの体験を思い出させた不思議な占いの話から始めます。
プロローグ:一子相伝の占い
大学院生の時でした。研究室に新しい4年生数名が配属されました。そのうちの一人と雑談していた時でした。「先輩、占いに興味ありますか?」と後輩が私に聞いてきました。「占いには興味ないけど、どうしてそんなこと聞くの?」と言うと、「実は僕、結構占いに詳しいんですよ」と胡散臭いことを言ってきました。その後輩の話を聞くと、次のような数奇な運命で占いの方法を伝授されたとのことでした。
大人しそうに見えたその後輩は、中学の時に超が付く不良で、自転車のチェーンを振り回して校舎のガラスを割っていました。そんなわけで、中学卒業後は自動車整備工場で働き始めました。その時の社長が占い好きの人だったそうで、断り切れずに仕方なく占ってもらったそうです。すると、その社長が占いの結果を後輩にこう言いました。「お前は、こんな場所に居るような奴じゃない。もっと活躍できる場所があるはずだ」。その言葉を信じて一念発起した後輩は、1年遅れて地元の進学高に進み、その後、私が通う大学に入学してきました。この話の後になりますが、その後輩は大学卒業後は、某有名企業に就職しました。
その後輩によると、この占いは三国志にでてくる諸葛孔明が考案した占いで、どこかの必殺拳法のように一子相伝だそうです。どうして中国の由緒正しい占いが、日本の田舎の社長に伝わったのか、経緯はいっさい不明です。これまでの話を聞いて、後輩の更生した話は真実としても、諸葛孔明あたりから胡散臭さがプンプンしてきました。後輩があまりにもしつこいので、占いに必要な生年月日(時間までわかると占い精度が上がるらしい)と、生まれた場所を渋々教えました。
次の日に、後輩が占いの結果を持ってきましたが、なにやら浮かない顔をしています。「なるほど、あまりいい結果じゃなかったんだな」と覚悟しました。占いを信じていないとは言いながら、結果は気になります。勇気を出して、後輩に占いの結果を聞きました。すると後輩が申し訳なさそうに言いました。「僕の占いによると、先輩はすでに死んでいます」。”お前はもう、死んでいる!”という有名なセリフはありますが、自分がそうだったとは・・・。
詳しく聞くと、こんな占い結果でした。占いによると、幼少期に最悪な運勢で、その頃に亡くなっていてもおかしくないのだそうです。その話を聞いて、幼少期に起こった3つの水難事件を思い出しました。1つ目は防火用水へ落ちて溺れそうになった事件、2つ目は井戸に落ちた事件、3つ目は海水浴で離岸流に流されそうになった事件です。もちろん、このブログを書いているのでまだ生きていますが、その時は死にかけました。この話をすると、後輩が納得したように言いました。「先輩、安心して下さい。その災難を乗り越えたのであれば、80歳辺りまで長生きするでしょう」。今のところ、大きな病気や怪我も無く、ノホホーンと生きています。
水難事件・その1:防火用水に落ちた話
まだ小学校に入る前の、4-5歳の頃だったと思います。近所に、一辺が2mくらいの防火用水がありました。その中央には、一辺が1mくらいの四角い島がありました。つまり、片仮名の”ロの字型”の防火用水でした。周りには柵はなく、時々その島に渡って遊んでいました。島までは50センチくらいですから、勇気を出せばジャンプして渡ることができました。
もちろんバカではないので、少し危ないなとは思っていました。でも、男の子はこの”小さなリスク”に憧れます。いつものように、中央の島に渡って、オヤツに持ってきたベビースターラーメンを食べていました。このベビースターラーメンが、この体験の元凶でした。詳しいことは忘れましたが、このオヤツが”ロの字型”の用水路に落ちてしまいました。最初は、島に俯せになって手を伸ばしますが、水面のオヤツまでには微妙に届きません。どうせ水に落ちて食べられないので、諦めればよいのですが、意地汚い性格なので何とか拾おうとして、今度は足で引き寄せようとしました。これが敗因でした。このあと、手を滑らせて防火用水に落ちてしまいました。
それから後のことは、記憶がすっぽりと抜け落ちています。あとで母から聞いた話では、近くを通りかかった高校生が気付いて、助けてくれたそうです。また、最近母から聞いた話では、水位は浅くて、立てるくらいの水量だったと言っていました。しかし、よっぽど怖かったんだと思います。何度思い出そうとしても、その時のことは思い出せませんでした。
後日、その高校生への御礼としてクッキーの詰め合わせみたいなのを、母と一緒に買いに行きました。御礼をしないといけないのは頭では分かっているのですが、普段は滅多に食べられない高級そうなクッキーが、自分の口には入らないことを考えて、もったいないなぁと思った事は、今でもよく覚えています。命が助かっても、意地汚さは変わりませんでした。
水難事件・その2:井戸に落ちた話
あれは、とても寒い真冬の出来事でした。今でも、その時のことはよく覚えています。小学校の1年生の時だったと思います。お正月に、祖母の家に家族で年始の挨拶に行きました。祖母の家には同居している伯父夫婦がいて、年の近い従弟がいました。私と弟とその従弟の三人で、家の周りで鬼ごっこをしていました。その時は、従弟が鬼の番で、私たち兄弟が逃げていました。
鬼に捕まらないように、ジグザグに逃げながら走っていたのですが、目の前に木のフタをした障害物が目に入りました。高さはそんなにありませんが、一度に飛び越えるには大きな障害物だったので、そのフタに乗って飛び越えようとしました。
その瞬間でした。足元がスコーンと抜けて、奈落の底にそのまま放り出されました。そのフタは思ったよりペラペラで、あとで見た時にはベニヤ板のようなもので、しかも一部が腐っていました。そこが井戸であることは薄々知っていましたが、まさかこんな薄い板だけでフタがされているとは夢にも思いませんでした。
我に返ると、そこは井戸の底でした。井戸には水が溜まっていましたが、晴天続きだったため水量は腰より下でした。たまたま、近くに井戸水をくみ上げるためのパイプがあったので、それにしがみ付きました。ヘマをした自分が言うのもおかしいですが、井戸の底でも割と冷静でした。弟が一緒に逃げていたので、”井戸への落下”は、弟が両親たちに知らせてくれました。
弟はまだ”井戸”という言葉を知らなかったので、親たちに「ニイちゃんがミゾに落ちた。ミゾに落ちた」と知らせたそうです。最初は、溝に落ちたぐらいで何を騒いでいるんだと思ったらしいのですが、弟が泣きじゃくりながら、あまりにも真剣に「ミゾに落ちた。ミゾに落ちた」と言うもんだから、やっと只ならぬ状況に気付いたそうです。
しばらくすると、父たちがやってきました。井戸の上から、こちらの顔を覗いていました。幸い、井戸は5m程度だったので、ロープを降ろして引っ張り上げてもらいました。真冬でしたが、井戸水なので井戸の中にいる時は全然寒くありませんでした。しかし、地上に戻ってくると、急に寒さを感じました。それからは、風呂を沸かしてもらったり、着替えを準備してもらったりと、周りの大人たちに大変迷惑をかけました。
井戸に落ちて、地上に戻るまでの時間は15分程度だったと思いますが、とても長く感じました。
水難事件・その3:離岸流に流された話
井戸に落ちた体験から時間は前後しますが、私がまだ小学校に入る前だったと思います。夏の暑い日に、父が海水浴に連れって行ってくれました。私が住んでいた田舎は、山もありますが、海も近くにありました。小学校の春の遠足は、小学校から歩いて海まで行って、そこで潮干狩りをするのが慣例でした。ですので、1-2年生は割と真面目にアサリやハマグリを捕るのですが、5-6年生は潮干狩りはほとんどしません。
この時は、父が通勤に使っていたスーパーカブ(原付)で、行ったような記憶が幽かに残っています。天気は快晴で、私はまだ浮き輪なしには泳げませんでしたが、浮き輪でプカプカ浮かびながら、ご機嫌に浜辺近くを泳いでいました。父は近くにいませんでしたから、浜辺でこの様子を眺めていたのかもしれません。
しばらくすると、それまでの晴天が嘘だったかのように、黒々とした雲が出てきました。風も急に強くなりました。少しヒンヤリしてきたので、岸に上がろうと泳ぎましたが、一向に岸につきません。それどころか、段々と沖の方へ流されていきました。今なら、これが離岸流だということがわかりますが、当時は何が何だかわかりませんでした。泳いでも泳いでも前に進みません。段々と怖くなりました。
このことにやっと気づいた父が、脱兎のごとく泳いで、私のところまで来てくれました。沖へ向かう方向は潮流と同じ方向ですから、ここまでは順調ですが、ここからが大変でした。父は浮き輪を抱えながら、岸に向かって必死の形相で泳いでいました。今でも、その時の逞しい父の姿は忘れられません。偶然だと思いますが、浮き輪と私を横に抱えながら泳いだため、斜めに進むことになりました。この偶然のおかげで、やっと離岸流から抜けることができました。岸に着いた父は、しばらく放心状態でした。
教訓です。離岸流に遭遇した時は、慌てずに斜めに泳ぎましょう。
エピローグ:悪運は強いが、水難は・・・。
最初の水難は、偶然通りかかった高校生によって防がれました。二度目の水難は、父と親戚によって助けられました。三度目の水難は、またまた父に助けられました。こうして、悪運の強い私は、3回の水難を無事に切り抜けました。しかし、水難とまでは行かないまでも、水に関するトラブルは続きました。
大学院生の時、新しく出来た大型プールに遊びに行きました。流れるプールや競泳用のプールもある、当時は珍しい施設でした。仲間数人と大型プールで泳いでいた時に、水中から急に誰かが抱きついて来て、水に沈めようとしてきました。いきなりの出来事に慌てたので、少し水を飲んでしまいましたが、体勢を立て直して、その犯人を確認しようとしました。たぶん、悪戯好きの仲間の一人だろうと思って顔を見たのですが、そこには”全く知らない人”の顔がありました。その人も驚いた顔をしていましたが、「間違えました!」と言って、逃げ去りました。おそらく、水中から忍び寄る際に、ターゲットを見誤ったようです。
最近は水難に見舞われることなく、ノンビリと暮らせています。”一子相伝”の占いによると、80歳までは生きそうなので、健康に気を付けて長生きしたいと思います。
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